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隣の世界の君  作者: えく
3/3

 ここら辺で彼女との出会いを記しておこうと思う。

 ここで一番重要な人物は、今現在僕の隣の席に座っている、幼馴染の木葉太陽君。

 今では隣の席で時々声をかける程度の仲だけれど、中学一年生までは彼とこれでもかというほど仲が良かった。

 もっというならば遠目に見ると僕らにはそういう関係があるように見えていたらしく、よく彼の友人たちから揶揄われていたりしていたこともあった。

 そんな彼と、とあることをきっかけに全くと言っていいほど喋らなくなってしまったのだ。

 そのきっかけというのが葵ちゃんであるのは、いうまでもないだろう。

 中学一年生に慣れてきた頃、ここでようやっと彼女と出会う。

 彼女と初めて対面したのは太陽君を通してで、彼女は小学校高学年の時にこちらへ引っ越してきたらしく、二人が言うには親同士の付き合いで中ようなったと言っていた。

 僕からみた彼女の第一印象は元気な女の子。

 なんて曖昧な印象なのは訳あって、僕は女の子というものをよく分かっていなかったのだ。

 小学生の時にあの子が好きこの子が可愛い、と喋っているクラスの子たちに適当に返事をしていたぐらいで、恋愛には全く疎い。

 今時の子はませているというけれど、僕はきっとませていない方なのだと周りを見るとそう感じていた。

 .

 彼女はよく喋る子だった。

 太陽君の部活を二人で待っている時、「名前もう一回教えて?」 から始まり、血液型好きな食べ物嫌いな食べ物、趣味は何か、部活に委員会に太陽君との関係に、それからはずっと彼女からみた太陽君の話だった。

 僕から見れば、太陽君と葵ちゃんの方が恋人同士だったと思う。

 恋人同士だったと思うといったけれど、太陽君はずっとそれを否定していたけれど、今でもこの時の彼らは付き合っていたと感じている。

 現に太陽君の家から葵ちゃんが出てきたのを見たことがあるといううわさが、教室内でながれていた。

「葵はさぁ、近所付き合いみたいなもんだよ」と、陸上部の彼は何とも言えない表情で喋っていた。

 その後から、葵ちゃんと太陽君と、僕とでよく遊ぶようになった。

 お小遣いをあまり貰えない僕に気を使って、公園で話をするだけだったけれど、それは中学時代の一番の思い出である。

 一年生の秋、太陽君が僕と全くと言っていいほど話さなくなった。

 いつもは朝一緒に登校していたのに、その日に玄関の前で待っていたのは葵ちゃんだけだった。

 彼女の口からは大会に向けての練習で来れなくなったというだけで、その日一日太陽君と喋ることは一度もなかった。

 単純に疑問を持ち、彼の家にインターホンを押してまで聞きに言った僕を太陽君はあっさり「嫌いになった」の一言で追いやった。

 僕は頭を金槌で殴られたような気分に陥った。

「なんで、どうして? 僕何かした?」と、何度何度問いかけても、インターホン越しから聞こえてくる返事は、嫌いだからの一点張り。

 この事を葵ちゃんに話して、一通り泣いたところで彼女に抱きしめられ、それで生まれて初めて、恋に落ちた。

 恋に落ちるとはこういう事なんだなと、中学一年生にして初めて知った僕は、もしかしてませていたのかもしれない。

 けれど彼女は太陽君と付き合っているのだ、だからこの恋は実らないのだと自分に言い聞かせたが、太陽君との時間がなくなった後彼女がその穴を埋めてくれるようになり、このままでは駄目だと彼女から離れようとした二年生の冬、彼女に告白をされた。

「太陽君と付き合ってたんじゃないの?」

「付き合ってないよ、太陽とは、仲がいいってだけ」

 目尻を下げて笑う彼女は、「付き合ってくれるの? くれないの?」と、びっくりして何も言えない僕に詰め寄ってくるもんだから、気迫に押されて首を縦に振ってしまった。

 後に彼女から、「いつ告白してくれるんだろうってずっと待ってたのに」と、言われてしまい、悔しい気持ちやら恥ずかしい気持ちやらで一杯になり「申し訳ございません」とやけに丁寧に謝った。

 太陽君はその後も葵ちゃんとはよく話しているのを目撃した。

 その様子を見てこの前のことは夢なんじゃと思いもしたけれど、彼女との手を繋いで帰った記憶は確かに本物で、その日もコンビニの肉まんを分け合いながら一緒に帰ったのだった。

 幼馴染の距離感というのは、よくわからないものだと思ったけれど、それは僕と太陽君にも言えることだったのだろう。

 以上が事の顛末なのだけれど、これだと太陽君と僕との話のような気がしてならないので、僕が三年生、卒業式の時に彼女と初めてのキスをした日のことを書いておこうと思う。

 以下はあまり話に関係ないけれど、忘れたくない思い出なので許してほしい。

 その日は雨で、卒業式にしてはやけに全体がどんよりとしていた。

 僕はといえば、二か月前から葵ちゃんとけんかをしていて卒業式どころでではなかった。

 喧嘩というより葵ちゃんが一人で怒っていただけなのだけれど、僕らにとって初めての喧嘩だったので、どうしたらいいのかわからず、とにかく謝ったら負けなような気がして意地を張っていた。

 書いている今では思うけど、どう考えても僕が悪いので、悪いことをしたと思ったら、これから先はすぐに謝るべきだと助言を残しておく。

 喧嘩の理由は、僕が葵ちゃんに合わせて高校のレベルを落としたことについてだった。

 葵ちゃん曰く「行きたい高校に行ってほしかった」のようで、態々同じ高校である必要はないと叱られてしまったのだ。

 卒業式も無事に終わり、校門の前で親と一緒に写真を撮る同級生の列を、傘を片手に見ていれば、涙で顔をぐしゃぐしゃにした彼女に袖を引っ張られて、自転車置き場へと連れていかれる。

 初めて彼女の泣く姿を見てやっと、自分はとんでもないことをしてしまったのだなと、自覚した。

「ごめん、でも、でも僕は葵ちゃんと一緒の高校に行きたかった」

 慌てる僕を見た彼女は悲しそうに笑って、責任取ってよねと、乾燥した僕の口に、色付きのリップで潤った唇を押し付けた。

 びっくりして直立不動の僕に、「ファーストキス?」だなんてかわいく笑った彼女の眼には、もう涙はなかった。

 ファーストキスは、桃の味だったと彼女に伝えると、それはリップクリームだよと彼女に笑われた。

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