34話 『体』
「ふぁふぃがふぉうな。ふぇしまふぇふぉらっちまって!」
食べ物を口に詰め込み、心と名乗った少年はふがふがと何かを言っている。
それを、呆れた目で見る一華とスズ。
『心、噛み終わってから喋りなよ』
ため息混じりにそう言うのはイチヤだ。
イチヤの魂は、心の魂と融合してしまっているらしい。
だから、声が聞こえるのに姿が見えないのだ。
イチヤの言葉に、心は食べ物をごくんと飲み込む。
「ありがとうな。飯まで貰っちまって!」
そう言って笑う心。
「いいんですよ。困ったときはお互い様ですから」
首を振って言うスズ。
「そうか。悪いな」
「それで、そのイチヤさんのことですが……」
スズは困ったように言う。
「一華は、本当にイチヤさんの声が聞こえるんですね」
「うん、はっきりと聞こえる」
頷く一華。
どうやら、スズにはイチヤの声が聞こえないようなのだ。
それで疎外感を感じているのか、少し寂しそうなスズ。
「しかし、一華も異能世界から来たんだってな」
そこで、空気を読まずに発言する心。
「でも、帰る方法がわかんないなんてな。マジで困ったぜ」
『けど、同じ境遇の人が見つかったのは幸運だよ。きっと帰れるさ』
頭を抱える心を、イチヤが励ます。
「スズ、食糧は大丈夫?」
一華はしょんぼりとしているスズに声を掛ける。
すると、わかりやすくパッと顔を輝かせるスズ。
「はい! 少なくなってきました!」
笑顔で残りの食糧を確認するスズ。
──そんな笑顔で言うことだろうか。
「近くに町とかあるかな。そこで調達しなきゃね」
「ありますよ。行きますか?」
「そうしようか」
頷き合う一華とスズ。
「お、どっか行くのか?」
その様子に気付く心。
「食糧調達しに町に行こうと思って」
「俺も行くぞ」
一華がそう言うと、すかさず言う心。
「では、皆さんで行きましょう!」
手を合わせて、楽しそうにスズは言った。
一華と心は目的が同じということもあって、行動を共にすることにした。
スズも人数が増えて、とても嬉しそうだった。
「なあ、スズ。今度は『体』ってやつを教えてくれよ」
歩きながら、心がスズに話しかける。
「はい、分かりました」
頷くスズ。
昨晩のことだ。
同じ『魄』を使えるということで話題に上がったのが、その『心体技』だ。
一華はその言葉に全く聞き覚えがなかった。
心も初めて聞いたようだった。
スズが言うには、『心体技』は『魄』を扱う上での基礎的なものらしい。
一華と心は昨晩、スズから『心』について教わった。
スズ曰く、『心』とは魄の流れを感じ、掴む事らしい。
能力の相性もあり、習得は心の方が早かった。
「『体』は『心』で掴んだ流れを、体の内外に流すことです」
「内外、ってどういうこと?」
一華は首を傾げる。
「血管をイメージしてください。血液が血管を流れるのと同じように、体の『内側』を魄が駆け巡る感じです。すぐには出来ないと思いますが──」
「こうか」
「あ、あら?」
すぐに出来ないと言おうとしたスズを遮り、心が言う。
慌てて心の方を見るスズ。
「す、すごい……完璧です、心」
「お、そうか」
「スズ、こう?」
一華もスズに見てもらう。
「……お二人とも、もしかして初めから出来てましたか?」
「今日が初めてだぜ」
「私も」
二人のその言葉にガクリと項垂れるスズ。
「そ、そんな。天才と呼ばれた私でさえ、習得に三年ほどかかったのに……」
「ご、ごめん。悪いことしちゃった……?」
「いえ、お二人が私を越える天才だっただけなんです……」
恐らく、一華の習得の速度が異常なのは、一華が『人柱』だからだろう。
心の場合は、何故だかよくわからないが。
「お、これすげえな」
『そうだね。身体能力がとんでもなく上昇してる』
その心は、イチヤと何かを話してる。
「おい、スズ! 外の方も教えてくれよ!」
「は、はい」
慌てて心の方を向くスズ。
「次は、『鎧』をイメージしてください。魄で出来た鎧を身に纏うイメージです。習得には『内側』と同じくらい時間が掛かるんですが──」
「おっ、こうか?」
「こうかな」
「──」
次々と習得していく一華と心に、絶句するスズ。
「なあ、これ名前とかないのか?」
「な、名前ならあります。『内側』と『外側』を合わせて使うことを『霊装』と呼びます」
「『霊装』、か」
『内側』と『外側』の両方に魄を流して一華は呟く。
「うぉおおお!? すげぇ、力が漲ってくる!」
心が興奮して叫ぶ。
心の言う通り、『霊装』を纏うと、力が溢れ出てくるような感覚がある。
「なあ、それで、お前はどうやって俺たちの魄を見てるんだ?」
スズに訊ねる心。
「これは、『霊装』の応用技で、『幽眼』と言います。目に『霊装』を使用するんです。これを使うと魄が見えるようになります」
「『幽眼』か!」
心は目を閉じ、再び開ける。
「おお、すげえ! 確かに見える!」
一華も目に魄を集中させて、『幽眼』を使ってみる。
普段見えてる景色と重なって、ぼんやりと魄が見えた。
「すごいね、これ」
感嘆する一華。
「お二人とも、もう習得されてしまうとは……」
溜め息を吐くスズ。
「『霊装』の『内側』は身体能力を上げ、『外側』は頑丈さを上げています。両方使わないと危険なので気を付けてくださいね」
「危険ってのは?」
一華は訊く。
「『内側』だけ上げると、力に耐えきれず怪我をしてしまうかもしれません。『外側』だけ上げれば相手に追い付けず、ダメージを与えることが出来ないでしょう」
「なるほどな、両方大事ってことだ」
手を握りながら言う心。
その言葉に頷くスズ。
「お二人の『霊装』と『幽眼』の熟練度はまだ高くないです。日々の修行を欠かさないことで熟練度は上がるので、忘れないでくださいね」
「わかった。ありがとうスズ」
「ありがとうな!」
スズに礼を言う一華と心。
「それじゃ、さっそく町まで競争しようぜ!」
『おい、心──』
そう叫ぶと、心は明後日の方向へ走って行ってしまう。
何か言い掛けてたイチヤの声が、あっという間に聞こえなくなる。
「あ、心! そっちは町じゃないですよ!!」
その後を慌てて追いかけるスズ。
苦笑しながらも、一華はそれに続いた。




