37話 実戦
「連れてきたぞ!」
隼人は狼型の魔獣に追い掛けられていた。
大声で叫ぶ隼人。
すると、前方の茂みから人影が飛び出してくる。
人影は走る隼人とすれ違うと、魔獣に向かって走り出す。
「〝轟雷〟!」
人影が叫ぶと、その体が電気を帯びる。
そのまま魔獣に突っ込む人影。
魔獣は噛み付こうとするが、人影は地を蹴り、宙を舞う。
跳躍で攻撃を躱した人影は、空中で身をよじり逆さまになると、手を伸ばして魔獣の背に触れた。
「──“雷撃”!」
叫ぶ人影。
雷撃が放たれ、魔獣の体を伝う。
怒りと苦痛に咆哮を上げる魔獣。
人影は跳んで魔獣から距離を取ろうとする。
魔獣はふらついているが、まだ立っている。
怒りに満ちた目で人影を見る魔獣。
魔獣はまだ着地していない人影の方を向くと、足をかがめ跳び出す姿勢を取る。
「日和、危ねえぞ!!」
隼人は叫ぶ。
だが、着地は間に合わないだろう。
「〝暴風〟、“噴射”!」
隼人が叫ぶと、足の裏から風が吹き出し、隼人は宙に浮く。
そのまま魔獣に向かって飛ぶ隼人。
魔獣は接近する隼人に気が付き、振り返ろうとする。
その眉間に狙いを定めて──
「“風撃”!」
隼人は、風を纏った拳を叩き込んだ。
白目を剥き倒れる魔獣。
隼人は地面に着地する。
「日和、大丈夫か?」
無事に着地した日和がこちらに歩いてくる。
「うん。ありがと、隼人」
髪を払い、笑みを浮かべる日和。
その眩しい笑顔に隼人は少し目を逸らす。
「そ、そうか、よかった」
その頬は少し赤い。
「ん? どうしたの?」
「いや、なんでもない。シノさんのとこ帰るぞ」
慌てて背を向ける隼人。
最初に会った夜は光もなく、顔もよく見えなかった。
だが、次の日起きて隼人は驚いた。
そばで寝ていた少女が、とんでもない美少女だったからだ。
隼人も年頃の少年なのだ。
それ以来、まともに日和の顔を見れていない。
「あ、お帰り。どうだった?」
シノが設営したキャンプに辿り着く二人。
石に座って本を読んでいたシノは、二人を見て手を振る。
「デカい狼みたいなの倒したぜ」
成果を報告する隼人。
「へえ、それって結構強い種類よ。苦戦した?」
「私の“放電”じゃ気絶しませんでした」
日和が手を握って言う。
「なるほど、更に強化が必要ね」
シノは顎に手を当てると思案気な顔をする。
「本当はもう少し後に教えるんだけど、君たち飲み込み速いし、もういいかしら」
そう言い立ち上がるシノ。
「二人とも、全身に『霊装』やって」
言われた通り『霊装』を全身に纏う二人。
「うん、完璧」
昨日、丸一日使ってシノから『心体技』を伝授された隼人と日和。
その飲み込みの速さにシノは驚愕していた。
常人ならば、十年掛かってもおかしくないらしい。
そして、今日は実戦訓練も兼ねて、魔獣と戦っているのだ。
食べるもの以外を殺すことは禁止された。
だが、と隼人は思う。
魔獣は強い上に、タフすぎる。
隼人たちといい勝負をする魔獣を、殺すことなどまず出来ないだろう。
「じゃあ、隼人くん。『魄練』をやって」
シノに言われた通り、掌の上に風を生み出す隼人。
「じゃあ、それに『霊装』を混ぜてみて」
隼人は目を閉じる。
『風』を構成する魄に、『霊装』を混ぜ込むイメージ。
「こうか」
すると風の勢いや大きさが格段に増す。
「うお! すごいな、これ」
「でしょ。じゃあ、次は日和さん」
「は、はい」
日和も掌の間に『雷』を出す。
そして目を閉じる日和。
その彫刻のような美しい顔に、隼人は思わず見惚れてしまう。
少しして、日和の掌の間の雷が、激しい音を立てて大きくなる。
「す、すごい……」
感嘆の声を上げる日和。
「これが『魄練』の基本的な使い方よ。これで『魄練』は格段に強化されるの」
シノは言う。
「これなら、もっと強い奴も倒せるな……!」
隼人は手を見て言う。
「じゃあ、もう一回行っておいで」
「おう!」
「行ってきます!」
日和と共に、隼人は再び森へ向かって走り出した。




