43話 友達だから
「この辺りなら大丈夫か」
心は足を止める。
辺りは、少し暗くなり始めている。
後ろの一華とスズも止まった。
「ねえ、心。どういうことか説明してくれる?」
一華が心に言う。
あの後、急いで町を離れた心たち。
今は、町からかなり離れた場所まで来ている。
ここなら、休憩を取っても大丈夫だろう。
心は二人の方へ向き直る。
「町で人を探している奴に会った」
心はスズを見る。
「そいつが探してたのは金髪に緑の瞳の女だった」
その言葉にスズが表情を変える。
「スズ、心当たりはあるか?」
「──はい」
頷くスズ。
「知り合いか?」
その問いに首を横に振るスズ。
「やっぱりな。言わないでよかった」
「ねえ、どういうこと?」
一華が眉をひそめて訊く。
「あいつが探していたのはスズ、お前だよな?」
「──はい、そうです」
「でも、お前はそいつのことを知らない」
「──はい」
「お前、追われてるのか?」
心のその問いに、スズは驚いたように顔を上げる。
「なぜ……」
「お前、町の中でフード被っていたじゃねーか。それでだよ」
「よく、見ていらっしゃいますね……」
「お前、なんで追われてるんだ?」
心は問う。
スズが口を開こうとする。
しかし。
「──そいつが、『ウタカタ』だからだ」
問いに答えたのは、別の声だった。
バッと後ろを振り返る心。
そこにいたのは、さっきのフードを被った少年だった。
「お前──!」
「やはり、跡をつけて正解だった」
少年は、こちらに歩み寄ろうとする。
その手には、短刀が握られていた。
ギラリと光る刀身。
紛れもなく真剣だ。
心は身構える。
「──何故、庇う?」
少年は足を止めて言った。
「友達を守るためだ。そんなにおかしなことか?」
「──友達、だと?」
馬鹿にしたような声を出す少年。
「言ったはずだ。そいつはウタカタ。──この国の膿だ」
「国だの、ウタカタだの、知ったことか」
少年を睨み、心は言う。
「こいつは、俺の友達だッ!!」
そう叫び、心は走り出す。
「──っ!」
心の拳を、両手を交差させ防ぐ少年。
だが、耐えきれず後ろに吹き飛ぶ。
心は後を追わず、その場で後ろに向けて言う。
「スズ、一華! 今のうちだ! 逃げろ!」
「で、ですが──」
スズが躊躇するように言う。
「いいから早く行け!」
振り返って叫ぶ心。
「スズ! 行こう!」
スズの腕を引く一華。
「心! どうか、ご無事で!」
腕を引かれながら、スズは言う。
心はスズに向けて、笑って頷く。
『心!』
イチヤが叫ぶ。
直感に従い、心は頭を下げる。
直後、心の頭があった場所を、短刀が通り過ぎる。
「っ!? くそ!」
攻撃を避けられた少年は悔しそうに口を歪める。
「腹が、がら空きだぜッ!」
無防備になった少年の腹に向けて、霊装を纏った拳を思いきり叩き込む。
「ぐ、ッ!」
それをまともに受け、吹き飛ぶ少年。
だが、受け身を取り、すぐに起き上がってくる。
「ぐ──れ、霊装、か。──少し、舐めすぎたみたいだ」
顔を歪め、少年が言う。
「舐めてると、死ぬぜ」
再び身構え、心は言う。
「──なら、本気を、出してやるよ」
少年は顔の前で、人差し指と中指を立てる。
「〝雷行〟」
少年がそう唱えると、その体に雷が走る。
『──心』
イチヤが警告する。
「わかってるさ。──あいつ、強いな」
心は不敵に笑った。
互いに睨み合い、そして。
「〝気力〟!」
「“瞬雷”!」
心の全身を魄が覆う。
少年の体に纏う雷が大きくなる。
バチっという音を立て、少年の姿が消えた。
『来るぞ!』
「ああ!」
心は地を蹴り、後ろへ飛び退る。
さっきまで心が立っていた地面が、大きく抉れる。
少年が、目にも留まらぬ速度で踵落としをしたのだ。
心が避けたのを見ると、少年はすぐさま身を屈め、追撃に移ろうとする。
「させるか! “B”!!」
心の掌から、魄の弾が発射される。
少年は追撃を止め、横に飛び退き回避する。
その隙を見逃さない心。
「“C”!」
すかさず叫び、砲弾のように飛び出す心。
一瞬で少年の前に辿り着くと、頭上から拳を振り下ろす。
「──“A”ッ!」
その拳は、少年の頭部に直撃する。
だがその感触は、何か硬いものを殴ったかのようだった。
霊装だ。
霊装で防がれたのだ。
「──“雷掌”!」
少年が叫ぶ。
それと同時に、腹に衝撃が走り、心は後ろへ吹き飛んだ。
「ぐっ……!」
苦痛に呻く心。
『心、大丈夫か!?』
イチヤが焦ったように叫ぶ。
起き上がろうとするが、体が痺れて動けない。
「ちっ、くそッ……!」
顔を歪める心。
少年が歩み寄ってくるのが見える。
「──効いたぜ、お前の一撃」
ふらつきながらも、歩いてくる少年。
短刀を持ち上げる少年。
「今ここで殺すのは惜しいが……お前のせいで、ウタカタを殺し損ねた。死んでもらうぜ」
心の前まで来て、短刀を振り上げる少年。
その時。
「──“落星”っ!!」
凛とした声が響き、誰かが飛び出してくる。
「ちッ!」
舌打ちをし、短刀で防ごうとする少年。
しかし、霊装を纏った強烈な一撃に、短刀が砕け散った。
「ッ!?」
驚く少年。
しかし、驚きの声を上げる前に、第二撃が少年の右肩を打ち据える。
「ぐッ!!」
うめき声を上げ倒れる少年。
「心、大丈夫!? 心!」
「い、一華か……」
聞き覚えのある声に、心は安堵のため息を吐く。
「お、お前、木刀で鉄を砕くなんてな……」
「そんなことより、大丈夫なの!?」
心配そうに心を覗き込む一華。
「悪い、立てそうにねえ。肩貸してくれ……」
「わかった」
心の言葉に頷き、立ち上がらせてくれる一華。
「……おい、お前ら……」
その声に驚く二人。
少年はまだ意識があった。
「覚えて、おけ。俺の名は、エイジ……。この借りは、必ず、返すからな」
息も絶え絶えにそう言い残し、エイジと名乗った少年は気絶した。
「……こいつ、どうする? 捕まえるか?」
心は、倒れるエイジを見る。
一華は首を振って言った。
「放っておこう。二日、三日の間は動けないはずだから」
「──そうか」
心はエイジから視線を外す。
「取り敢えず、スズと合流しよう」
一華が言う。
「スズは、無事か?」
「うん。心のこと心配してたよ」
「悪いな、心配掛けちまって……」
「大丈夫だよ」
首を振る一華。
「お前が来てくれなきゃ危なかった。助かったぜ、一華」
「間に合ってよかったよ」
素直に礼を言う心。
一華は照れ臭そうに言った。
「あと、一華」
「ん? 何?」
「悪い。俺、気絶するわ」
それと同時に、心の意識は真っ暗になった。




