110話 『扉』
暗い。
真っ暗だ。
なにも、見えない。
左右に首を振るが、景色は全く変わらない。
瑠香は思案する。
いったいこれは、どういうことなのだろうか。
「……世界軸?」
そう呼び掛けても、返事はない。
何が起きているのだろうか。
「ここ、どこだろう」
呟く瑠香。
ここに至るまでの経緯を思い出そうと、直前の記憶を辿ってみる。
そうだ。
瑠香たちは、今バベル帝国で革命を起こしていたのだ。
そして瑠香は監獄に来た。
そこで、ある男に会ったのだ。
ダグラ。
その男と戦い、そして負けた。
何度も蹴られ、最後には首を絞められた。
「──っ」
かたかたと体が震え出す。
恐怖。
苦痛。
諦め。
怒り。
そして──
目前に迫った、死。
その大きすぎる気配に、今でも体が震える。
呼吸が荒い。
体中が寒い。
だが。
そうだ。
気を失う直前に訊いた声。
瑠香を覗き込む顔。
充。
「みつる、……みつるぅ……」
その場にうずくまり、震えながらも、瑠香は充の名を呼ぶ。
何度も、何度も。
「ぅ……っ」
何かが頬を伝う。
それはとても熱かった。
ぼたぼたと涙をこぼす瑠香。
瑠香の名を呼ぶ充。
その声を思い出し、少しだけ瑠香の心は温かくなる。
それでも涙は止まらない。
死を前にした不安。
その不安は、充が助けてくれたことで消え去った。
今涙が止まらないのは、心の底から安心したからだ。
充ならば大丈夫。
きっと、瑠香を守ってくれる。
「みつるに……お礼、言わなきゃ」
そう言い、涙を拭う瑠香。
ぐすっと鼻を鳴らし、立ち上がろうとする。
その時。
巨大な気配を瑠香は感じ取る。
その気配は、瑠香の背後から溢れ出ていた。
驚いてそちらを振り返る瑠香。
そこにあったのは巨大な扉だった。
黒い扉だ。
重厚な造りで、とても人一人で開けるとは思えない。
周囲は真っ暗なはずなのに、その扉だけははっきりと見えた。
巨大な気配は、その向こう側にあった。
その扉に近付く瑠香。
そっと手を伸ばし、扉に触れる。
その瞬間、ドクンと扉が脈打ったような気がした。
そして、触れた手を伝って、扉の向こう側から『何か』が瑠香の中に押し寄せる。
驚いて手を引こうとするが、体が動かない。
その奔流に押し流されるように、瑠香の意識は闇に包まれた。




