33話 互いの思惑
充は廊下を歩きながら思案する。
考えているのは、異能世界への帰り方だ。
転移装置がある場所まで行ければ何とかなるのだが、海賊船に乗ってしまっているため、それは難しいだろう。
それにしても、あのミシェルが海賊団の船長とは驚いた。
だが、最後に充を吹き飛ばした実力を見れば、それも頷ける。
相当手加減されていたが、本気の威力をまともに食らえば、ただでは済まないだろう。
そんなことを考えていると、自然と最後に見た瑠香を思い出してしまう。
シーツから覗いていた瑠香の白く眩しい素肌。
そして、その細く美しい肢体。
そこまで考え、充は顔を赤くし慌てて首を振る。
一体何を考えてるのだ。
瑠香は、守るべき存在ではないか。
(それに、俺は……)
充は拳を固く握る。
(そうだ。俺が『人柱』の保護に協力したのは……)
その時。
「充くん?」
充の背後から声が掛かる。
後ろを振り返る充。
「──ミシェルか」
「ん、そうだよ。どしたの、怖い顔して」
目を細めて、こちらを見透かすように薄く笑うミシェル。
「瑠香の特訓は、どうだ?」
「取り敢えず『心』は終わったよ。なかなか筋がいいね、あの子」
「──そうか」
顔を背けて充は言う。
「それじゃ、アタシはもう寝るねぇ。君もご飯食べたら、早く寝なよ」
「──おい」
手を振りながら去って行くミシェル。
その背中に充は声を掛ける。
「ん~、なぁに?」
振り向かずにそう答えるミシェル。
「なぜ、瑠香の特訓を引き受けてくれた? 正直言って、あんたに利点があるとは思えない」
「君、自分で頼んでおいて、そんなこと言う?」
肩を竦め、やれやれという風に首を振るミシェル。
ミシェルに頼んだことに、深い意味があるわけではない。
ちょうどよかったから。
ただそれだけだ。
断られると思って頼んだのに、あっさりと承諾されて拍子抜けしたくらいだ。
「なぜ、引き受けた?」
もう一度問う充。
少し沈黙しミシェルは口を開く。
「利用できそう、そう思ったからだよ」
「何を、するつもりだ?」
「別にぃ、なぁんにもしないよ? 強くなってくれれば、それでいいの」
「戦わせる、つもりか」
「うん」
あっさりと頷くミシェル。
「あいつは」
「──道具じゃないって?」
充の言葉を先回りして言うミシェル。
「そんなこと、君に言われたくないなぁ」
「──っ」
そう言われ言葉に詰まる充。
──見抜かれている。
充の方を振り返るミシェル。
その鋭い目に、一歩下がってしまう充。
「君だって、あの子を戦わせるつもりでしょ?」
「……」
「しかもそれ、復讐のため、とかでしょ」
「……なぜ」
「どうして分かるかって? そんなの目を見れば分かる。君の目は、何かをただひたすらに憎み続けている目だ」
「……」
黙り込む充に向けて、更に言葉を掛けるミシェル。
「私は、この世界を救いたいの。この世界で苦しむ全ての人を。君一人の私怨からくる復讐心と一緒にしないで」
「やめろ」
ミシェルを睨む充。
その瞳を見てミシェルは酷く悲しそうな顔をした。
「ごめん。言いすぎた」
そう言い、顔を背けるミシェル。
「あの無邪気な子を利用するのは心苦しいわ」
悲しそうに呟くミシェル。
「でも、私は救わなきゃいけないの。私の信念、私の、『正義』の名において……」
そう呟くと、ミシェルは背を向けて歩き出す。
完全にミシェルが見えなくなるまで、充はその背を睨み続けていた。
「──くそッ!」
行き場のない怒りを込めて、強く拳を握り締める充。
その拳に、血が滲んだ。




