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180話 アデューラ

 

 ハンナが振り回すナイフを仰け反ることで躱すスズ。

 そのまま後ろに飛び距離をとる。


「何で避けるのさ! ねぇ、スズ!」

 ナイフを構えて突進してくるハンナ。


「どう、して──」

「あたし達、友達だよねぇ!? ねぇ!」

「やめ、て──」

「友達ならさぁ、死んでよ! あたしのために!」

「やめて!」

 ナイフを振り回すハンナに頭を振ってスズは叫ぶ。


「本当は誰かに脅されているんでしょう!? 大丈夫だから、私なら助けてあげられるから、だから──」

「助けたいんなら大人しく死ねよ!」

「──っ!?」

 吐き捨てるように叫ぶハンナに息を飲むスズ。


「言ったでしょ? あたしの家族は皆ヒーロー。だからあたしも期待されていた。なのに、あたしに発現した異能はこんなゴミみたいな能力だけ!」

 髪を振り乱して叫ぶハンナ。


「脅された? 違うに決まってんだろ! これはあたしの意思だよ!」

「どうして、友達だと、思ってたのに……」

 涙を溢して言うスズをせせら笑うハンナ。


「友達? なにそれ、そんなのなんの役に立つの?」

「ずっと、騙して──」

「そうだよ? でも、スズだってあたしに隠し事だらけだよね? 人のこと言えなくない?」

「隠し、事?」

 その言葉に眉をひそめるスズ。


「あたし知ってるよ? スズ達が例の行方不明者達の調査のためここに潜入してること」

「どうしてそれを!」

 厭らしく笑って言うハンナにスズは驚愕する。


「忘れたの? 私は相手の考えていることがわかる。全部筒抜けなんだよ、お前の過去も、今も全部! ねぇ、ウタカタ・スズ!!」

「っ!?」

「知ってるよ、あんた迫害されたんだってね? かわいそーにねー。それでさっきの気道心って奴に助けられたんだって? ロマンチックだねぇ」

「……やめて」

「あんた、あいつのこと好きなんでしょ? あたしから伝えてあげようか? あいつ馬鹿そうだし喜ぶんじゃない?」

「……やめて!」

 ニヤニヤ笑いながら言うハンナに大声を出すスズ。


「なに、怒ったの? ああ、怒ってるね。ふーん、自分の仲間を馬鹿にしないでほしいってカンジ? つまんな」

 スズに白けた目を向けて鼻を鳴らすハンナ。


「一つ、聞きます。どうやってあのお二人を動かしたんですか? 彼らに利益があるようには思えません」

 静かにそう問うスズ。


「え? わかんないの? マジで?」

 そんなスズの問いにハンナは見下したような目をして言う。


「そんなの決まってんじゃん、金だよ、金!」

 ハンナが叫ぶ。


 その瞬間。


「うーん、僕もォ、お金大好きィ」

 そんな声と共に、ハンナの腹から刃が生える。


「は?」

 呆気にとられたような声と共に崩れ落ちるハンナ。


「死んだァ? 死んだァ? キヒヒヒヒ!」

 音もなくハンナの背後に忍び寄り、その背中に刀を突き立てた男は、不気味な笑い声を上げながら刀を振り回す。

 そこでスズは違和感に気付く。


 倒れたハンナが消えない。

 そしてその体の下から広がる血を見てスズは驚愕する。


 この試験では前提として刃物などの殺傷能力の高い武器の持ち込みは禁止されている。

 殺傷能力が高いということは、効率よくダメージを与えることができるということだ。

 だから禁止されている。


 ハンナがどうやってナイフを持ち込んだかは知らないが、それをスズとの戦いで使ったのは、あくまでスズを退場させてポイントを得るため。

 それは、防護服があるからできること。

 だが、目の前で流れる血を見てスズは悟る。


 防護服が、機能していない。


 それが、ハンナだけなのか、生徒全員なのかはわからないが、油断するべきではない。


 その時、倒れたハンナが呻き声と共に微かに動く。

 それを見てひとまず安堵するスズ。

 まだ生きている。


 見たところ急所は外れたようだ。

 手当てを急げば死にはしないだろう。


 しかし、ハンナを襲った男は、それをよく思わなかったようだ


「あれェ、まだ生きてるゥ」

 そう言って刀を振り上げる男。


「ダメダメェ、ちゃんと死ななきゃァ!」

「っ!」

 男が刀を振り下ろそうとした瞬間、スズは地を蹴った。


 その刀が振り下ろされる前に男の元へ辿り着いたスズは、その足を男の腹に向けて叩き付ける。


「ぐッ!?」

 苦悶の声をあげて吹き飛んでいく男。


「〝髪呪(かみまじない)〟──“治癒の(まじな)い”!」

 髪を一本抜いてそれをハンナの方へ投げつけるスズ。

 するとその髪の毛が光り、ハンナの傷が癒えていく。

 血が止まったのを確認したスズは、すぐに吹き飛んだ男の方へ目を向ける。


 あの男、躊躇なくハンナを殺そうとした。

 恐らく、異能犯だろう。

 何が目的かはわからないが、防護服の機能停止と関連性がないとは思えない。


 つまり、これは組織的な襲撃なのだろう。


 そこまで考え、頭を振るスズ。

 吹き飛ばされた男が起き上がろうとしたからだ。


「あなた、いったい何者ですか?」

 男から目を離さずスズは問う。


「僕ゥ? 僕はアデューラだよォ。よろしくねェ」

 刀を振って狂気的に笑う男。

 年齢は二十代前半と言ったところだろうか。

 紫色の長い髪に赤いギラついた目。

 正気とは思えない。


「私はヒーローです。あなたを捕縛します」

 身構えてスズは言う。


 スズも〈白の解放団〉の皆と同じでレンジャーの資格取得試験を受けて合格している。

 なので、有事の際はヒーローを名乗っていいということになっている。


 本当はレンジャーなのだが、レンジャーは公にされていない役職だそうで名乗ることはできない。


「えェ? ヒーロー? 本当にィ?」

 それを聞いてアデューラと名乗った男は笑った。


「嬉しいなァ! 十人目に殺すヒーローがこんなに可愛い娘だなんてェ!」

 そう叫んで地を蹴るアデューラ。

 それを見たスズも駆け出す。


「キヒヒヒヒ!!」

 耳障りな笑い声をあげて刀を振りかざすアデューラ。

 その振り下ろされる刀を、左半身を引くことで避けたスズは、そのまま右足でアデューラの腹を蹴りつける。


 しかし、アデューラは吹き飛ばなかった。

 代わりにスズの足に鈍痛が走る。


「っ!?」

「キヒヒィ!!」

 咄嗟に足を引き、後ろに飛び退るスズ。

 次の瞬間、スズの頭があった場所をアデューラの左拳が通り過ぎる。


 空振ったアデューラの拳はそのまま地面に叩き付けられた。

 その瞬間、轟音と共に砂煙が巻き起こり、その場に巨大なクレーターが形成される。


「っ!?」

 それを見て驚愕するスズ。

 常人に出せる威力とは思えない。


 恐らく、何らかの能力だろう。


「硬い──いや、重い……?」

 先程の蹴りの時に感じた違和感を口にするスズ。

 それを聞いてニヤァと笑うアデューラ。


「せいかァい! 僕の能力は重さを操ることができるんだァ! 重くもできるし、軽くもできる。だから、こんなこともできるだよォ!」

 そう言って何かをスズに投げつけるアデューラ。

 それは小石だった。

 それを顔を傾けて避けるスズ。


 次の瞬間、背後で凄まじい衝撃音がする。

 驚いてそちらを見るスズ。


 そこには、木にめり込んだ小石があった。


「どうして、そんな速度は出ていなかったのに──」

「途中で重さが変わったらァ、勢いは変わらないけど、衝突の時の衝撃は大きくなるんだよォ!」

 そう叫んで再び走り出すアデューラ。

 その速度は先程よりも早い。


「まさか、自分の体を軽く……っ!」

「それもせいかァい!」

 振り回される刀を避けながら呟くスズにニタリと笑うアデューラ。


 後ろに飛び退りながら、隙を窺うスズ。

 しかしこうも刀を振り回されては、手の出しようがない。

 恐らく刀も軽くしているだろう。


 その時。


 アデューラが何かに足を取られたかのように体勢を崩した。

 その瞬間、刀による攻撃も止まる。


 それを好機と見たスズは、地を蹴る。

 そして腕を振りかぶり、アデューラの顔面目掛けて思い切り拳を叩きつけた。


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