39話 町にて
「あれ、あいつら、どこ行った?」
心は辺りを見渡す。
さっきまで一緒にいたスズと一華の姿が見えない。
いつの間にかはぐれてしまったようだ。
「ったく、世話の焼ける奴らだな」
やれやれと首を振る心。
『──心にだけは、言われたくないと思うよ』
溜め息混じりに、そう言ってくるイチヤ。
町に到着した心たちは、食糧を調達するために市場に向かった。
しかし、人混みに呑まれてバラバラになってしまったようだ。
「仕方ねえな。探すか」
『あ、心、そっちは路地──』
「うるせえ」
イチヤの言葉を無視して路地に入り込む心。
大通りと違い、路地の中はしんと静まり返っている。
「こっちだろ」
適当に歩き出す心。
『どこに行けばいいか分かってるのか?』
「いや、適当だ。歩いてりゃ見つかるだろ」
心の言葉に溜め息を吐くイチヤ。
「なあ、イチヤ」
『なんだい?』
歩きながらイチヤに話しかける心。
「あいつらがいない間に訊いときたいんだけどよ」
『一華のことかい?』
「そうだ」
心は頷く。
「スズにはお前の声が聞こえなかった。でも、一華には聞こえた」
『『魂魄』が使える、っていうのが聞こえる条件だとすると、スズも当てはまるはず』
「でも、聞こえていなかった。どういうことだ?」
『そうだね……』
少し考え込むイチヤ。
『その条件自体が間違っている、とかかな』
「『魂魄』じゃねえ、ってことか」
『うん。そうとすると何か別の条件があるんだろう』
「実辰たちには聞こえてた。一華も。あいつらにあって、スズにないもの」
『──もしかして『人柱』だからか?』
イチヤが言う。
「そうすっと、一華も『人柱』ってことか」
『わからないね。本人に訊いてみないと』
「だけど、危なくねえか? 『人柱』だと思って聞いたら全く違った、ってこともあり得る」
『最悪の場合だと、〈黒の使徒〉の刺客、とかね』
その言葉に顔を顰める心。
思い出すのは、奏鳴剣人に化けていた〈黒の使徒〉の『ルナ』という存在だ。
『あんなことが無いよう、今後は慎重にいかないとね』
「そうだな」
頷く心。
「見つかんねーな」
『こんなことなら、水晶指輪の連絡先交換しておくべきだったね』
「ああ、合流出来たらやっとくか」
この世界にも水晶指輪がある。
「しっかし、なんであいつら出ないんだ?」
心はこの世界に来てから、実辰たちに連絡を送り続けている。
だが、一向に出る気配がない。
『異世界だと繋がらないんじゃないか?』
「そうかもな」
そんな話をしながら心は歩く。
「お」
ふと足を止める心。
目の前に人が立っていた。
相手も心に気付いた様子で顔を上げる。
全身を覆うマントを羽織っていた。
フードの陰から薄く輝く緑の瞳が見える。
どうやら心と同じ年ぐらいの少年の様だ。
「なあ、人を探してるんだ」
先に声を出したのは、マントを羽織った少年の方だった。
口に出そうとした言葉とほぼ同じ言葉を言われ、戸惑う心。
「緑の瞳に、薄い金髪の女だ。知ってるか?」
心はこの世界に来てからのことを思い出す。
そんな人は一人も見ていない。
ただ、一人を除いて。
スズのことだ。
そう直感する心。
「いや、見てねえな」
嘘をつく心。
「そうか。呼び止めて悪かったな」
そう言うと少年は、心の脇を通り抜けて去ってしまう。
心はその少年が見えなくなるまで動かなかった。
そして足早に歩き出す。
『心、何故嘘を?』
心に訊くイチヤ。
「あいつ、嫌な感じだった」
『嫌な感じ?』
怪訝そうな声を出すイチヤ。
「ああ、スズが危ねえ、かもしれない」
『なんで、そんなことを?』
「お前、見てなかったか? 町に入ってからスズはフードを取ってねえ」
スズは町に入るときにフードを被っていた。
何の目的があって街中でフードの被るのだろうか。
『そう言えば、スズは僕たち以外に素顔を見せてない』
ここ数日を思い返すようにイチヤは言う。
それを聞き、心は確信する。
「あいつ、何か隠してるぜ」
『問い質すつもりかい?』
「いや、そんなのは後だ。あいつを連れてこの街を離れるぞ」
そう言うと、心は路地の向こうから差す光に向かって走り出す。
そして、路地を抜け──
「うお!?」
「わ!?」
誰かと鉢合わせする。
「危ね! 大丈夫か──って」
ぶつかりそうになった者の顔を見て驚く。
「なんだ、一華か」
「なんだ、じゃないでしょ。心配したんだから」
腰に手を当て、一華が呆れたように言う。
「まったく、勝手にどこか行かないでよ」
「悪い、一華。説教なら後にしてくれ。スズはどこだ?」
「ここにいますよ」
心の言葉を聞き、一華の後ろからひょっこりと顔を出すスズ。
その顔を見て心は安堵する。
「お前ら、今すぐこの街を出るぞ」
「ちょ、はぐれておいて、そんな勝手な──」
そう言いかけた一華は、心の顔を見て顔を固くする。
「緊急事態だ。行くぞ」
心の言葉に頷く一華とスズ。
心は、二人を連れて足早に歩き始めた。




