106話 牙
アレンは猛スピードで皇都の南大通りを駆け抜ける。
その後ろを少し遅れながらもカローレが続く。
その速度にアレンは舌を巻く。
(すごいなぁ。この僕の速度にここまで付いて来れるなんて、やっぱりただ者じゃない)
アレンがそんなことを考えていると。
「なあ」
後ろを走るカローレが声を掛けてくる。
「お前、一体何者なんだ?」
「また随分と直球な質問だね……」
その問いに苦笑するアレン。
「先程までは私と戦っていたのに、爆弾が仕掛けられていたことを知るとそれを止めようとする。お前の目的が見えない」
「ん? そうかい?」
カローレの言葉に首を傾げるアレン。
そして微かに笑い言った。
「僕の目的は、この国を守ること。それだけさ。それが皆で交わした約束なんだ」
「約束、だと?」
アレンのその言葉に怪訝そうに首を傾げるカローレ。
「それは一体──」
「おっと、もうそろそろ着くよ」
何かを言いかけたカローレを遮り、アレンは前方を指す。
そこにはすぐ目前まで迫った巨塔があった。
そこでアレンはふと足を止める。
「おい、どうした」
アレンの横で足を止めカローレが問う。
「いや、この気配……いる」
「……能力者か」
少し遅れて気付いたのか、塔の方を見てカローレが言う。
「大分強いな。そして自分が強いことをわかっている。気配を隠そうともしていない」
そう呟き、アレンは歩を進める。
「君はどうする? 来るかい?」
「……当たり前だ」
振り返らず問うアレンに、そう返すカローレ。
二人は揃って塔の中に入る。
通路を歩き、広間に出る二人。
「なるほど、俺の相手は、お前らか」
広間の中央に男が一人立っていた。
男はアレンとカローレを見て歯を剥き出して笑う。
「亜人、か」
男を見てカローレは呟く。
男には獣のような耳と尻尾が生えていた。
「ああ、いいぜ! お前ら! 強いヤツは好きだぜ!」
鋭い牙を見せつけるように剥き、男は言った。
「ね、僕たち、爆弾を止めに来たんだけどさ。爆弾がどこにあるか知ってる?」
「おい、何を言っている」
男の言葉を無視してアレンが問うと、慌てたようにカローレが言う。
「あ? 爆弾の場所は知らねェな」
「そうかい、残念」
そう言いアレンが踵を返そうとしたその時。
その足元が弾け飛ぶ。
「おいおい、待てよ。どこに行くつもりだァ?」
男は腕を振り抜いた姿勢でアレンたちに語り掛ける。
「へえ? 何のつもりかな?」
それに対し、アレンは余裕を崩さずに問う。
「何のつもりだァ? 何寝ぼけたこと言ってんだ! 今から! やるんだよ!」
そう言い男は両腕を広げる。
そして吠えた。
「殺し合いをッ、よォ!!」
そして地を蹴る男。
一気に加速した男はアレン目掛けて片腕を振る。
「“独爪”ッ!」
「ッ!」
アレンは咄嗟に〝練器〟を作り出し、男の一撃を防ぐ。
「へえ、この技、見たことあるな。亜人族特有の武術、〝牙爪空拳〟か」
「ははッ、よく知っているな!」
男は獰猛に笑い、身を翻す。
身を沈め、両腕を構える男。
そしてアレンに向かって突進しようとして。
──真横に、大きく飛んだ。
男が元居た場所を紅蓮の炎が通り過ぎる。
「私を忘れてもらっては困る」
「ははッ、一人ずつ相手してやろうと思っていたが──まあ、いい。まとめて相手してやるよ!」
炎の中から歩み出るカローレを見て、男は笑う。
「あッちち! わ、髪焦げた!」
辛うじて炎を避けたアレンは慌てて炎から距離を取る。
そしてアレンは男の方を見る。
「ねえ君、なんで爆弾を見つける邪魔するのさ?」
その問いに男は口の端を吊り上げて答えた。
「命令だ。爆弾を探しに来る奴は殺せ、と」
「へえ。誰がそんな命令を?」
「教えねーよ」
にやにやと笑って男は言う。
「じゃ、質問を変えよう。君は一体何者だい?」
「……おい」
質問を繰り返すアレンに、痺れを切らしたようにカローレが声を掛けてくる。
それを手で押し止めるアレン。
そして男の方を見やる。
男は肩を揺らして笑っていた。
「は、ははッ! 俺としたことが、名乗り忘れていたとはなァ!」
そして男は上着を破り捨てる。
筋骨隆々とした肉体が露になる。
そしてその胸。
そこに刻まれた、『黒い牙』の刺青。
それを見て、アレンは目を見開く。
「俺は〈黒の使徒〉、『使徒の牙』、エスタリオ様だッ!!」
そう叫び、エスタリオと名乗った男は地を蹴った。




