29話 聖教世界
「もぉおおおおお! いやぁ!」
「にゃはははっ! 笑えるにゃあ!」
「笑い事じゃ、ないってば!」
実辰は走っていた。
猫耳が生えた少女と一緒に。
──人間くらいある、巨大な蟻の大群に追われて。
ユナイテッドの試験を合格した実辰。
『転移結晶』なるものに触れたところまでは覚えてる。
しかし、その後の記憶がない。
そして、次に目を覚ました時には森の中にいたのだ。
森の中を彷徨っていた実辰。
すると、正面から少女が走ってくるのが見えたのだ。
その少女に、猫耳が生えていることに驚く実辰。
だが、それ以上に衝撃的な光景が実辰の目に飛び込んだのだ。
なんと少女は巨大な蟻の大群を引き連れ、こちらに向かって走っていたのだ。
顔を真っ青にして、猫耳少女と一緒に逃げる実辰。
そして、今に至ると言う訳だ。
「ちょっと! あれ、なんとかしてよぉ!」
後ろを指して、半狂乱になりながら猫耳少女に言う実辰。
「にゃはははっ! 無理だにゃ! 諦めるのにゃあ!」
実辰とは違い、猫耳少女は笑っている。
と言うか、大爆笑している。
「いやぁあああああああああっ!」
実辰は悲鳴を上げながら走る。
正面に光が見えてきた。
もうすぐ、森を抜けられる。
その時、実辰は見た。
二人の少年だ。
道を歩いてる。
実辰は助けを求め、声を張り上げた。
「た、助けてぇええええええっ!」
そう叫ぶ、声が珠輝の耳に届く。
「なんやぁ、あれ」
リーもそちらの方を見て言う。
二人の少女がこちらに向かって走ってくる。
更に、地響きのようなものが聞こえてきた。
その原因を見つける珠輝。
蟻の大群だ。
それも、巨大な。
「あれは?」
リーに訊く珠輝。
「オオグイアリ。雑食だから何でも食うで。──人も」
そう答えるリー。
それを聞き、珠輝は地面に手をつく。
「助けるん?」
「ああ」
珠輝は集中し始める。
広範囲を砂に変えるイメージをする。
少女たちがある地点を越えた。
それと同時に、珠輝は『力』を解放する。
地面が砂に変わり、うねりながら蟻たちを飲み込んでいく。
「さっすが~」
口笛を吹くリー。
「大丈夫か?」
珠輝は二人の少女の元へ歩み寄る。
肩で息をしている二人。
「おかげで助かったにゃん。 ありがとうにゃ!」
よく見ると少女の一人は猫耳が生えている。
こげ茶色の巻き毛を長く伸ばし、はしばみの瞳を輝かせている。
恰好は旅人のようだ。
「た、助かった……」
もう一人の少女が息を吐く。
黒目黒髪で、髪をツインテールにしている。
かなり小柄だ。
そして、服装は珠輝も見覚えがある現代的なものだった。
珠輝はツインテールの少女の指に嵌まっている物に気が付く。
それは、珠輝がユナイテッドからもらった『強制帰還装置』と酷似していた。
「君は……」
「取り敢えず、ここ離れん? あの蟻、また襲ってくるかもしれんし」
少女に声を掛けようとする珠輝を止めるリー。
その意見に頷く珠輝。
「そうだな。歩けるか?」
「大丈夫にゃ」
「う、うん、私も……」
そうして四人でその場を離れることになった。
「え、珠輝さんもユナイテッドから!?」
「ああ」
珠輝と名乗った眼鏡をかけた少年は、実辰の言葉に頷く。
ここは先ほどの森から大分離れている。
そこで、それぞれ名を名乗ったのだ。
「つまり、二人は同じとこから来たってことかいな?」
そう言うのはリーと名乗った関西弁の少年だ。
「ああ、そうみたいだ」
「それで珠輝さん──」
「珠輝でいいぞ」
「あ、ボクもリーでええで」
「わかった、私も実辰でいいよ。それで、帰る方法とかは……」
実辰の言葉に首を振る珠輝。
「残念だが、まだ見つかってない。この強制帰還装置さえ動いてくれればいいんだが……」
「ま、動かんもんはしょうがないやろ。それより、そっちのキミやけど」
そう言うとリーは猫耳の少女の方に目を向ける。
「あ、やっと気付いてくれたにゃ。忘れられたかと思ったにゃ」
ボケー、とあらぬ方向を見てた少女はこちらに視線を向ける。
「私、ティアって名前にゃ。アニマーレ王国から来た、かわいいかわいい猫の亜人ですにゃ」
気の抜けるような自己紹介をする少女。
「アニマーレ王国? 聞いたことないなぁ」
首を傾げるリー。
「あったり前にゃん! だって私、異世界から来たんだからにゃあ」
「異世界から? そら知らんはずだわ」
納得したように頷くリー。
「それで、お前たち、なんであの蟻に追いかけられていたんだ?」
珠輝が実辰たちに訊く。
「ああ、それは私のせいにゃ。間違ってあの蟻の巣に足を突っ込んじゃったのにゃ。それで逃げてたところ、ミトキに会ったんだにゃん」
「そうか、災難だったな」
主に実辰に向かって言う珠輝。
全くだ。
溜め息を吐く実辰。
「それで、実辰たちはこれからどうするつもりなんだ?」
珠輝が実辰たちに問う。
「一緒に連れて行ってくれると助かるんだけど……」
「そうか。別に構わないが、俺たちも当てはない。それでもいいか?」
「うん、誰かといた方が安心できるから……」
「そうか」
実辰と珠輝で話を進める。
「それで、お前は?」
ティアの方を見る珠輝。
「私も一緒に行くにゃん! 行く当てもないにゃん!」
元気に言うティア。
「なんか、賑やかになりそうやな……」
リーの呟きに珠輝が溜め息を吐いた。




