179話 忍び寄る者達
「は、早く、ヒーローを呼ばないと……!」
暗い部屋の中で、男は転がった通信機に向けて血塗れの手を伸ばす。
周りには男と同じく血にまみれた人間が転がっている。
全員、死んでいる。
その伸ばした手をぐしゃりと踏みつける足がひとつ。
男があげる苦悶の声が、まるで心地よいとでもいう風に恍惚の表情を浮かべる白髪の男。
傷と縫い跡だらけの顔をこちらに向けてニタリと笑うその不気味な姿に男は息を飲んだ。
「だめ、だよ。応援は、呼ばせ、ない」
言葉を一つ一つ区切るように話す男。
大きな傷で閉じられていない青い左目が残忍にギラリと光る。
「やっほー、終わったぁー?」
その時、そんな間延びした声と共に一人の少女が部屋に入ってくる。
少女の髪もまた男と同じように白い。
「って、あちゃー、またたくさん殺したねー」
部屋の惨状を見て頭を抱える少女。
しかし、その声は子供のいたずらを見たときのように軽い。
「ああ、ミエド」
そちらの方を見て一言発する白髪の男。
「お前ら、どこから侵入したかは知らないが、外には大勢のヒーローが控えている! いずれ突入してくるぞ!」
男は二人に向けて叫ぶ。
その言葉に顔を見合わせる白髪の男と少女。
「なかにはAランクのヒーローもいる! お前らなんか──」
「えー、ミーちゃん、こわーい!」
男の言葉を遮って少女が体をかい抱いて言う。
「でもさ、ヒーローって建物の外にいた奴ら? それなら、全部殺しちゃったよ」
「は?」
少女の淡々とした報告に男は思わず声を漏らす。
殺した?
十数人はいた、Aランクも混じっていたヒーローたちを?
──たった二人で?
その瞬間、男の顔は歪む。
「あっは! いいねその顔! 恐怖ってカンジ!」
その顔を見て凄惨に笑う少女。
「でさぁ、ちょっと聞きたいんだけどー。試験中の生徒たちの防護服の制御室ってここだよね?」
その言葉に目を見開く男。
「な、なぜそれを──」
「てか、わかんなかったの? あたしたちがここを襲撃した時点で狙いはわかっているものだと思ったけど」
長い白髪を弄りながら少女は言う。
「ま、まさか、お前たちの狙いは──」
「そ。そーゆーことー!」
男の言葉に満面の笑みで答える少女。
「じゃあ、場所も、わかった、ことだし」
「うん、いいよ。殺しちゃっても」
その瞬間、男の意識は途切れた。
「で、どうする?」
「壊せば、いいでしょ」
少女の問いかけに白髪の男は腕を振って答える。
次の瞬間、爆発音と共に二人の目の前にあった機器類が破壊される。
「大雑把だねぇ」
「いいん、だよ」
そんな言葉を交わし、歩き出す二人。
「さあ、始め、ようか」
そう呟き、カラーは笑った。




