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107話 理由と資格

 

 ウィスターは皇都の北大通りを、北塔に向かって疾走していた。

 塔はもうすぐ傍まで迫っていた。


 目の前にそびえる塔を見上げるウィスター。

 先程の放送によれば、あそこに爆弾が仕掛けられているはずだ。


 あの巨塔が爆破されれば、多くの被害が出ることは明白だ。

 なぜ、爆弾など仕掛けたのか。


 分かり切ったことだ。

 デラジスは、そしてエドランド帝国は、この国がどうなってもいいと考えている。


 ウィスターは唇を噛む。


 到底許すことなどできない。

 この国に暮らす多くの民はどうなってもいいというのか。

 踏みにじってもいいと、いうのか。


 そんな訳がない。

 そんなことが、あっていいはずない。


 誰しもが、幸せに生きたいと願うはずだ。

 そして、平穏を享受する権利がある。


 ならば。


 ならば、デラジスには、そしてエドランド帝国には、それを脅かす権利があるのか。

 あるはずもない。


 これはただの虐殺だ。

 必ず、止めなければ。


 ウィスターは足を速めた。




 北塔に辿り着いたウィスター。

 塔を見上げる。


 この巨大な塔の中から爆弾を探すのは一苦労だ。

 そして、それよりも大きな問題がある。


 無意識の内に、剣に手をかけるウィスター。

 ここからでも微かに感じる。


 塔の中に、何かいる。


 途方もない威圧感。

 まるで、怪物。


 ウィスターは覚悟を決め、塔の中に向かって歩みを進める。

 通路を抜け、一つの広場に辿り着く。


 その広間の真ん中に、男が一人立っている。


「──何者だ」

 ウィスターは男に問いかける。


「こらこら、いけませんよ。人に名を訊ねるときは、まず自分から名乗るのが礼儀というものです」

 しかし、その男は軽く指を振って諭すようにウィスターに言った。

 黒髪青眼に、優しそうな面持ちをしている。


「──しかし、まあ、私は寛大なのであなたの無礼は許すことにしましょう」

 高級そうな服を身に纏った男は、あくまで丁寧な口調で続ける。


「私はイオ、と申します。しがない魔術師でございます」

 イオと名乗った男は恭しく頭を下げる。


「イオ、か。ここで、何をしている?」

 柔らかな物腰。

 丁寧な口調。

 優しそうな顔。


 だが、それを見てもウィスターは警戒を解かずに問う。


 先程から感じる剣呑な気配。

 激流の如きそれは、目の前の男から放たれていた。


 剣に手を掛け、いつでも抜き放てるようにする。


 この男は危険だ。

 紛れもない強者。


「おや、随分と警戒されているようだ」

 しかし、物々しいウィスターの態度を見てもイオは余裕を崩さない。

 軽く肩を竦めて、微かに笑う。


「私はただ単にこの塔を守っているだけですよ」

「守る……一体、何からだ?」

 イオの言葉に眉を顰めるウィスター。

 その問いを聞き、イオは口の端を吊り上げ笑う。


 カツンッ、と手に持った杖を床につくイオ。


「──あなたのように爆弾を止めに来た侵入者から、です」

 そしてイオは足を一歩踏み出す。

 その姿が、一瞬にして掻き消える。


「ッ!?」


 咄嗟に剣を抜き放ち、防御態勢に入るウィスター。


 ガキィイイイインッ、という音と共に剣に何かが衝突する。

 強い衝撃が剣を伝い、ウィスターを貫く。


 衝突したのは、イオの持っていた杖だ。

 一瞬にして距離を詰めたイオが、手に持った杖で突き掛かってきたのだ。


「おや、止めましたか。素晴らしい反応速度ですね」

 後ろに飛んで距離を取ったイオが帽子のつばに触れて言った。


 冷や汗を垂らすウィスター。


 今のはギリギリ反応できた。

 だが、今以上の速度で向かってこられた場合は──


 恐らく、防げない。


「そのお顔、今の攻撃を続けられたら防ぎ切れない、と言うお顔ですね?」

 杖を撫でながら楽しそうにイオは言う。

 考えを読まれ、顔を顰めるウィスター。


「ご安心ください。今の攻撃は、私に出せる全力の攻撃でした。そう何度もできるものではございません」

 靴音を響かせながらイオはウィスターの方に向かって歩いて来る。


「私を、試したのか?」

「ええ。お気に障ったようでしたら申し訳ございません」

 ウィスターの言葉にあっさりと頷くイオ。


「なぜそんな真似を?」

「──私はこう考えます」

 ウィスタの問いを聞き、口を開くイオ。


「私の全力を受け止められない者に、私と戦う資格はない、と。だから、こうして戦う相手は選ばせてもらいます」

「──それは、利己的で、独善的な考え方だ」

「ほう?」

 そう返すウィスターに、面白そうに眉を吊り上げるイオ。


「では、あなたはどうお考えになるのですか?」

「さあな」

 首を振ってウィスターは答える。


「人の戦う理由は人それぞれだ。それを他人が完全に理解することは出来ない」

 そして剣を構えるウィスター。


「だが、人は誰しも戦う理由を持ち、戦う意志を持っている。それこそが、戦う資格と成り得る」

 ウィスターは、そう言い放った。


「く、くくく……ッ!」

 それを聞いたイオは肩を揺らして笑っていた。


「なるほど、なるほど……! これは、面白い!」

 そして杖を構えるイオ。


「考えは全く合いませんでしたが……いいでしょう。やはり、あなたは戦うに値する!」

 イオは身を屈め、疾走の準備に入る。

 ウィスターも同様の構えを取る。


「あなたの、名前は?」

「ウィスター」

 イオの問いに簡潔に答えるウィスター。


「私はイオ。ただのしがない魔術師であり、そして──」

 そう叫び、地を蹴るイオ。


「──〈(くろ)使徒(しと)〉、『使徒の牙(キノドンダス)』、イオでもあります!」



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