121話 お母さん
「そんな……」
火柱が収まった後も、大きな黒煙が皇宮があった場所を包んでいる。
それを見て、瑠香はその場にへたり込んだ。
皇宮が爆破された。
あの爆発では、跡形も残らないだろう。
アレンやウィスターの言葉から、あそこにはこの国の皇族である『エメリア』と言う人物がいたようだ。
きっと、その人も助からない。
その人は、きっとこの国のために頑張ってきたのだろう。
この国を、救おうと。
この国を、解放しようと。
その思いの結果が、これか。
これでは、その努力が報われないではないか。
その『エメリア』という人だけではない。
ウィスター。
フェイル。
レイナ。
テリア。
カローレ。
それに瑠香の仲間たち。
みんなが、この国のために頑張っていた。
それをこのような形で踏みにじるなんて。
許されていいはずがない。
悔しさに、瑠香は顔を歪める。
顔を伏せる。
その膝に、ぽたぽたと涙が垂れる。
と、その時。
淡い光が、瑠香の目の端に映る。
顔を上げる瑠香。
この光は、一体どこから差しているのだろう。
光を辿る瑠香。
その目が、徐々に見開かれていく。
皇宮があった場所。
そこから、光は出ていた。
黒煙の中から、漏れ出る光。
ゆっくりと立ち上がる瑠香。
仲間たちはその光を無言で見つめていた。
瑠香も黙ってそれを見守る。
それぞれの塔を繋ぐ通信機の向こうからも声は聞こえてこない。
あれほど騒がしかった皇都も、今は町中が沈黙していた。
黒煙が、ゆっくりと晴れていく。
その向こうから漏れる光が強く、確かになっていく。
そして、黒煙が完全に晴れ、その向こうにある物がはっきり見えてきた。
それは、巨大な水晶玉だった。
数十年間、輝くことが無かったその水晶玉。
失われた、この国の希望。
それが、今。
暖かで優しい光を発しながら、バベル帝国皇都を燦燦と照らしていた。
だれがその声を発したかはわからない。
始めは小さかった声。
町のどこかで上がったその声は、周囲に伝播し、次第に町中に広がっていった。
歓声。
町中が、歓声を上げていた。
瑠香も大声で泣きながら仲間たちと抱き合う。
革命は、成功したのだ。
その時。
空中に大きなスクリーンのような物が浮かび上がる。
そのスクリーンに一人の女性が映し出される。
女性は大きな玉座のようなものに座っていた。
傍に一人の男性が寄り添って立っているのが見える。
『みなさん、初めまして。私の名前はエメリア・レ・モナルカ・ディ・バベル。この国の、皇族でございます』
女性が柔らかな声で自らの名を名乗る。
それと同時に再び町中が歓声を上げた。
凜たちも歓声を上げながら抱き合っていた。
だが。
だが、瑠香は違った。
目を大きく見開き、スクリーンを見つめる。
そこでハッと我に返る瑠香。
踵を返して驚いたような仲間たちを他所に走り出す。
「瑠香ちゃん!?」
驚いたような凜の声すら耳に入らない。
何故だ。
何故。
間違いない。
とても若くなっている。
瞳の色も違う。
だが、それだけで瑠香が見間違えるはずもない。
十何年間も一緒にいたのだ。
「お母さん……お父さん……!」
瑠香は叫ぶ。
スクリーンに映された女性は自らをこの国の皇族だと名乗った。
だが瑠香にとっては違う。
その二人は神条恵麻と神条凛太朗。
瑠香の、両親だ。




