199話 裏側
瑠香が退院してから数日が経った。
その日、瑠香は家からさほど遠くない場所にあるショッピングモールに向かって歩いていた。
そこは本部島にある最大のショッピングモールで、瑠香達も普段からよく使っている。
「ごめんね、充。急に来てもらっちゃって」
そこに向かう道すがら、瑠香は隣を歩く充に言う。
「別にいい。どうせ暇だからな」
瑠香の隣を歩きながらそう言い、充は瑠香の方を見る。
「で、そのシルト先生? は、なんで俺に会いたがってるんだ?」
「それが、わからないの。充を連れてきてくれ、って連絡だけあって」
そう問う充に首を振って瑠香は言った。
今日、瑠香達はシルトに呼び出されたのだ。
それで、集合場所であるショッピングモールに向かっているのである。
「あ、そろそろ着くね」
そこで瑠香は前方を指さして言う。
その指の先には巨大な施設があった。
その中に入ろうとした瑠香は、入り口付近で突っ立っているシルトを発見した。
「あ、あの人だよ」
そちらを指さして、瑠香はシルトに歩み寄る。
近付いてくる瑠香に気付いたのか、シルトが片腕を上げた。
「おう、久しぶりだな。怪我は治ったのか?」
瑠香を見てそう言うシルトに瑠香は頷く。
「はい、もう全部治りました」
「すげーな、骨折れてたって聞いたが……」
「はい、折れてたみたいです」
頷く瑠香に呆れたような顔をするシルト。
「まじかよ。そんな、すぐ直るもんなのか……?」
「治りましたよ?」
「……ああ、そう」
腕を振って治ったことをアピールしながら瑠香が言うと、ため息をついてシルトは充に目を向けた。
「ああ、こいつが」
「はい、充です」
そういうシルトに頷き、瑠香は隣にいる充に目を向けた。
「あんたがシルトだな」
充は値踏みするようにシルトを見ていた。
「そうだ。お前とは一回会ったな。あのカラーって奴と戦った時に」
「……あんたに訊きたいことがある」
腕を組んで言うシルトに、充は目を細めて言う。
その場に漂う、穏やかではない空気について行けず、瑠香は充とシルトの顔を見比べた。
「……あ、あの?」
「カラーと戦った時、瑠香をバリアで守ったのはあんただな」
「そうだ」
小さく声を出した瑠香を無視して充はシルトに問う。
それに頷くシルト。
「……それについては、礼を言わなきゃならない。あんたのお陰で瑠香は死なずに済んだ。ありがとう。……だが」
そこで言葉を切り、シルトを睨む充。
「あまりにもタイミングが良すぎる。なぜ、あの瞬間だったんだ?」
「充、シルト先生は私を……」
「そうだ、お前を助けた。だが、もっと早くても問題なかったはずだ。もっと早い段階でバリアを張っていれば、こいつは──」
「──怪我をしなかった、か」
充の言葉を継ぎ、息を吐いて言うシルト。
「まず、だな。転移と防護の機能が封じられたあの状況で、お前たちを救助の最優先対象に出来なかった。もっと命に関わる救助対象がいた。だから、お前たちは後回しになっちまったんだよ」
頭を掻きながら言うシルト。
しかし、充は鋭い視線を緩めない。
「理由は本当にそれだけか?」
「……鋭いな」
そう言う充に、ため息を吐くシルト。
「本当は絶対に言っちゃダメなんだがな……今回の事件、学園区への襲撃犯はお前たち潜入班のお陰で早い段階で無力化できた。だから、被害も少なく、死亡者も出なかった。……だが」
そこで言葉を切るシルト。
少し迷ったように視線を泳がせ、再び口を開く。
「……防護服の制御施設襲撃では、多数の被害が出ている。死亡者も、数えきれないほどいるんだ」
額に手を当てて言うシルトに息を呑む瑠香。
「ユナイテッドは今回の件をかなり重く捉えている。組織の尻尾を掴もうと、躍起になっているんだ」
「それが、どうして瑠香の援護が遅れた理由になる」
「……あの状況で、俺とロイ先輩に、お前たちの下への出撃許可は下りなかった」
「……何?」
シルトの言葉に訝し気な顔をする充。
「……あの状況で上が下した判断は、『お前らを見捨てて情報収集する』だった。防護服の録音機能はまだ生きてたからな。襲撃犯を泳がせてもっと情報を引き出すつもりだったんだろう」
「何、だと……」
それに絶句する瑠香と充。
「……だから、俺とロイ先輩は命令を無視して飛び出して来たんだ。『人命救助第一』だからな」
瑠香達は衝撃で言葉が出せなかった。
そこへ更に続けるシルト。
「それに、ユナイテッドはお前たちが潜入する前の段階で、失踪事件の犯人がデルではないかと突き止めていた」
「……そんな、どうやって」
「監視カメラやいたるところに仕掛けられた録音機。それらの情報を繋ぎ合わせれば、デルが失踪した四人と関係があったことはわかる。だが、後始末の手際の良さに組織犯の可能性を疑ったユナイテッドは、餌を投入して犯人と組織の出方を伺うことにした」
「その餌って……」
呟く瑠香に、頷くシルト。
「お前たちだ。そして餌にまんまと食いついたデルを現行犯逮捕する、ってのが今回の筋書きだった」
「そんな、まさかジャストさんたちもこのことを……」
「いや、知らないだろうな。こういう裏事情は、現場のヒーローには伝えないものだ。今回のだって、俺が独自に調べたものだからな」
そこで首を振るシルト。
「俺が瑠香にお守りを渡したのも独断だ。本当は、デルが狙ってるであろう人物との接触も禁じられていた。……あーあ、今回だけで何回命令違反したことか……」
「で、でも……ならどうして、私を」
「助けたのかって? そんなの当たり前だろ、俺は、ヒーローだ。人を助けんのが仕事だ。だから助けた。それだけだ」
「……そうか」
シルトのその言葉に、充が呟く。
「あんたは、俺たちを助けようとしてくれたんだな……さっきはあんなことを言って悪かった」
素直にそう言い頭を下げる充に頭を掻くシルト。
「まあ、俺に非がないわけじゃない。このことをお前たちに黙っていた罪は俺のものだ」
そう言い、シルトも頭を下げる。
「悪かった。許してくれとは言わないが──」
「許しますよ」
そう言うシルトを遮って瑠香は言う。
「充にも言ったんです。助けてくれたのなら私は信じる。例え、どんなそこに打算があろうと私は私が信じられればそれでいいんです」
充の方を見た後、シルトの方を向く瑠香。
シルトは驚いたように瑠香を見た後、苦笑した。
「お前はお人良しだな」
「話す必要のない話を私たちにしたシルト先生に言われたくないですよ」
シルトにそう返す瑠香に、シルトは困ったように頭を掻いた。




