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109話 東塔にて

 

「東塔ってあれだよね!」

 眼前に迫った巨大な塔を指して実辰が叫ぶ。


 一華たちは今、東塔を目指して東大通りを走っていた。

 東塔と監獄は割と近かったので、もう少しで着きそうだ。

 一緒に走っているメンバーは凛、実辰、茉菜、ティア、フェイルだ。


 瑠香は、いない。

 充もだ。


 先程、凛が充から連絡を受け取ったのだ。


 その内容は、瑠香が負傷し、動けない状態にあるというものだった。

 それを見た凜の反応は、劇的だった。


 真っ青になり、すぐさま瑠香の下に向かおうとしていた。

 それを止めたのは、一華だ。


 止めた理由は二つある。


 まず、今から監獄に戻るのは危険が多すぎるからだ。

 そして二つ目の理由は、爆弾の捜索は多い方がいいと判断したからだ。


 それらの理由を聞いた凜は、唇を噛みながらも一華の言葉に頷いてくれた。

 今も、心配そうに顔を歪めながらも一緒に走ってくれている。


 幸い、瑠香の怪我は命に別状があるものではないそうだ。


 でも、と一華は思う。

 これ以上瑠香が怪我をするのは、一華だって許せない。


(だから、充……瑠香のこと、お願い)

 監獄の中にいる充を思って一華は唇を噛んだ。


 その時。


 監獄の入り口の手前で、先頭を走っていたティアが足を止めた。


「どうしたの? ティア」

 実辰がその隣で足を止めて訊ねる。


「ティア?」

「……やばい、やばいやばい……!」

 目を大きく見開いてティアが呟く。


「こんなの、見たことない……やば過ぎる……」

「……ティア?」

 一華も心配になり声を掛ける。


「どうしたの?」

「こ、この塔の中……とんでもない化け物がいる……!」

「え? 化け物?」

 ティアの言葉に凛が小首を傾げる。


「そうだよ! 入るのやめよう!?」

 全員の方を振り返ってティアが叫ぶ。


「このままだと、全員殺される!」

「……そんなに強いの?」

 その言葉を聞き、一華はティアに問う。

 一華の問いに、ブンブンと頭を縦に振るティア。


 それを見て一華は塔の方に視線を向ける。


 確かに感じる。

 凄まじい威圧感。


 体が震えるのを感じた。


 でも。


「ティア、私は行くよ」

「……っ!?」

 塔の方を足を向ける一華。

 その手を掴んで、止めようとするティア。


「馬鹿なの!? とんでもなく強いんだよ!?」

「そうだね、馬鹿かもしれない」

 そう言いふと笑う一華。

 その笑みに、気圧されたように後退るティア。


「でも、やらくちゃいけないから」


 そうだ。

 やるべきことがある。

 それだけが進む理由になる。


 一華は他のメンバーを見回す。

 凛、実辰、茉菜、フェイルも頷いている。


「わ、私は……行け、ない……」

 俯いてティアが言う。

 その肩は微かに震えている。


「じゃあ、ここで待ってて、ティア」

 自分の腕を掴むティアの手をそっと外して一華は言う。


「……っ!」

 何か言いたげに唇を震わせるティア。


 一華は踵を返し、凜たちと共に塔の中に入る。

 ティアは、ずっとその場に立ち尽くしたままだった。


 塔内部の通路を歩く一華たち。

 どんどんと気配は近付いてくる。


 だが、足は止めない。


 しばらく歩くと、広間のような場所が見えてきた。

 その広間に足を踏み入れる一華たち。


 そして足を止める。

 広間の中央に、誰かいる。


 金色の少し逆立った髪。

 銀色の眼鏡。

 細い体をぴったりと体を包む、黒い皮の服。


 男は一華たちが近付いたのを感じたのか、その閉じた目をゆっくりと開いた。


「……よう」

 その金色の鋭い瞳に射竦められ、一華たちの体は硬直する。


 間違いない。

 この巨大な圧迫感は、この男から放出されている。


「待ってたぜ。お前らが来るのを」

 首を回しながら男は言う。


「あなたは、誰?」

 携えた木刀を握り締め、一華は問う。


「ああ、俺か。俺はアンデルフ。東塔を守っている」

 アンデルフと名乗った男は事もなげに答える。


「東塔を、守って……なら、爆弾の場所、知ってますか?」

 一華は問いを続ける。


「爆弾。ああ、知っているぜ」

 つまらなそうに頷くアンデルフ。


「本当ですか!」

 その言葉にパッと顔を明るくするフェイル。


「よかった。これで爆弾を止めらますね!」

 実辰も笑顔で頷く。


 だが、その言葉を聞き、アンデルフは首を振った。


「爆弾を止める? そりゃダメだ」

 それを聞き、不思議そうな顔をするフェイル。


「え、ど、どうしてですか? 何か、問題でも?」

「ああ、問題だらけだ」

「それは一体……」

 頷くアンデルフにフェイルが問う。


「俺が、お前らの敵だからだ」


「──は?」

 その言葉を聞き、フェイルがぽかんと口を開ける。


「ど、どうして、あなたは東塔を守っているって──」

「違いますよ、フェイルさん」

 慌てたように言うフェイルに一華は言う。


「東塔を守っているんじゃない。爆弾を止めに来た人から、東塔を守っているんです」

「その通りだ」

 一華の言葉にアンデルフはぞんざいに頷く。


「あなた、一体何者……?」

 一華はアンデルフに問う。

 その手は、木刀に掛けられている。

 それを見て、アンデルフはにやりと笑う。


「〈黒の使徒〉、『使徒の剣(グラディウス)』、アンデルフ」

 その言葉を聞き、一華たちは息を呑む。


 〈黒の使徒〉。

 一華たちが相対する巨大な敵。


 そうか。

 この男と同じレベルの強さの者が、〈黒の使徒〉には大量にいるのだ。


 そこで一華たちはようやく理解した。

 自分たちが敵に回した相手が、どれほど強大か。


 足が震える。

 手も震えている。


 だが、それでも相手を鋭く睨みつけるのを忘れない。

 一華はゆっくりと木刀を構える。


 動揺してしまった。


 何故ここに〈黒の使徒〉がいるのか。

 相手は一華たちのことを知っているのか。


 疑問は尽きない。

 だが、それを悟られてはいけない。


 不安も恐怖も、今は押し殺せ。


 『一華、勝つ必要はない。負けなければ、それでいい』


 それは、誰の言葉だったか。

 記憶の奥底から一華に語り掛ける声。


 ひどく、懐かしい。

 そんな思考に耽っていたその時。


 アンデルフが一歩踏み出すのが見えた。


 マズい。

 何かするつもりだ。


 慌てて一華も足を踏み出そうとした時。

 一華の横を何かが猛スピードで駆け抜けた。


 それは、目にも留まらぬ速さでアンデルフに突進する。

 そして、アンデルフの腹を蹴りつけた。


 吹き飛ぶアンデルフ。

 その体が壁に激突し、轟音と共に塔全体が揺れる。


 巻き起こった砂煙の中、すくりと立ち上がる一つの影。

 その姿を見て、一華は口を開く。


「ティア!」

「……心配だったから、つい……」

 振り返ったティアは恥ずかしそうに呟いた。

 そしてキッと砂埃の中を睨み付ける。


「ダメ。私の一撃じゃ全然ダメージ食らってない」


 ゆらりと砂埃が揺れる。


「いきなり蹴りか。いい動きだ」

 肩を回しながら砂埃から歩み出るアンデルフ。


 見た所、ダメージを受けた形跡はない。


「さてと、俺も少し本気で行くか」

 首を鳴らしアンデルフは一華たちに向かって歩を進める。


 その体がミシリと音を立てる。

 メキメキと言う音を立てて、巨大化していくその体。


 その変身を、唖然としながら見ている一華たち。


「ああ、ちっぽけだな。人間ってのは」


 巨大な牙。

 びっしりと全身を覆う鱗。

 縦に割れた瞳孔。 


 変身が終わった後、そこには巨大な竜がいた。

 牙を剥き出し、そう言う。


「なんだ、来ないのか? ……なら、こっちから行くぞ」

 息を吸い込む竜。


 その喉の奥に炎が揺らぐ。

 そこで我に返る一華。


「マズい! 来るっ!」

 一華は叫ぶ。


 それと同時に。


「“龍炎(カリエンテ)”ッ!」

 竜の口から爆炎が放たれた。



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