117話 通信会議
「それで、フェイルさん、爆弾は見つかったんですか?」
服が破れてしまったため、フェイルから貰った服を急いで着た瑠香は、フェイルに問いかける。
竜になるのは強力な能力だが、服が破れてしまうのはちょっとデメリットだ。
当分は封印しよう。
瑠香は、そう心に決める。
「それが、根元の方はあらかた見て回ったのですが、見つかりませんでした」
瑠香の質問に首を振るフェイル。
「そっか。どこにあるんだろう」
その言葉に凜が首を捻る。
「上の方は見たんですか?」
「それが、上階に行ける階段はこの広間にあるらしくて……」
「ああ、なるほど……」
実辰の問いにフェイルが答える。
それを聞いて瑠香は納得する。
さっきまでここで戦闘が行われていたため、上階に行くことができなかったのだろう。
「なので、今から上階に行こうと思います。皆さんはどうしますか?」
「はいはーい! もちろん行くのにゃん!」
フェイルの問いに元気よく答えるティア。
そうして全員で爆弾を探すことになった。
……のだが。
何と言うか、爆弾はあっさり見つかった。
広間から上階に繋がる階段を上ると、すぐに最上階に辿り着いたのだ。
上階というか、最上階しかなかった。
その最上階には一つしか部屋がなかった。
その通信室のような場所に、爆弾は仕掛けられていた。
スイッチを押すとすぐに爆弾は動作を停止した。
「なにこれ、超あっさりじゃん」
実辰が呆れたように呟く。
「そうですね……まさか、警備もなしとは」
茉菜も頷く。
「これを計画した奴は馬鹿なのか? こんな状態では止めてくれと言っているようなものだぞ。何か裏があると思ったほうがしっくりくるくらいだ」
「そうだね……」
充の言葉に瑠香は頷く。
確かに、これでは何か裏があるのではないかと疑ってしまう。
「聞くところによると、デラジスと言う男はとても臆病な男のようです。恐らく、皇宮に警備を集中させているのかと」
「そんなものかな……?」
フェイルの意見に首を捻る一華。
「ま、取り敢えず、爆弾は止められた。これで良しとするのにゃん!」
「そうだね」
ティアの言葉に頷く凜。
首を捻りながらも全員が頷く。
と、その時。
ブツッと言う音が部屋の中に響く。
そちらの方を目にやると、通信機のようなものが光っていた。
その通信機の上には『西塔』と書いてある。
『あ、あー、もしもし、聞こえてるかー? こちら西塔、爆弾は止めたぞ』
『ちょ、心! 誰が聞いてるのかわからないだから!』
『お、いいな! 俺もやりたい! メーデーメーデー、応答せよ!』
『なんやそれ?』
『知らね。映画で見た』
『えいが、とは何でしょう?』
『滅茶苦茶だな。メーデーは助けを求める言葉だぞ』
『珠輝、そんなこと言ってないで止めてよ! レイナさんも!』
『……めんどくさい』
そして通信機から流れ出す聞き覚えのある声。
その声を聞いて目を丸くする瑠香たち。
「みんな!」
瑠香は思わず叫ぶ。
『お、その声、もしかして瑠香か?』
通信機の向こうで身を乗り出すような音と共に隼人の声が聞こえる。
『こっちは爆弾止めたぞ! そっちは?』
「こっちも止めたよ」
瑠香はそう答える。
『瑠香か! そっちにはだれがいるんだ!?』
その時、心の声が聞こえる。
「こっちには私、充、凛、一華、実辰、茉菜、ティア、あとフェイルさん」
『ん? 知らねー奴がいるけど……まあいいか。こっちは俺と隼人、珠輝、日和、スズ、リー、あとレイナって奴だ』
『む』
心の言葉の後にレイナのムッとしたような声が聞こえたような気がした。
「瑠香、ちょっと変われ」
その時、隣に立つ充がそう言ってくる。
頷き、場所を譲る瑠香。
「おい、お前ら」
『お、充か』
充が声を掛けると心が返事をする。
「よくも勝手に行動してくれたな──と言いたいところだが、よくやってくれた。お前らのお陰で二か所の爆弾を止めることができた」
『け、偉そーに』
充の言葉に鼻を鳴らす心。
「ただ、まだ問題がある。わかるな?」
『ああ、俺たち全員が東西の塔にいるってことは、南北の塔が手つかずの可能性があるってことだろ』
「そうだ」
心の言葉に頷く充。
その言葉に感心する瑠香。
心は普段の言動のせいであまりイメージがないが、かなり頭の回転が速いようだ。
『え、そうなのか? すげーな、心!』
ただ、隼人はわかっていなかったようだ。
『あんたねぇ、少し考えれば分かるでしょ? ねえ?』
日和の呆れたような言葉が聞こえる。
同意を求めるようにそう問う日和。
「あ、あはは、そ、そうっすねー」
手を頭の後ろで組みながら実辰が言う。
その視線はあらぬ方向を見ている。
……実辰は、意外と頭が悪いのかもしれない。
生ぬるい視線で実辰を見る東塔のメンバー。
その時だった。
再びブツッと言う音が聞こえる。
今度は『北塔』と書かれた通信機が光る。
驚く瑠香たち。
西塔の通信機の向こう側からも身構えるような気配を感じる。
『こちら北塔。聞こえていたら応答してほしい』
そして流れ出す声。
その声はまたもや聞き覚えあるものだった。
「ウィスターさん!」
声の主の名を呼ぶ瑠香。
『お、ウィスターさんか!』
西塔からも隼人が声を上げる。
『よかった、君たちか。私は北塔の爆弾を止めることに成功した。そちらはどうだ?』
『西塔はもう止めたぜ!』
ウィスターの言葉に隼人が答える。
「東塔もです。ウィスターさん」
瑠香も隼人に続いて言う。
『そうか、よかった。あとは南塔だが……』
すぐに思考を切り替えたウィスター。
『全員が東、西、北にいる現状、南塔が無人の可能性が高いな』
そう呟くウィスター。
『と、するとだ』
「ああ、俺たちが向かう必要がありそうだ」
心と充が二人して言う。
『君たちは……?』
そこで怪訝そうな声を出すウィスター。
そう言えば、ウィスターと充たちは初対面だった。
「ウィスターさん、私たちの仲間です」
通信機の向こうにいるウィスターに瑠香は言う。
『そうか、探していた仲間と合流出来たんだな』
「はい」
聡いウィスターはすぐに状況を把握したようだ。
『私は北塔にいる。ここから南塔に行くのは無理そうだ。君たちに任せてもいいか?』
「任せてください!」
ウィスターの言葉に頷く瑠香。
その時。
またもや、ブツッと言う音が響く。
そして最後に残っていた『南塔』の通信機が光る。
『あー、もしもーし、こちら南塔。爆弾は止めたよ』
通信機から流れる声。
またまた、聞き覚えのある声だった。
驚く瑠香。
周りのみんなも同様の表情をしていた。
「アレンさん!?」
驚きすぎて思わず叫んでしまった。
通信機の向こうで沈黙が続く。
そして。
『……なんで、君がここにいるのかな。瑠香?』
アレンが静かにそう訊いてくる。
「あ」
マズい、と口を覆う瑠香。
そうだった。
瑠香たちが今ここにいるのは、アレンには秘密だったのだ。
仲間たちの非難の視線が痛い。
そして全員が黙っている。
充でさえもだ。
きっと怒られるのが嫌なのだろう。
だが、遅かれ早かれ皆怒られるのだ。
そうなれば、瑠香のすべきことはただ一つ。
「アレンさん。ごめんなさい。付いてきちゃいました。──『全員』で。てへっ」
できる限り可愛く、あざとく。
そして冷酷に、潔く仲間を売るのだ。
一蓮托生。
一人で怒られるのは勘弁だ。
『瑠香! おま、やりやがったな!』
『仲間を売りやがった!?』
『なんて奴や!』
通信機の向こうで心、隼人、リーが叫ぶ。
瑠香は知らん顔する。
『あ、終わった。人生終わった』
諦めたように言う日和。
アレンを何だと思っているのだろう。
『わ、私は止めたんですよ?』
あっさりと嘘を吐くスズ。
行くときはノリノリだったくせに。
「るうううううかあああああ!?」
「なんてことしてくれたのにゃ!?」
がくがくと瑠香を揺する実辰とティア。
「しらないもん」
プイッと顔を背ける瑠香。
その瑠香にジトっとした視線を向ける凜。
「瑠香ちゃん……なんで言っちゃうの……」
「怒られるときはみんな一緒、だよ」
にこりと笑い瑠香は言う。
その笑顔の迫力に慄いた様子の凜。
「アレンさん、ごめんなさい」
『……すまない』
「……すみませんでした」
一華と珠輝と茉菜はさすがと言うべきか、潔く謝罪を口にする。
『君たちね……』
呆れたように言うアレン。
『なんだ、騒がしいな』
その時、通信機の向こうから聞き覚えのない声が聞こえる。
『お、カローレじゃねーか』
『心、『さん』を付けた方が……』
心が声の主の名を呼ぶ。
その後にスズが何かを言っている。
「カローレさん。俺です。充です」
『ああ、君たちか』
通信機に顔を近付け充が言う。
どうやら、充たちとカローレと言う人物は顔見知りの様だ。
『おや、カローレ君。彼らと知り合いなのかい?』
『ああ、お前もな』
通信機の向こうで言葉を交わすアレンとカローレ。
『で、だ。充?』
アレンが充を呼ぶ。
「……なんだ」
返事をする充。
その表情は少しバツが悪そうだ。
『これは、一体どういう状況かな?』
「……すまない」
『いやあ、別に責めているわけじゃないんだけどね?』
謝る充に困ったように返すアレン。
『──すこし、いいでしょうか』
そこで声を上げるウィスター。
『おや、君は……』
ウィスターの声を聞き、驚いたような声を出すアレン。
『初めまして。私がウィスターです。あなたが、叔母上の紹介にあったアレンさんですね。ご無事そうで何よりです』
『ああ、そうだよ。ウィスター君、君も元気そうで何よりだよ』
『ありがとうございます』
言葉を交わすアレンとウィスター。
『アレンさん、謝りたいことが一つあるのです』
『ん? 何だい?』
『彼らをこの革命に引き込んだのは私なのです。彼らを責めないでやってください』
『ほう?』
ウィスターの言葉に興味深そうな声を出すアレン。
『アレン』
そこで更にカローレが声を出す。
『彼らはこの国の国民を守ってくれた。お前たちの関係と状況は知らないが……そのことに免じて、許してやってくれないか』
『カローレ!』
『心、『さん』をつけましょう……』
カローレの言葉に心が嬉しそうに叫ぶ。
『うーん、今はまだ状況が図り切れてないから何とも……』
二人の言葉を聞き、呻るアレン。
『二人がこう言っているから、今は追及をしないでおくことにするよ。でも、いくつか質問がある。正直にそれに答えてくれ』
「ああ」
アレンの言葉に頷く充。
『ジャストはどうしたんだい? 君たちを見張っておくように頼んでおいたはずなんだけど……』
『さあな! 会ってないぜ!』
アレンの一つ目の質問に元気よく答える心。
『そうか……ジャスト、怒ってるだろうな……』
憂鬱そうに言うアレン。
『連絡は来ていないのか?』
そこでそう訊ねる珠輝。
そういえばそうだ。
なぜ、瑠香たちがいなくなった時点で、ジャストからアレンに連絡がいかなかったのだろう。
ジャストが連絡しなかったとは考え辛い。
『ああ、水晶指輪には二つの種類があってね。異なる世界にいても連絡できるタイプと、そうじゃないタイプ。ジャストのは後者だから、僕に連絡できなかったんだろうね』
「へえ」
初めて知った情報に瑠香は感心する。
『って、そうだ。まだ質問が残っているんだった』
そこで思い出したように言うアレン。
『質問その二。どうやってここまで来たのか』
『ああ、ユナイテッドの転移装置を使ったんだぜ』
そこで事もなげに答える隼人。
『転移装置の使用許可はどうしたんだい?』
「多分、エスタさんが許可してくれたんだと思います」
アレンの問いに答える瑠香。
それしか考えられない。
『ああ、あの人か……なんで止めてくれなかったんだ……』
ぶつくさと呟くアレン。
『ん? 待てよ、あの転移装置は複雑な構造だった。君たちに動かせるとは思えない。だれか、協力した人がいるね?』
そこで気付いたようにアレンが言う。
その言葉に顔を見合わせる瑠香たち。
そして恐る恐る真実を話す。
「あの、知らない人が動かしてくれました……」
『──なんだって?』
「その、動かしてもらったんです……」
『一体誰にだい? 今、とんでもないことが聞こえたような気がしたんだけど?』
「その、知らない人、です」
瑠香は身を縮めて答える。
『まさか、知らない人に操作を任せたのかいッ!?』
驚愕したように叫ぶアレン。
驚いて耳を塞ぐ瑠香。
『充! 僕は君をそんな風に育てたつもりはないよ!?』
少し怒ったようにアレンが言う。
『言っただろう!? 転移は命が懸かっているんだ! それを見ず知らずの人に任せるなんて──』
「アレン、俺が悪かった。あの時はどうかしていた」
そこで素直に謝る充。
『でも名前は言ってたぜ? なんだっけ、あいつの名前』
『えーと、確か……』
心と隼人が言う。
『君たちね、名前を知っているだけじゃ知り合いとは言えな──』
『ああ、『ソル』だ』
アレンが小言をいう中、空気を読まずに心がその名を言う。
『──なんだって……?』
囁くようにそう言うアレン。
『だから、ソルだよ。ソル。あと他になんか言ってたな。なんだっけ』
「『空白を待つ者』。そう、言っていたな」
心の後を継ぎ、充が言う。
『……間違いない、『ソル』だ』
アレンが戦慄したように呟く。
『なんだ、知り合いかよ』
『いや、まあ、知り合いと言えば知り合いかな……』
そこで言葉を濁すアレン。
『ん? どうしたんだよ?』
『……いや、なんでもないよ』
心が訊くがアレンはそう言う。
『まあ、転移の問題は解決した。次の質問で最後だ』
『ああ、ドンとこい!』
アレンの言葉に大声で返す隼人。
『それぞれの塔に、〈黒の使徒〉がいたはずだ。どうした?』
その質問に込められた重さに瑠香たちは息を呑む。
『まさかとは思うが会ったりしてないだろうね』
「アレン……すまない」
そこでまた充が謝る。
『その様子だと出会った、いや、交戦までいっているね?』
「……ああ」
アレンの言葉に充が頷く。
『怪我人は?』
「こっちはいない」
『こっちもだ』
アレンの問いに答える充と隼人。
『……奇跡だ。君たちだけで切り抜けたのかい?』
『こっちは助っ人がいた。そいつに助けられた』
心がそう答える。
「こっちは自分たちだけでなんとか、って感じです」
瑠香も続いて言う。
『なるほど……倒したのかい?』
『倒したんだが……逃げられた』
悔しそうに心が言う。
「こっちは倒せなかった。撤退してくれたようだがな」
充が言う。
『そうか。取り敢えず、君たちが無事で何よりだよ』
瑠香たちの報告を聞き、安心したようにアレンが呟く。
「取り敢えず、これで四つの爆弾は止められた。この後はどうする?」
『うーん、そうだね……』
充の言葉にアレンが答えたその時。
『全ての爆弾の停止を感知しました。時限爆弾を作動します』
そんな声が、止まったはずの爆弾から流れ出た。




