21話 速攻
「第二次試験の合格、おめでとうございます」
Aスタジアムに着いた瑠香たちは、そう出迎えられた。
「早速ですが、第三次試験のご案内をいたします」
スーツを着た男が丁寧な口調で続ける。
無事、二次試験を突破した瑠香たちは、今Aスタジアム内の一室に集められていた。
「第三次試験はここにいる五百名を十ブロックに分け、ブロックごと五十名で模擬戦闘を行ってもらいます」
その言葉にざわめく受験者たち。
いくらなんでも危険ではないだろうか。
「ご安心を。試験の際には、こちらの模擬戦闘用の、ダメージを吸収する防護服を着用してもらいます」
スーツの男は腕輪のようなものを持ち上げる。
「──服?」
瑠香は疑問に首を傾げる。
どう見ても服には見えない。
「腕に装着し、ボタンを押していただければ、体に合わせて自動的に防護服が装備されます」
実演して見せるスーツの男。
ボタンを押すと、一瞬透明な何かがその身を覆ったように見えた。
「これで装着完了です。この服は一定値ダメージを受けると装着者を気絶させる作用があります」
「気絶? 物騒だな」
珠輝が腕に着けた防護服とやらを見る。
「今回の試験はそれを利用いたします。模擬戦闘中、三名以上を気絶、場外、行動不能にできた先着十名を第三次試験合格者といたします」
どよめく受験者たち。
これは単純な戦闘力がものをいう試験だ。
「合格者は腕輪が光りますので、即座にリングを降りて奥の部屋に向かってください。防護服があるとはいえ、度を越した危険行為は禁止です。審査員の目に留まり次第失格としますのでご注意ください」
スーツの男は資料をめくると続けた。
「それでは、各自配られた封筒を開けてください」
瑠香は言われた通り封筒を開ける。
中には『J』と書かれたカードが入っていた。
「書かれている文字が、各自が出場するブロックになります。ブロックはAからJまであります。試験はAブロックから順番に行いますので、各自準備しておいてください」
そこでスーツの男は受験者たちを見渡す。
「説明は以上です。皆様のご健闘をお祈りしております」
頭を下げる男。
受験者たちから拍手が起きる。
男が部屋を出るのと同時にアナウンスが入った。
『只今より、第三次試験を行います。Aブロックの皆様は控室にお越しください。その他の方々は観客席へお移りください。繰り返します──』
その放送を皮切りに受験者たちが立ち上がり始める。
「瑠香ちゃん、どのブロックだった?」
凛が近付いてくる。
「私はJブロックだった。凜は?」
「私はGブロック。よかった~、被らなくて」
そこへ隼人たちも近付いてくる。
「お前ら何ブロックだった?」
そう訊く隼人にカードを見せる瑠香たち。
「俺はEブロックだ。一華は?」
「私、Cブロック」
カードを見せる一華。
「俺はAブロックだ。もう準備してくる」
そう言うと珠輝は行ってしまった。
「俺は、Iブロックだ。どうやら、上手くバラけたみたいだな」
充が言う。
「よかった。私たちで戦うことにならなくて」
安堵したように言う一華。
「そうか? 俺は一回やってみたかったけどな」
と、少し残念そうな隼人。
「それより、早く行こうよ。珠輝の試験見れないよ」
「あ、そうか。行こうぜ」
そうして、観客席に向かう瑠香たち。
観客席に着くと既にAブロックの受験者たちが準備していた。
それぞれ、軽く体操などをしながら試験が始まるのを待っている。
「えっと珠輝は、……お、いたぞ。あいつ、ど真ん中にいるな」
リングの中央を指す隼人。
『それでは、これよりAブロックの試験を開始します』
その放送でAブロックの受験者たちが身構える。
『──試験開始!』
放送と共にブザーが鳴り、試験の開始を告げる。
珠輝は大きく息を吸う。
ブザーが鳴り響き、試験が開始される。
珠輝が、開始位置を目立ちやすい中央に選んだのには理由がある。
目立てば狙われる。
その方が好都合なのだ。
珠輝が思った通り、珠輝を狙って数人がこちらに向かってくる。
「一瞬で、沈ませる──!」
珠輝は地面に手を突き立てる。
刹那、珠輝を中心として砂が爆発する。
「うわ!」
「なんだ! 砂!?」
「う、動けねえ!!」
砂の波は周囲にいた十数人の動きを一瞬で絡めとる。
腕に着けた腕輪が光り、珠輝の合格を告げる。
「──少し、やり過ぎたか」
周囲を見渡し珠輝は呟く。
珠輝が行動不能にした人数は、合格基準の三人を優に超していた。
観客席はおろか、リング内の受験者たちも絶句している気配を感じた。
珠輝は気まずそうに眼鏡の位置を直すと一人リングを降りる。
『現在一名突破! あと九名です!』
アナウンスで我に返る会場。
観客席が歓声に包まれる。
それを背に溜め息を吐く珠輝。
「すげえ! 一瞬であんなに! あいつやるな!」
席から立ち上がり、興奮をあらわにする隼人。
「さすがだな。二十人はやったか?」
素直に感心したように言う充。
余裕で試験を突破した珠輝。
「私、砂ってもっと地味なのかと思っていた」
瑠香は珠輝の力に驚く。
「確かに地味だとは本人も言ってたな」
隼人は頷く。
「だけど、あいつの能力の本質はすげーんだぜ」
「本質?」
隼人の言葉に瑠香は首を傾げる瑠香。
「私たちの能力、結構似てるんだ。私で言うと『火』を操ることと、『火』を出すこと」
一華が説明してくれる。
「私の場合は『光』を操って、『光』を出すこと。隼人の場合も同じ」
凛が続ける。
「けど、珠輝だけ違うんだ」
「それって?」
未だ呑み込めない瑠香。
「今見た通りだ。『砂』を操り、『砂』を出す。そして『砂』に変える。それが珠輝の能力だ」
と、教えてくれる充。
「砂に、変える、か」
確かにそれは強力だ。
それはつまり、身の周りのもの全てを武器に変えられるということだ。
『十名突破! これで、Aブロックの試験を終了いたします!』
「お、終わったみたいだな」
リングの方を見る隼人。
気絶した受験者たちが、リングから運び出されている。
また、戦闘で荒れたリングの修繕作業も行われていた。
その時、一華が立ち上がる。
「あれ、一華? どこ行くの?」
凛がそれに気付き声を掛ける。
「私、次の次のCブロックだから。準備してくる」
「お、そうか。頑張れよ!」
隼人の激励に片手を上げて応える一華。かっこいい。
「──あれ、一華、木刀持ってなかった?」
瑠香は去っていった一華が、木刀を携えていたことに気が付いた。




