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25話 出会い

 

 珠輝は、林の中を当てもなく歩いていた。


 ユナイテッドの第三次試験に合格し、ユナイテッド本部に転移できる水晶玉に触れたところまでは覚えている。

 そして、その後強い衝撃を受けて気絶したことも。


 ここは、一体何処だろうか。

 話ではユナイテッド本部に行けるはずなのだが、それらしきものは見当たらない。

 しかし、配られた『強制帰還装置』とやらが発動する兆しもない。


 一体どうすればいいのだろうか。


 途方に暮れた珠輝は、取り敢えず人を探そうと歩き出したのだ。


「……道、か?」

 少し歩くと林を抜けることが出来た。


 珠輝の目の前に広がっていたのは、だだっ広い草原だった。

 遠くには山々が並んでいるのが見えた。


 珠輝は林に沿うように作られた、道らしきものを見つけた。

 だがそれは、珠輝がよく知るコンクリートなどで舗装された道とは大きく異なっていた。


 人が通るうちに自然にできたであろう道。


 そこで珠輝は悟る。

 ユナイテッドの道はほぼすべてが舗装されている。

 そしてユナイテッドには、このような大自然はないだろう。


「遠くの国、なんて考えは甘いだろうな。恐らくは別の『異世界』ってところか」

 溜め息を吐く珠輝。

 これは面倒なことになってきた。


 そのとき。


「×××?」

 珠輝の背後から声が聞こえる。

 珠輝は振り返って少し驚く。


 そこにいたのは、珠輝と同じくらいの背格好の少年だった。

 歳も同じくらいだろう。

 糸目が特徴的な顔で、黒い長髪を頭の後ろで束ねている。


 着ている服は地球で言うところの中華風だろうか。

 ゆったりとした服を纏っている。


「×××××?」

 その少年が再び声を発する。

 だが、内容がわからない。


 珠輝は思念水を飲んでいる。

 だが、思念水は新しく聞いた言語を翻訳できるようになるまで、しばらく時間がかかる。


「悪い、言葉がわからないんだ。少し待ってくれるか?」

 身振り手振りを交えて意志を伝えようとする珠輝。


 少年は笑顔で頷くと、こちらに近付いてきた。

 伝わったのかと安心し、近付こうとした珠輝。


 だが、そこで危険を察知する。


 間一髪で顔を傾ける。

 だが、間に合わず頬の皮が薄く裂けてしまった。

 タラリ、と血が流れる。 


「なんの、つもりだ?」


 珠輝は目の前の少年に問いかける。


 珠輝が油断した一瞬の隙に、少年が服の下から鋭利なものを飛ばしてきたのだ。

 口の端を歪めて肩を竦める少年。


「××××××××」

「何を言って──」

「──×××××!」


 珠輝の言葉を無視し、低く身を沈ませると珠輝に向かってくる少年。


「ちッ、くそ!」


 悪態をつきながら珠輝も身構える。


 驚異的な速度で一気に距離を詰めてきた少年は右の拳で珠輝の顔面を狙う。


 珠輝は、それを両腕を交差させて受ける。

 激しい衝撃が体を貫き、後方へ吹き飛ばされる。


(一撃が、重い!)

 顔を顰める珠輝。


 少年は体勢を立て直すと、即座に追撃に移る。


「っ、させるか!」

 珠輝は地面に触れる。

 砂の波が蠢き、少年の体を飲み込む。


 だが、少年は高く跳躍し砂から抜け出した。


 追撃を仕掛けようとした珠輝は危険を察知し、咄嗟に砂の壁を作り出す。

 壁に何かが突き刺さる音がする。


 その瞬間、珠輝の頭の中で警鐘が鳴り響く。


 飛び退り距離を取る珠輝。

 それと同時に、突き刺さった何かが砂の壁ごと爆発する。

 砂煙が宙に舞い、視界を奪う。


(──どこだ)

 珠輝は少年の姿を探す。


 その時、正面の砂煙が微かに揺れる。

 それと同時に何かが珠輝に向けて飛来する。


 それを砂の壁を作り出すことで受け止める珠輝。


「これは、クナイか?」

 壁に突き立った黒光りする暗器を見て珠輝は呟く。


 再び砂煙が揺れる。

 珠輝はその場所に向けて走り出す。

 それと同時に、砂煙の中から少年が飛び出してくる。


 両者の拳がぶつかろうとしたその時。


 少年が体勢を崩す。

 珠輝が地中に仕掛けた砂を踏み抜いたのだ。

 地面が沈み、拳が空ぶる少年。


 その頬に珠輝の渾身の一撃が入る。

 吹き飛ぶ少年。


 少年は地面を転がり、少し離れたところで止まる。

 珠輝は追撃を掛けず、様子を観察する。


 かなり重いのが入ったはずだ。

 しかし、少年は立ち上がろうとしていた。

 よろめきながらも立ち上がり、口の血を手の甲で拭う少年。


 少年はゆっくりと構える。

 体を少し斜めにし、左半身を前に出す。

 そして、両手を構え、顔の前で拳を握る。


 隙が、全くない。


 珠輝もゆっくりと構える。


 少年の前腕と拳が黒く変色した。

 それは硬質的な輝きを放っていた。


(腕を、鉄に変えたのか)

 その正体をすぐに看破する珠輝。


 少年はにやりと笑うと、指を上に向け『かかってこい』というように手招きをする。


 珠輝も薄く笑みを浮かべる。


(受けてやるよ、その勝負)


 次の瞬間、互いに地面を蹴る。


 珠輝の拳が少年の左頬に突き刺さる。

 少年の拳が珠輝の左肩を打ち抜いた。


「ぐッ!」

 肩を中心として、鋭い痛みが珠輝を貫く。

 腕を鋼鉄化しているだけあって、威力は先程よりも上だ。

 だが、全身に力を入れて衝撃に耐え、体勢を立て直す。


 少年もよろめきながら再び構えた。


 次に動いたのは少年の方だった。

 鋼鉄の拳で乱打を繰り出す。


 珠輝は砂を使うことで拳の軌道を逸らし、回避に徹する。

 それでも避けられないものは、砂を緩衝材にして受け止める。


 だが、少年は乱打を止めない。


 だんだんと捌き切れなくなってくる珠輝。

 受け止める数が増えてきた。


 少年の拳を受け続けて、腕の動きが鈍くなってくる。


 マズい状況だ。

 あの拳が顔面に入りでもしたら、気絶は避けられないだろう。


 何か打開策は。

 頭を回転させる珠輝。


 砂での防御では不十分だ。

 そもそも、『砂』は流動体だ。 

 それで受け止めるには限度がある。


 この体が砂のように流動体であれば、この攻撃も避けられるのだが──


 そこまで考え、珠輝は目を見開く。


 出来るのだろうか。

 そんなことが。


(いや)


 そこで珠輝は考える。


 出来る。

 根拠はないが、そう感じた。


 珠輝は想像する。


 流れる砂。

 崩れる砂。

 実体を持たない砂。


 体を『砂』に。


 少年の拳が、珠輝の回避を掻い潜り、珠輝の腹に迫る。

 だが、珠輝は受け止めなかった。


 そのまま少年の鉄の拳は珠輝の腹にめり込み。


 そして、そのまま沈み込んだ。 

 まるで、砂でも殴ったかのように。


 少年は糸目を見開き、驚きを露にする。

 それが、一瞬、少年の反応を遅らせた。


 少年の腹に珠輝の拳が突き刺さる。


「ぐはッ!!」

 呻き声を上げ、少年は吹き飛ぶ。

 地面を転がる少年。


 少年はそのまま、起き上がって来ない。

 今度こそ、気絶していた。


 珠輝は、深く息を吐く。

 それと同時に痛みが体を駆け巡る。


 興奮状態だったせいで気付かなかったが、思ったよりダメージを受けていたようだ。


 よろめき、そのまま倒れ込む珠輝。

 そこで、珠輝の意識は途切れた。



 


 珠輝はうっすらと眼を開けた。


「うッ」

 起き上がろうとしたが体が悲鳴を上げる。


「お、目ェ覚めたか。おはようさん」

 その声の方を見やる珠輝。


 そこには先ほどの少年が座っていた。

「お前……」

「お、ちゃんと言葉も通じとるな。よかったよかった」


 頷く少年。


「いやぁ、しっかしキミ強かったなぁ。どこから来たんや?」

「……地球だ」

「地球? 初めて聞いたわ」

「……そうか」

「それで、キミの名前は?」

「……珠輝だ。上砂珠輝」

「タマキか。ええ名前やんか。ボクはリー。ただのリーや」

「……そうか。リー、少し聞きたいんだが……、いいか?」

「ええよ?」

 リーと名乗った少年は頷く。

 珠輝は咳払いをし、最大の疑問を口にした。


「お前、なんで関西弁なんだ?」

「カンサイベン? なんやそれ」

 首を傾げるリー。



「なるほど、訛りみたいなものは思念水を通しても翻訳されないのか」

「そうや。そのカンサイベンが何なのかわからんけど、ボクの訛りが君の知る最も近い言葉に変換されてるんや」


 珠輝はリーから思念水について教えてもらっていた。


「それで疑問なんだが、お前はなぜ俺を襲ったんだ?」

「いやぁ、ちょっと追手がいてな。言葉も通じんし、勘違いしてもうたんや。ごめんな」

「追手? 追われてるのか」

「いや、大分前に撒いたんやけどな。見たことない服やったし、ついついな」

 手を合わせ笑うリーに、溜め息を吐く珠輝。


「今はなんで疑ってないんだ?」

「や、ほんとは最初に殴られたときに分かってたんやけどな。ボクの追手にキミみたいな強いヤツおらんかったし」

「──ちょっと待て。じゃあ、その後戦い続けたのはなんでだ?」

 珠輝の問いに、頭の後ろで手を組んで舌を出すリー。


「悪いとは思っとるんよ? ただ、久しぶりに強敵と相まみえてテンション上がってしもたと言うか」

 その答えに溜め息を吐く珠輝。


「それで、タマキはこんなとこで何しとったん?」

「多分異世界から飛ばされたみたいなんだ。ここがどこかも分からない」

「へぇ、異世界人か。珍しいなぁ」

 興味深そうに言うリー。


「ああ、だからこの世界のことを知りたいんだ。教えてくれないか」

「ええよ。条件付きでならな」

「──言ってみろ」

「ボクも一緒に連れていってくれへん? 行く当てないし」

 その言葉に顔を顰める珠輝。


「お前、追われてるって言ってなかったか? 面倒ごとは避けたいんだが」

「つれないこと言わんといてー。それに、多分もう追ってこないと思うしなぁ」

 珠輝は溜め息を吐く。


「まぁ、少しの間だけなら構わない」

「ほんまに? 助かるわぁ」

「その代わり、追われてる理由も話せよ」

「わかっとるって」


 リーはごそごそと荷物を漁ると何かを投げてよこす。


「これは?」

「干し肉とパン。腹減っとるやろ?」

 言われてみれば丸一日ほど何も食べてない。

 

 食べ物の匂いに急激に腹が減ってきた。

 パンをかじる珠輝。

 それを見て、笑顔で頷くリー。

 そして、更に何かを取り出す。


「で、これがこの世界の地図や」

 地面に地図を広げるリー。

 その地図を眺めて珠輝は首を振る。


「だめだ。全く見たことがない」

「そか。じゃあ、やっぱ異世界から来たんやな」

 リーも干し肉をかじる。


「この世界の名前は『聖教世界』。大きく分けて、西大陸と東大陸がある」

 地図を指して解説するリー。


「この世界の名前の由来でもある『聖教』ってのは、東大陸を中心として広がってる『聖教会』のことや」

 リーは地図の右側の大陸を指して言う。


「で、ボクらが今いる西大陸は、あんまり聖教会の手が及んでないところ」

 続けて右側の大陸を指すリー。


「俺たちは西大陸の何処にいるんだ?」

「西大陸の二大国、(じん)国とアルゼト帝国の国境付近や」

 西大陸にある二つの大きな国の国境辺りを指すリー。


「これからどこに行くつもりだ?」

「このまま道なりに行けばアルゼト帝国領の町があるはずや。取り敢えずはそこかな」

「異世界に行く方法がある場所はどこだ?」

「さあなぁ。異世界なんて気軽に行けるもんやないし。アルゼト帝国の帝都ならあるかもしれんけど」

「仁国の方はどうなんだ?」

「ああ、仁国にはそんなもんないで」

 珠輝の問いに即座に首を振るリー。


「何故わかるんだ?」

「そりゃ、ボクの出身は仁国やからな」

 さらりと言うリー。

「そうか、わかった。取り敢えずこの世界のことはわかった。それで、お前が追われてる理由だが──」

 珠輝は話を変える。

「ああ、せやな。じゃ、次はボクの話をしよか」

 リーは地図を閉じると言った。


「さっきも言った通り、ボクは仁国の出身なんやけど……」

 リーは自身のことについて話し始める。


「ほら、さっきキミも見たろ、ボクの能力」

「ああ、『鉄化』で合っているか?」

「まあ、そんなとこなんやけど。あれ、子供のころから使えたんや。訓練もなしに」

「何?」

 珠輝は首を傾げる。


 一応、充から『魂魄』のことは教えられている。

 珠輝たち『人柱』は特別な訓練をしなくても能力を使える。

 だが、一般的には段階的な鍛錬を積み、長年の修行の末に手に入れられるものらしい。

 リーが扱った力は、確かに珠輝と同じ力だった。


「ま、そのせいで国を追い出されたんやけど。『悪魔の子』なんて呼ばれたりもしてな。──古い文献では『人柱』なんて呼び方をするらしいけどな」

 さらりと言うリー。

 その言葉に耳を疑う珠輝。


「お、おい、ちょっと待て。今、『人柱』って言ったか?」

「ああ、言ったけど?」

 リーは怪訝そうな顔をする。


 なんという偶然だろうか。

 異世界に転移した先で『人柱』に出会うなんて。


「俺も、人柱だ」

 珠輝は自身のことを明かす。

「──なんやて」

 さすがに驚いた様子のリー。



「〈黒の使徒〉、か。聞いたことはあるで。異世界で暴れまわってる連中だってな」

 珠輝はリーに〈黒の使徒〉が人柱を狙っていることを話す。

「それで、〈黒の使徒〉から逃げるために異世界に来たんか」

 リーの言葉に頷く珠輝。


「変な力を持ってるせいで国を追われたと思ったら、おんなし力を持っとるヤツに出会うとはなぁ。びっくりや」

「俺も、驚いてる。こんなところで人柱に会うとは思ってなかった」

 驚きを分かち合う二人。


「リー、お前これからどうするつもりだ?」

「そうやなぁ。国からも追われ、更に〈黒の使徒〉とやらにも追われる。正直言ってそんなんはごめんやな」

 首を振るリー。


「提案なんだが、一緒に来ないか? 俺の仲間も人柱なんだが、守ってくれる人がいるんだ」

「なんや、さっきまで嫌がっとったのに」

 拍子抜けした様子のリー。

 そして、顎に手を当て考え始める。


「そうやな。特に断る理由もないし、お世話になるわ」

 リーはあっさりと承諾する。


「そうか。なら、まず俺が来た世界に戻る方法を探さなきゃな」

「せやな。ちゅーことで、よろしくなタマキ」


 手を差し出すリー。

 珠輝はその手を握り返す。


「ああ、よろしくな、リー」



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