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184話 南区にて

 

「ぐッ!?」

 スズの放った右拳は、吸い込まれるようにアデューラの顔面へと叩き付けられる。

 苦悶の声を上げて背後へ吹き飛ぶアデューラ。

 拳を振り抜いたスズは、すぐに体勢を整えると叫んだ。


「援護、ありがとうございます! 珠輝!」

 その直後、スズの背後の茂みが揺れ、そこから珠輝が飛び出してくる。


「余計じゃなかったか?」

「はい、助かりました」

 珠輝の言葉にスズは頷く。


「あいつは?」

 倒れているハンナの方を顎で指して珠輝が問う。


「止血はしました。取り敢えず、命に関わることはないでしょう」

「そうか」

 スズの言葉に珠輝が頷く。


「それで、あいつは異能犯ってことでいいのか」

「はい、間違いないと思います」

 アデューラの方へ視線を戻した珠輝の問いにスズは首肯して答える。


「そうか。それが分かればいい」

 そう言って地面に手をつく珠輝。

 その視線はアデューラの方へ向けられている。


 鋭いその目にハッとするスズ。


「まさか、まだ──」

 スズは慌ててアデューラの方へ向き直る。


「痛いなァ。ちょっと舐めすぎちゃったみたいだねェ」

 そこには地面から起き上がるアデューラの姿があった。


「そんな、霊装で攻撃したのにどうして──」

 思わずそう呟くスズ。

 そしてすぐにその理由を悟る。


「あァ、君たちも使えるんだね、霊装(これ)

 そう言うアデューラの全身を魄が包み込む。


「まさか、使えるなんて……」

 それを見て歯噛みするスズ。


 厄介なことになった。

 敵がただの異能犯ならば対処は簡単だった。

 だが、心体技を使えるとなると話は別だ。


「キヒヒィ! いいね、使える人との戦いは初めてなんだァ!」

 そう叫んで身を屈めるアデューラ。


「来るぞ!」

 珠輝が叫ぶ。


 その瞬間、アデューラが地を蹴る。

 スズたちの眼前にアデューラが迫る。


 右拳を振りかぶるアデューラ。

 その時、地面が隆起し、砂の壁が両者の間に立ち塞がる。


「スズ、避けろ!」

 そう叫んで背後に飛ぶ珠輝。

 それを聞いて、スズも後方へ回避行動をとる。


 その次の瞬間、珠輝が作った砂の壁が爆散する。


「キヒヒヒヒィッ!」

 飛び散る砂の中から、耳障りな笑い声を立ててアデューラが飛び出す。


 その勢いのまま、アデューラは手に持った刀をスズ目掛けて横凪ぎに振るう。

 それを上体を反らすことで回避するスズ。


 そのまま背後に倒れる勢いを利用して、右足を持ち上げると、その足でアデューラの顎を蹴り上げる。


「ぐッ!?」

 それによって強制的に上を向かされるアデューラ。


 それを見たスズは、すぐに地面に手をついてアデューラから距離を取ろうとする。

 しかし、それよりも前に、アデューラの左手が蛇のように伸び、スズの蹴り上げた右足を掴む。


「きゃっ!?」

「キヒヒィッ! 捕まえたァ!」

 上を向いた顔を戻してニタリと笑うアデューラ。

 そして、そのまま左片手でスズを軽々と振り回すと投げ飛ばした。


「──ぐっ!?」

 投げ飛ばされたスズはその軌道上にある木をいくつも折りながら吹き飛んでいく。


 そして、一際大きな木に叩き付けられ止まる。


「か、はっ!?」

 肺から押し出される空気。

 ずるずると崩れ落ちながら、息が出来ずに喘ぐスズ。


「スズ、大丈夫かッ!?」

 こちらに駆け寄ってくる珠輝が見える。

 そして、それよりも前を走るアデューラの姿も。


「くっ──」

 整わない呼吸を無視して無理やり立ち上がろうとするスズ。

 立ち上がりかけたその足はふらつき、とてもすぐには動けそうにない。


「キヒヒィ!」

 目の前に刀を振り上げるアデューラが見える。


 と、その時、さっと上空から影が射した。

 そして、次の瞬間。


「“(アストロ)”ッ!!」

 空から降ってきた心がアデューラの頭を殴り付け、その体を地面に叩き付けた。



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