108話 西塔にて
「心、お前ら、どうしてここにいるんだ?」
皇都の西大通りを疾走しながら、隼人は隣を走る心に問いかける。
「ん? ああ、俺たちが転移した場所がちょうどこの国だったんだ。お前らは違ったみたいだけどな」
隼人の方を見て心は叫ぶ。
「充たちはどしたん?」
「別行動中だ!」
「──勝手に、な」
リーの問いに答える心の言葉を聞き、ぼそりと呟く珠輝。
『取り敢えず、僕たちの目的は今は一致している。『爆弾を止めること』だ。このまま一緒に行動しないか?』
「そうだな」
イチヤの言葉に隼人は頷く。
そして眼前にそびえる巨塔を見据える。
あの塔のどこかに、爆弾が仕掛けられている。
早く止めなければ。
隼人は走る足を速めた。
塔の根本付近まで接近した隼人たち。
「どうします?」
走る足を止めずスズが問う。
「突っ走るぞ!」
「おう!」
心の言葉に勢いよく隼人は頷く。
「ちょ、ちょっと、まだ心構えが……!」
「行くぞ!」
「あ!?」
日和が心を止めようとするが、それより先に塔の中に入ってしまう心。
「心!」
「──全く」
スズと珠輝がそれに続く。
「ほら、行くで」
リーも塔の中に向かって走って行ってしまう。
「日和、行くぞ!」
隼人もそれに続こうとし、後ろで立ち止まっている日和の方を振り返る。
「日和?」
「……分かったわよ……!」
軽く溜め息をついて日和も塔の中に入る。
全員で通路を走る。
「……待て!」
先頭を走る心の言葉に隼人たちは足を止める。
「どうした?」
「シッ、静かに!」
隼人は心の方を見て首を傾げる。
心は口に手を当てて静かにするように合図する。
『誰か、いる……!』
イチヤが緊張したように呟く。
「ん? あ、ほんとだ」
隼人は心の視線を辿る。
その先は広間のようになっていた。
広間の中央辺りに一人の女性が立っている。
手で自身の長い黒髪を撫でている。
まだこちらには気付いていないようだ。
「どうしたんだよ?」
物陰から女性の様子を伺っている心に、隼人は問う。
「……やべーな。あいつ」
『ああ。相当、強い』
心は女性から目を離さずに言う。
それに同意するイチヤ。
「あの方、かなりの手練れですね……」
女性を見たスズが冷や汗を垂らして言う。
「そやな、魔術騎士団なんて目やない」
リーも頷いている。
「そうか? 普通の人に見えるけどなぁ」
「私も……」
「……俺もだ」
女性の強さを図り切れていない隼人、日和、珠輝は顔を見合わせる。
「……どうしますか?」
スズが振り返って問う。
「敵か味方か分からない以上、関わらないのが妥当だ」
珠輝が正解に思える意見を述べる。
「でも、塔の中に入れるの、ここしかないみたいだけど……」
しかし、日和が周りを見回して言う。
確かに、ここまでの通路は一本道だった。
「……あいつの前に立つくらいなら、引き返した方がマシだ」
心が振り返って首を振りながら言う。
「つー訳で、引き返すぞ。他の道を探す」
そう言い、心が一歩踏み出そうとした時。
「あら? もう帰ってしまうの? せっかく賑やかになったと思ったのに」
そんな声が掛かる。
一斉に振り返る隼人たち。
そこには、隼人たちのすぐ傍に立つ先程の女性の姿があった。
「ちッ!」
舌打ちをして身構える心。
隼人は目を見開く。
一瞬にして距離を詰められた。
速い。
気付かなかった。
恐らく、能力者だ。
「お前ら! 逃げるぞ!」
振り返らず叫ぶ心。
その言葉に全員が駆け出そうとする。
「あら、それはダメよ」
しかし、それよりも前に、隼人は腕を強く引っ張られた。
「「「「「「ッ!?」」」」」」
全員の驚きの声が重なる。
通路から広間の方に向かって吹き飛ばされる隼人たち。
しかし、難なく広間の中央辺りに着地する。
そして、すぐさま女の方を見る。
女は通路付近に立ったまま、ゆっくりとこちらを振り返った。
「丁度いいわ。退屈していたところなの。私と、遊んでくれないかしら」
そしてこちらに足を踏み出す女。
「てめー、一体何者だ?」
女を睨み付けて心が問う。
その問いを受け、口に手を当てる女。
「そうね。名乗らないのは失礼だし、名前くらいは教えてもいいかしらね」
そう言い、女は薄く笑う。
「私はリリアン。──そうね、〈黒の使徒〉、『使徒の牙』と言えば、わかるかしら?」
そして軽く手を振るリリアン。
その手の甲には、黒い牙の刺青があった。




