174話 “打雷”
「隼人!?」
煙の中に飛び込んできた隼人の姿に、驚愕の声を上げる日和。
その声に反応してこちらを振り返った隼人は、日和の姿を見てニッと笑う。
「よ、日和。大丈夫か?」
「だ、大丈夫って、あんたね」
わざわざ煙の中に飛び込んできた隼人に日和は呆れを隠せない。
しかし、当の隼人はそんなこと気にした様子もなく左右を見回す。
「これ、誰かの能力か」
「そうに決まっているでしょ……」
ため息を吐いて日和は言う。
「じゃあ、邪魔だな。どかすか」
「どかすって、あんた──」
「ちょっと荒っぽくいくぜ」
慌てる日和を他所に拳を振り上げる隼人。
「え、ちょ──」
「はぁッ!」
止めようとする日和を無視して気合いの声と共に拳を振り下ろす隼人。
その瞬間、隼人の拳を中心に暴風が吹き荒れる。
「きゃ!?」
中心から全方向へ吹き荒ぶ風に顔を覆う日和。
そして驚く。
煙が押し流されて吹き飛んでいく。
ある地点まで煙が押し流されたとき隼人が叫んだ。
「いたぞ、日和!」
その言葉の意味をすぐに悟る。
日和の近くに二人。
隼人の近くに二人。
メリアたちが立っていた。
四人は吹き荒れる風に吹き飛ばされぬように必死に耐えている。
「そっちは任せたぞ!」
そう叫んで自身の近くにいたメリアともう一人に突進する隼人。
その瞬間、暴風がピタリと止まる。
「ありがと、隼人!」
日和は短く礼を伝えると自分の近くにいる二人の少女の元に走る。
少女たちは暴風が止んだことに気付き、体勢を立て直そうとしている。
そして、走ってくる日和に気付いた一人の少女が隣の少女に叫ぶ。
「アーティ、来るよ! もっかい出す!」
「わかった!」
アーティと呼ばれた方の少女は頷き、片腕をこちらに向ける。
その腕がガチャリと機械的な音を立てる。
更に、もう一人の最初に叫んだ少女の体からは先ほどの煙が溢れ出ている。
二人と日和の距離は既に十メートルほどに縮まっていた。
しかし、日和が二人の元に辿り着くよりも前に二人の姿は煙に包まれてしまうだろう。
それは厄介だ。
煙を出している少女に指を向けて日和は叫ぼうと息を吸い込む。
しかしその瞬間、アーティと呼ばれた少女の腕が再びガチャリと音を立てる。
それを聞いた日和の脳内に警鐘が鳴り響く。
間一髪空中に飛び上がる日和。
その瞬間、アーティの腕から爆発音と共に何かが放たれる。
それは日和の眼下を銃弾のようなスピードで通り過ぎ、日和の背後で建物に着弾し爆発する。
「ごめんフィリン、外した!」
「大丈夫、間に合う!」
砲撃を外したアーティはもう一人の少女に向けて叫ぶ。
それに叫び返す、フィリンと呼ばれた少女。
二人の体を、完全に煙が覆い隠しそうになる。
しかし、それよりも前に。
「させ、ない!」
日和は空中で無理やり体勢を変えると、先程のように人差し指を煙を出しているフィリンに向ける。
空中で狙いを定めた日和は叫んだ。
「“雷撃”!」
その指から一筋の雷撃が放たれる。
その雷撃は狙い通り、フィリンの体を貫く。
「ぐッ!」
悲鳴を上げて倒れるフィリン。
「フィリン!?」
それを見たアーティが叫ぶ。
その瞬間、日和が地面に着地する。
その音にハッとしたようにアーティがこちらを見る。
しかし、それは遅すぎた。
地を蹴った日和は稲妻のごとく加速すると、すぐにアーティの眼前に辿り着く。
そして、拳を振り抜き──
「“打雷”!」
一言、叫んだ。
その瞬間、爆音と共に衝撃が発生しアーティの意識を奪った。
崩れ落ちるアーティの体。
やがてアーティとフィリンの姿が光に包まれ消える。
「なんとか、なったわね」
胸を撫で下ろして日和はそう呟いた。




