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114話 西塔にて 決着

 

「〈黒の使徒〉、だと……?」

 心が呆然としたように呟く。


「そ、そんな……」

「……マズいな」

 日和が微かに震える。

 呟く珠輝の表情は動かないが、微かに眉が顰められている。


「あらぁ、怖がらせてしまったかしら?」

 自らを〈黒の使徒〉の一員だと名乗ったリリアンと言う女は、隼人たちの反応を楽しむかのように笑う。


 隼人はジリッと後退る。

 その頭の中はいつになく回転していた。


 なぜ〈黒の使徒〉がこんなところに?

 なぜ、西塔を守っている?

 どうすれば、この場を切り抜けられる?

 相手は隼人たちのことを知っているのか?


 そんな考えが頭の中をぐるぐるとめぐる。


 その時。


『──みんな』

 イチヤが声を発する。


 日和の肩がぴくりと震える。

 スズが少し心の方へ顔を傾ける。

 リーが微かに腰を落とし、珠輝が視線を揺らす。

 心はイチヤの言葉に反応せず、リリアンを睨み付けたままだ。


 隼人は舌で乾いた唇を舐めた。


『これから、僕が考えた作戦を話す。返事はしないでくれ』

 そう言うイチヤ。


『まず、合図で全員同時に奴に向かって走り出してくれ。そして、次の合図でバラバラに散開してくれ。相手の虚をつくんだ』

 行き当たりばったりの作戦を話すイチヤ。

 だが、理にかなっている。


 一斉に飛び掛かってきた敵が次の瞬間バラバラに走り出したら、きっと混乱するはずだ。

 それにより敵の判断を一瞬でも遅らせるという作戦。

 今は、それに賭けるしかない。


 その時、待ちくたびれたように口を開くリリアン。


「ねえ、にらめっこもいいけど、そろそろ遊ばない? いい加減退屈して──」

『今だッ!』

 リリアンの言葉の途中で叫ぶイチヤ。


 突然の合図。

 だが、身構えていた隼人たちは全員遅れることなく走り出す。


 突然自分に向かって走り出した隼人たちを見て目を丸くするリリアン。

 しかし、すぐに表情を切り替え、妖艶な笑みをその顔に浮かべる。


「いいわねぇ! あなたたち! 相手してあげるわ!」

 リリアンが叫んだ、その次の瞬間。


『散開ッ!』

 イチヤの叫び声が響き渡る。

 その声を聞いて地を蹴る隼人たち。


 全員が見事にバラバラの方向に走り出す。


「──あら?」

 てんでバラバラに走り出す隼人たちを見て目を回すリリアン。


 しかし。 


「──つまらない小細工。こんなものかしら?」

 それはたったの一瞬だった。


 目を閉じるリリアン。

 その瞬間、隼人は嫌な予感がした。


「──〝怒髪(どはつ)〟」

 呟くリリアン。

 その美しい髪が怪しく蠢き、そして。


 物凄いスピードで伸び、隼人たちに迫る。


「ッ!?」

 それを見て目を見開く隼人。


「きゃっ!?」

 小さな悲鳴が聞こえた。

 走る日和の手にリリアンの髪が巻き付いたのだ。

 それに引っ張られてガクンと体勢を崩す日和が見えた。


「日和ッ!」

 自分に迫る髪から逃げながら隼人は叫ぶ。


「隼人! 前だ!」

 その時、そう叫ぶ珠輝の声が聞こえた。

 前を見る隼人。


 そこには隼人を飲み込もうとうねる髪の毛の奔流があった。


「ちッ! “噴射(ジェット)”ッ!」

 咄嗟に足の裏から風を噴射させて空中に飛び上がる。

 下では隼人を捕らえ損ねた髪の毛が蠢いていた。

 更に、空中に逃げた隼人を捕まえようと上にまで伸びてきた。


 それを空中を飛び回り回避する。

 逃げ回りながら下を見る隼人。


 珠輝、スズ、リーは髪の毛から逃げ惑っている。

 日和は手に巻き付いた髪の毛を解こうともがいている。


「“C(キャノン)”ッ!」

 心が叫び、リリアンに向かって突進する。

 その勢いに心に巻き付いた髪の毛が振りほどかれた。


「“小刃(ドゥアンジアン)”ッ!」

 心の突進を見たリーが援護のためか小さな刃をリリアンに向かって飛ばす。

 それは髪の毛の壁に遮られリリアンには届かない。


 しかし、それで十分だった。

 その隙に髪の壁を突進で突き破る心


 リリアンに迫る心。

 拳を振り上げ、渾身の一撃を放とうとする。


 しかし、それよりも前にリリアンの髪でできた巨大な塊が側面から心にぶち当たった。


「ぐッ!?」

『心!?』

 吹き飛ばされ、壁に激突する心。

 イチヤが心の名を叫ぶ。


「そんな! 心!」

 髪から逃げ回っていたスズが叫んだ。

 その一瞬の隙にスズに絡みつく髪の毛。


「くっ、──〝火行〟、“猛焔”っ!」

 呻き、巻き付いた髪の毛に手を向けるスズ。

 その掌から炎が噴き出した。

 髪を焼き切り、心の下へ走り出すスズ。


 髪の毛から逃れようと走り回る珠輝。


 飛び跳ねて髪の毛の流れを回避する。

 走り続ける珠輝は、突然前傾姿勢になる。

 そしてズルッと地面の中に滑り込む。 


 それを見て隼人は目を丸くする。


 珠輝の能力は砂だ。

 ものを砂に変える能力。

 あんなこともできるのか。


 珠輝を見失ったリリアンが珠輝が消えた辺りに目を向ける。


 その時。


「“B(ブラスト)”ッ!」

 心の叫び声が聞こえる。

 それと同時にリリアンに向かって飛来する魄の弾。


 それを一瞥するリリアン。

 髪が蠢き、リリアンの前に壁を作る。


 髪の壁に着弾する弾。

 口を端を歪めてリリアンは笑う。


 その時、ガクッと体勢を崩すリリアン。

 その片足が地面に埋まっている。

 珠輝の砂だ。


 その隙を見逃さない隼人。


「“突風撃(ヘルム)”ッ!」

 空中で空を殴りつけるように腕を振る。

 その拳が風となりリリアンに迫る。


 高速で迫る隼人の拳を、髪ではなく自らの掌で受け止めるリリアン。

 衝突音が響き渡った。


 その時。

 リリアンのすぐ背後の地面が爆発する。


 飛び散る砂の中で、珠輝が飛び上がる。

 リリアンの背に狙いを定め、掌を広げる珠輝。

 その掌に蠢く砂が集まる。

 そして珠輝は叫んだ。


「“砂粒弾(さりゅうほう)”ッ!」

 放たれる砂の弾。

 しかし、その一瞬の間に髪がうねりリリアンを守る。

 だが、ゼロ距離で放たれた砂の弾の威力を殺すことは出来ない。


 吹き飛ばされ、壁に激突するリリアン。

 その隙に隼人は日和の下へ向かう。


 日和は未だに髪の毛に捕らわれている。

 その日和に叫ぶ隼人。


「日和! 放電だ!」

 驚いたように隼人の方を見て頷く日和。


「“雷撃(ライトニング)”!」

 叫ぶ日和を中心に雷が走る。

 ものすごい音を立てて黒焦げになる髪の毛。


 しかし、新たな髪が日和を捕らえんと蠢く。


「日和! 飛べ!」

 日和に向かって飛びながら手を伸ばす隼人。

 それを聞いた日和は身を屈める。


 髪の毛が黒い波となって日和を飲み込もうとする。


 しかし、日和の跳躍の方が早い。

 空中に飛び出した日和の腕を掴み、その場を離れる隼人。


 日和を捕らえ損ねた髪の毛は、それでも隼人と日和を捕らえようと空中まで伸びてくる。


「ちッ! ちょっと荒っぽくいくぞ!」

「え、ちょっと──きゃっ!?」

 日和に向かって叫ぶ隼人。

 日和の返事を待たずに隼人は日和を上に放り投げる。


 そして日和を背で受け止めると、背負うような体勢になる。


「ちょ──!?」

「振り落とされんなよ!」

「きゃあっ!?」

 小さく抗議の声を上げる日和を無視して隼人は叫ぶ。

 そして迫る髪から逃れようと急加速する。

 いきなり加速した隼人に悲鳴を上げる日和。

 ぎゅっと隼人にしがみ付いてくる。


 追いかけてくる髪の毛を猛スピードで飛ぶことで回避する隼人。


「きゃああああああああっ!?」

 後ろの日和がうるさいが無視する。


 眼下では心がリリアンに向かって突進していた。

 そしてその背後に追従するスズ。

 心に迫る髪の毛をスズが後ろから焼き払っている。


 また別の方向からはリーが単独でリリアンに向かって走っていた。

 その手にはリーの能力で作り出したのか、鋭利な長剣が握られいる。

 その剣で髪の毛を切り裂きながら進むリー。


 珠輝の姿は見えない。

 恐らく、砂の能力で地面に潜って機を窺っているのだろう。


「隼人ッ! こっちに手回せるか!?」

「せやで! ボクたちだけじゃキツいわぁ!」

 下で口々に叫ぶ心とリー。


「悪い! 逃げるだけで精いっぱいだ!」

 飛び回りながら叫び返す隼人。


 正直、日和を背負って逃げ回る現状で手一杯だ。

 だが、日和を途中で降ろすことなどできない。

 その隙が無いのだ。


 心たちの方はと言うと、一進一退と言う感じだった。


 リリアンに近付くにつれて髪が増え防御力が増す。

 進むのはいいが、迫る髪を避けていると押し戻されてしまうのだ。


「あらあらぁ! こんなものかしらぁ!?」

 哄笑しながらリリアンは髪を操る。

 先程珠輝に吹き飛ばされたはずだが、ダメージを負ったようには見えない。


「ちッ! 化け物め!」

 飛びながら悪態をつく隼人。


 心、スズ、リーではリリアンに近付けない。

 珠輝がそこに加わっても同じだろう。 


 隼人が参加すれば状況は変わるかもしれない。

 だが、日和を背負った状態ではそれもかなわない。

 そして今、日和を下に降ろすのは不可能に近い。

 更に、今の日和は役に立ちそうもない。


 あの髪の速度、逃げるのも無理そうだ。


 詰んでいる。  

 相手は動いてすらいない。


 どうすれば、いい。

 この状況を、打破するためには。


 隼人がそこまで考えたそこまで。


「どいて!」

 そう叫ぶ声が聞こえた。

 驚いてそちらを見る隼人。


 広間の入り口付近。

 そこに誰か立っている。


 すらりと高い背。

 風になびく長い白髪。


 その叫び声を聞いた心たちが飛び退いた。

 それを見た人影は頭上高くに長剣を振り上げる。


「“祓魔光剣(エクスカリバー)”!」

 そう叫び、剣を振り下ろす人影。

 すると刀身が光り輝き、衝撃波が剣から放たれる。


 衝撃波は真っ直ぐリリアンに向かって飛んで行った。

 それを見て目を見開くリリアン。 


 髪の毛が蠢き、リリアンを守るように壁を作る。

 その壁に衝撃波が衝突し、そして。


 大爆発。

 砂埃が朦朦と舞った。


 爆風が吹き荒ぶ。

 隼人は吹き飛ばされないように堪える。


 しばらくすると砂埃が晴れた。

 広間は酷い有様だった。


 衝撃波の射線上の地面は抉れ、壁には巨大な穴が出来ていた。

 そしてその穴の前に血塗れで倒れ伏すリリアン。

 広間を覆いつくしていたリリアンの髪の毛は元の長さに戻っていた。


 リリアンが動かないのを確認して、隼人はゆっくりと地面に降りる。

 背負った日和を降ろす。


 そして衝撃波を放った人影に目を向ける。


「レイナ、さん」

 日和が呆然としたように呟く。


 そこに立っていたのはレイナだった。

 白い髪を振り払い、剣を納めるレイナ。

 そして隼人たちに向かって歩き出す。


「みんな、怪我はない?」

 そう訊ねるレイナに隼人は頷いて見せる。


「ああ、お陰でな」

 それを聞いて軽く頷くレイナ。


 そしてリリアンに目を向ける。


「あれ、誰?」

「は──お前、知らずにぶっ飛ばしたのかよ」

 レイナの言葉に目を丸くする隼人。


「──今来たばかりだし……」

 そう言い少し目を逸らすレイナ。


「君たちが苦戦してたみたいだから……」

「……まあ、お陰で助かったけどよ」

 溜め息をついて隼人は言う。


 そしてリリアンに視線を向ける。


 隼人たち六人がかりであれだけ苦戦したリリアン。

 それを、赤子の手をひねるかのごとくあっさりと倒したレイナ。


 やはり、レイナの実力は底知れない。


「おい、隼人。誰だそいつ」

 その時、隼人は声を掛けられる。

 振り向くと、そこには心たちが立っていた。


「……そうか。お前たち、初対面か」

 隼人はそこで納得する。


 心たちと合流したのは、レイナと別れた後だった。


「こいつはレイナ。味方だ」

 心たちに簡単に紹介する隼人。

 軽く頷くレイナ。


「レイナさん。この人たちは私たちの仲間です」

 レイナに向かって心たちを紹介する日和。


「よろしくな! しっかしあんた、さっきの凄かったな!」

 早速心がレイナに喋りかける。


「……どうも」

 それに対し、そっけなく頷くレイナ。


『心』

 そこでイチヤが声を発する。


「あ、そうだったな。俺たち、爆弾探しに来たんだった」

 思い出したかのように言う心。


「……敵は倒した。爆弾を探そう」

 珠輝が言う。

 その言葉に頷く隼人たち。


「待って」

 その時レイナが口を開いた。

 レイナに注目が集まる。


「あれ、見て」

 ある方向を指差すレイナ。

 その方向はリリアンが倒れていた方だ。

 全員がそちらに目を向ける。


 そこには異様な光景が広がっていた。


 地面に広がる黒い靄。

 そこに沈み込むリリアン。


「……なんや、あれ」

 リーが訝しげな声を上げる。


「おい、逃げられるぞ!」

 そこで叫ぶ心。

 そしてリリアンに向かって駆け出そうとする。


 しかし、レイナがそれを止める。


「待って。迂闊に近付いちゃダメ」

「ッ!」

 その言葉に足を止める心。


 そして警戒したように黒い靄に目を向ける。


 黒い靄はどんどんとリリアンを飲み込んでいく。

 その姿が完全に見えなくなった。


 それと同時に黒い靄は跡形もなく消え去る。

 その後には何も残らなかった。


「……終わった、のか?」

 珠輝がそう呟く。


「そうみたいですね……」

 頷くスズ。


「よし、これで敵はいなくなった。今度こそ爆弾探すぞ!」

 心が大声で言う。

 その言葉に隼人たちは頷いた。



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