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98話 剛拳

 

「ん、なんや?」

 リーは首を傾げる。

 兵士たちの動きがおかしい。


 何かを窺っているような動きだ。


「なーんか企んどるやろ!」

 そう言いリーは拳を地面に叩き付ける。

 リーの膂力によって地面に罅が入り、吹き飛ぶ兵士たち。


 だが、兵士たちは口を固く閉ざしたままだ。


 数人が武器を持って突っ込んでくる。

 リーはそれを敢えて回避しない。


 リーの体に刃が突き立てられ、そして。

 ガツンッと言う硬質的な音と共に止まった。


「何ッ!?」

 驚きの声を漏らす兵士たち。


「無駄無駄。ボクに剣なんて効くわけないやろ」

 剣を受け止めたリーは首を振って言う。

 そしてにたりと笑った。


「──お返しや」

 次の瞬間リーは身を翻す。

 そして上段回し蹴りを放つ。

 吹き飛ぶ兵士たち。


 だが。


 その後ろからさらに突っ込んでくる兵士たちが複数人。


「だーから、無駄って言っとるやろが」

 それを見て嘆息するリー。

 そして身構える。


 その時だった。


「撤退!」

 命令が響き渡る。

 それと同時に引いていく兵士たち。


「なんや?」

 リーは首を傾げる。


「魔術騎士団が到着したぞッ!」

「急げ! 巻き込まれるぞ!」

「魔術騎士団……? ああ、あれか。ウィスターさんが話しとったヤツ」

 兵士たちの叫びを聞き、リーは納得したように頷く。

 魔術騎士団のことはウィスターから聞いていた。


 曰く、国を守護する精鋭部隊だとか。


「楽しみやなぁ」

 にやりと笑うリー。

 そして、ふと首を傾げる。


 何やら地響きのようなものが聞こえる。

 しかも──


「どんどん近付いて来とる?」

 リーは呟いた。


 次の瞬間。


 リーの左側面の壁が爆発した。

 宙を舞う瓦礫。

 その中から飛び出してくる一つの巨大な人影。


 人影は右肩を突き出すようにしてリーに突進してくる。


「随分と派手な登場やなッ!」

 腕を鋼鉄化させてリーは叫ぶ。


 リーの交差させた腕と人影の肩が衝突する。

 後方に大きく吹き飛ばされるリー。

 そのままリーは後方の壁に激突する。


「はっはっはッ! 少しやり過ぎたか!」

 突進してきた大男は肩を回しながら高笑いする。


「さすがに死んだか? ──まあ、このウーデイ様の突進を食らって生き延びるなんてことあるはずも──」

「あー、びっくりした」

「何ッ!?」

 豪快に笑い声を上げている男は、壁からひょこりを顔を覗かせたリーを見て目を剥く。


「挨拶もなしに突進て、びっくりだわぁ。もうちょっと手加減した方がええで」

 手をぱんぱんと払いながらリーは言う。


 そのリーを訝し気に見る男。


「貴様、なぜ俺様の突進を食らって死なない?」

「ん? 秘密や、そんなもん」

 舌を出してリーは言う。


「さ、そっちの質問に答えたことだし、次はこっちが質問させてもらうで?」

「答えていないぞ!」

「答えたやろ、『秘密』って」

「む、そうか」

 言いくるめられ口を噤む男にリーは内心ほくそ笑む。


(馬鹿やわぁ、こいつ)

 しかし、それを表情に出さずにリーは口を開く。


「で、あんた、何者?」

「俺様か! 俺様はウーデイ! 〈巨力騎士団〉副団長だ!」

 よくぞ訊いてくれた、と言わんばかりにふんぞり返って男は名乗る。


「ほーん、あんた魔術騎士団なんや」

「そうだ!」

 リーの言葉にウーデイと名乗った男は頷く。


「で、なんでボクに突進してきたの? なんか用?」

「俺様たちは貴様らを捕らえに来た! おとなしく命令に従え!」

 リーの問いにウーデイは素直に答える。


「え、嫌やけど?」

 リーはそう即答する。


「そうか……」

 その言葉を聞き、顔を下げるウーデイ。


 激昂するのかと思いリーは身構える。

 しかし。


 リーは首を傾げた。

 俯いたウーデイの肩が、微かに揺れていたからだ。


(笑っとる……?)


 そして響く小さな笑い声。

 その声はどんどんと大きくなっていく。


「くくく……ははははは!」

「なーにがそんなに可笑しいんや?」

 笑い続けるウーデイにリーは訊ねる。


 ウーデイは顔を上げる。

 その目が、残忍にギラリと光った。


「嬉しいからさ! 貴様はどうやら、素直に投降するつもりがないらしいからな!」

 そう言い地を蹴るウーデイ。

 ぐん、とその身が加速する。


 速い。

 猛スピードでリーに迫るウーデイの拳。


「なるほど、霊装とはまた違った身体強化……例の魔術ってやつかいな!」

 それを真正面から見据えるリー。

 その腕が鋼鉄化する。


「おらァッ!」

「“剛拳(ガンチュアン)”ッ!」

 二人の拳が衝突する。

 拳から生まれた衝撃波が、風となってリーの髪を揺らす。


「軽いなァ!!」

「くッ!?」

 ウーデイの拳に圧されるリー

 リーは後方に飛び退る。


「まだまだァ!!」

 後ろに飛んだリーを見て、身を屈めるウーデイ。

 そして地を蹴る。


 なんて速度だ。

 目の前に迫る拳を見てリーは目を見開いた。


 そして──


 歯を剥き出し、リーは笑った。


 額に衝撃。

 だが、今度は圧されない。


「何ッ!?」

 拳を受け止められ、驚愕したように叫ぶウーデイ。


「見たところ、その魔術とやらで身体強化しとるみたいやけど……」

 額で拳を受け止めたまま、リーは言う。


「常人よりかは強い、ってレベルや。弱いなァ、アンタ」

「何だとッ!?」

「だーから、言っとるやろ?」

 一歩後ろに下がり、リーは言った。


「アンタ弱すぎ。正直、つまらんわ」

 そう言うリーの表情を見て、ウーデイは一歩後退する。

 その顔は、戦慄したように歪んでいた。


「貴様、一体──」

「戦う気がないなら、帰り。ボクもアンタと戦う気なくなったわ」

 慄くウーデイは、目を見開いて問う。

 しかし、リーはそれには答えず背を向ける。


「よかったなぁ。このまま戦っていたら、アンタ死んどったで」

 背を向けて、手を振りながらリーが言う。

 その背を見た後、ウーデイは自らの掌を見た。


 震え。


 何故だ。

 気圧されたたと、いうのか。


(俺様が……? この、ガキに……?)


 ウーデイは拳を握る。


 有り得ない。

 ウーデイは魔術騎士団だ。

 この国においての、最強の戦士だ。


 だが。

 目の前の少年が見せた、あの表情。


 あれは、『邪悪』だ。


 狡猾で、非情。

 そんな『モノ』が、その表情からは垣間見えた。


 震える手を握り締める。

 ウーデイは吠えた。


(見下し、やがってッ!!)


 背を向けて歩いている少年を睨み付ける。


(ぶっ殺してやるッ!!)


 ウーデイは身を屈め、地を蹴った。




「なんや、せっかく見逃してやったのに……」

 後ろから聞こえる雄叫びを聞き、リーは振り返らずに呟く。


 背後から地響きが聞こえる。


「──馬鹿が」

 そう呟くと、リーは振り返った。


 迫るウーデイの巨体。

 リーはゆっくりと腰を落とす。


 そして拳を握る。


「ウォオオオオオオオオオオオオッ!!」

 叫び声を上げながら、突進してくるウーデイ。

 そのウーデイに向かって、リーは真っ直ぐ拳を叩き付ける。


「“剛拳(ガンチュアン)”ッ!」


 ウーデイの腹に、鉄を纏ったリーの拳がめり込む。

 後ろに吹き飛んで行くウーデイ。


 そのまま背後の壁に激突する。

 その動きは完全に止まっていた。


「ほーら、言わんこっちゃない。弱い癖に強いヤツに喧嘩吹っ掛けるなんて、馬鹿のすることやで」

 首を回しながらリーは言う。


「やっぱ、戦うなら人柱とやな。楽しかったなァ、珠輝との喧嘩」

 口を歪めてリーは笑った。




 



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