28話 交差
「あら、目が覚めました?」
飛び起きる一華。
そんな一華に、どこからか声が掛かる。
周りを見回す。
声の主は、すぐそばの石に座っていた。
それは、薄い金髪を長く伸ばした少女だった。
体をゆったりと覆うマントを身に着けている。
綺麗な薄緑の瞳で優しげに一華を見る少女。
「ありがとう。これ、あなたが?」
一華は自分に掛けられていた毛布を持ち上げる。
「いえいえ、気にしなくていいですよ」
首を振る少女。
「具合はどうですか? 道に倒れていたので……」
「ああ、大丈夫、みたい。ありがとうね」
手足を動かして様子を見る一華。
特に痛むところなどはない。
「そうですか。それはよかった。……それよりも」
少女は地面に置かれた一華の木刀を指す。
「この『カタナ』。もしかして、『サムライ』の方ですか?」
目を輝かせて言う少女。
カタナ?
サムライ?
もちろん一度は聞いたことのある言葉だ。
だが、何故ここで出てくるのだろうか。
「あ、私は、サムライとかじゃ、ないんだけど……」
キラキラとした目で見てくる少女に申し訳なさそうに言う一華。
「まあ、そうなんですか? では、一体どこから?」
少しだけ残念そうに見える少女。
「『異能世界』ってところから来たんだけど……」
「あら、異世界の方でしたか」
納得がいった顔をする少女。
「やっぱり異世界か……」
顔を顰める一華。
ユナイテッド側のトラブルかなにかだろうか。
「それで、元の世界に帰ることって出来ないかな」
「そうですねぇ。異世界に行く方法は聞いたことがないですね……」
頬に手を当てて言う少女。
「そっか、ありがとう。何かお礼とかは……」
「大丈夫ですよ。当たり前のことをしたまでですから」
微笑む少女。
「その代わりと言っては何ですが……」
「ん?」
「私も、あなたの旅に同行させてもらえませんか?」
手を合わせて言う少女。
「え、いいの?」
「はい! 行く当てもありませんし。──駄目でしょうか」
首を傾げる少女に一華は首を振る。
「ううん、大歓迎だよ。正直、ここがどこかもわからなかったし」
「まあ、嬉しいです!」
子供のように喜ぶ少女。
「私、一華。あなたは?」
「あら、私としたことが、名乗り忘れるとは……」
そう言うと少女は姿勢を正し名乗る。
「私、ウタカタ・スズ、と申します。どうぞよろしくお願いします」
「スズ、だね。これからよろしく」
そうして、互いに握手を交わした。
「陰陽世界?」
「はい、この世界の名前です」
首を傾げる一華に頷くスズ。
一華は道を歩きながら、スズにこの世界のことを教えてもらっていたのだ。
「陰陽術が広く使われてるため、この名前が付いたんです」
「その陰陽術って言うのは何?」
「十大行と呼ばれる属性を操る術です。火、水、木、金、土の『陽行』と、氷、砂、雷、風、空の『陰行』から成ります」
「『魂魄』とは違うの?」
「同じものです。ただ、陰陽術は修行さえ積めば、誰でも扱うことが出来ます」
「誰でも? すごいね」
「ええ。ただ、適性がない属性は習得にかなり時間がかかります。そして、適性を二つ以上持つ人は非常に少ないです」
陰陽術について詳しく教えてくれるスズ。
「この国の名前は?」
「ヒカゲの国、という国です。そこそこの大きさの島国ですよ」
「日本みたいな感じか……」
「ニホン?」
「あ、ううん、なんでもない。それで、さっき言ってたサムライって? この国にいるの?」
「いいえ。サムライは海を渡った先にある東方の遠国、ヤマトの国にいます」
「ヤマトの国……?」
「はい。そこには、カタナという剣を使って戦う、『サムライ』という存在がいるとおとぎ話で語られています」
「え、おとぎ話って……」
「ヤマトの国とは遥か昔に国交が途絶えてしまっているみたいで、伝承でしか伝わっていないんです」
「そっか。それで、私のことをサムライだと思ったのか」
「はい」
スズは頷く。
「この国の大きな町とかは?」
「三つあります。王が治める『王の都』と『リンドウ一族』が治める『龍の都』、『レンゲ一族』が治める『花の都』です」
「レンゲとリンドウ? それは何?」
「ヒカゲの国で有数の一族です。生まれながらにして特殊能力を持ち、非常に大きな権力を持っているのですが……」
そこで言葉に詰まるスズ。
「……現在、リンドウ一族とレンゲ一族の間で内乱が起こっているんです」
「そんな……王様は止めないの?」
「王は不在です。……数か月前、王族が殺害される事件が起きたのです」
「そんな酷いことを、一体誰が……」
「わかりません。ですがリンドウとレンゲは互いに互いが謀反を起こしたと確信しているようで……」
「それで、内乱が?」
「はい……」
少し俯くスズ。
だが、すぐにさっと顔を上げる。
「一華。誰か、来ます」
「誰か?」
「はい。かなりの速さです! 隠れて!」
言われるまま近くの茂みに隠れる一華。
同じ場所に隠れるスズ。
しばらく二人で息を殺していると、ガサガサという音が聞こえてくる。
『──マズいって! 戻るべきだ!』
「うるせえ! 迷ったときは直進あるのみ、だ!」
『余計迷うぞ!』
「知るか!」
何やら言い争う声が聞こえたと思ったら、声の主が姿を現した。
「あれ、一人しかいない……」
一華は首を傾げる。
姿を現したのは一人の少年だった。
だが、確かに二人分の声が聞こえたのだ。
真っ直ぐとこちらに走ってきた少年は、一華たちが隠れている茂みの前で急停止する。
「あ? 誰かいるな」
首をひねる少年。
隣のスズが身を固くしたのがわかった。
「おい、出て来いよ!」
『おい、心……』
やはり、もう一つ声が聞こえる。
少年を観察する一華。
少し汚れた服。
黒髪黒目で特に目立つ容姿ではない。
そして、指輪を嵌めている。
その指輪を見た一華は目を見開く。
同じだ。
一華が嵌めている、ユナイテッドから支給されたものと。
一華は思わず立ち上がる。
「一華……?」
スズが驚いたように一華を見る。
「あなた、一体……?」
一華は疑問を口にする。
「ん、俺か? 俺は気道心! 絶賛迷子中だぜ!」
心と名乗った少年は、全く自慢できないようなことをキリっとした表情で言い放った。




