第8話 再会
目覚めてから3日後
ミクミは早朝からランニングしていた。あれから事情を聞いたところ、家の前で倒れていたミクミを最初に発見したのは、異変にいち早く気づいた母アルヴィアだった。
最初は、ウィクロード王国の病院に運んだものの、人間側の病院では処置が不可能と判断され急いでエルリットイム樹国に向かったらしい。
ミクミが行った精霊憑依は、精霊魔法の中では禁忌と言われている物だった。なぜ禁忌なのかというと、使用者の体にとても負担が掛かるからで具体的に
・自身が持つ魔力が半減するか消失する
・寿命が縮む
・体に何らかの異変が起きる(髪や目の色が変化する)
・精霊との契約が切れる
・精霊自体が消失する
・最悪の場合は死に至る
ミクミの場合は、魔力が一時的に消失したものの1か月の眠りのお陰で復活している。寿命は今後生きてみなければ分からない。特に見た目で分かるのは、黒髪だったのが一部がメッシュのように白髪になってしまい、各属性の精霊と同じ6色が所々メッシュで入っている。
目の色も元々母アルヴィアと同じ、エメラルドグリーンだったが左目が虹色になっている。精霊との契約は切れておらず、消失もしていない。
今はリハビリのために、軽い運動をして1か月間寝たきり状態の体力を戻そうとしている。ランニングが終わった後は、軽い筋トレをしようとしていた。
デメリットの大きい精霊憑依は、メリットはその代償以上の力を手に入れることができる。
・精霊から直接、知識を得ることが出来るので知能があがる
・数年~数十年も修行しなければ行使することも出来ない魔法も、瞬時に使える
・自身だけで天変地異を起こす程の魔力が一時的に無限に供給される
実際、ミクミはその知識のおかげで、知能が上がり、10歳の少女とは思えないほど大人びていた。その知識や膨大な魔力で地震や地割れ、さらには地中深くに眠るマグマを利用して攻撃していた。
次の日
ミクミは検査のために、病室で待っていた。検査は3日に一度行われており、異常がないかをこまめにチェックされている。
昼過ぎには検査も終わり、病室に戻ろうとしたミクミに誰かが話しかけてきた。
「ミクミちゃん、ちょっといいかしら?」
話しかけてきたのは、エルリットイム樹国のメルラーニャ女王だった。護衛も付けずにこっそり来たようだ。
「メルさん! こんにちわ。どうかしました?」
「貴女に面会したいという方が来ているのだけど、来てくれるかしら? 貴女が知っている人よ、今応接室にいるから。」
「分かりました、ついていきます。」
ミクミはメルラーニャ女王に連れられて、同じ世界樹内にある王宮へと向かった。
王宮内にある応接室の扉の前に到着すると、コンコンとノックし
「メルラーニャです。入りますね。」
「女王陛下、態々来てくださり光栄です。ミクミさんお久しぶりですね。」
ミクミに面会を求めてきたのは、ウィクロード王国のキャルタ魔法学校の校長先生であった。
暖かい紅茶が用意されたテーブルに向かい合い、校長とミクミが対面しやすいようにソファーに座り、1人用の座席にメルラーニャ女王がテーブルの横に座った。
「お体は大丈夫ですか?」
「今は訛った体を直すために軽い運動をしていますが、大体戻ってきました。」
「そうですか、それはよかった。早速何ですが、ここに来た理由なのですが。」
「はい。」
「貴族達との事件です。もう既に解決済みではあるのですが、当事者には話しておかなければいけないと思い来た次第です。アカネさんの殺人未遂で問題を起こした貴族達は全員、捕まり裁判を受けて、有罪となり処罰されました。少々、決闘時にミクミさんがやり過ぎてしまった事は不問となり、収まりました。」
「そうですか……。そういえばアカネちゃんは今はどうしているのですか?」
「アカネさんはミクミさんが一時的な治療をしたおかげで、後遺症もなく病院を退院されました。ただ、もうキャルタ魔法学校には行きたくないということで中退されました。」
「それはそうですよね。処罰されたとしても、そういうことを思っている貴族達はまだいますからね。」
「ですが、彼女は今はこの国の魔法学校で勉強してらっしゃいますよ。」
「え?」
突然のことでびっくりしてしまうミクミ。アカネは普通の人間なので、精霊魔法を専門とするこのエルリットイム樹国で、勉強しているというのは考えてもわからなかった。
「突然言われてもわかりませんよね。順を追って説明しますね。」
なぜ人間であったアカネがこの国で勉強しているのかというと、アカネは貴族達からイジメと称して瀕死の状態まで攻撃されて、覚えたての防御魔法をずっと魔力が尽きるまで使っていたという。
魔力も底を尽きて、衰弱した時、ミクミが見つけ精霊魔法で治療した。その時、魔力が空っぽのアカネの体に精霊の魔力が流れ込み、そのまま定着し半分は通常の魔力、もう半分は精霊の魔力を生み出す力が備わったらしい。
そうしたことでアカネは、人間でありながら後天的に精霊魔法が使えるようになった。
そういった経緯で、今は精霊とも契約して勉学に励んでいるという話をミクミはしみじみと何も口を挟まず聞いていた。
「アカネちゃん元気なんだ、よかったぁ。」
緊張の糸が切れて、肩の力も抜けてゆっくりできた。
「ミクミさんはどうしますか? まだ籍はこちらにありますが。」
「アカネちゃんと同じところでまた勉強がしたいです。」
「女王陛下、そういうことなので転校ということで籍を移しますがいいでしょうか?」
「ええ、ミクミちゃんならそう答えると思って、事前に準備してあるわ。」
「ありがとうございます。」
話は終わり、日も傾いてきたのでそのまま自分の病室へと戻っていった。
翌日、まだ病院で検査などもあるので通院は必要だが退院することになった。ミクミの両親は仕事が忙しく、臨時の保護者としてメルラーニャ女王が預かってくれることになり、王宮の一部屋を借りることになった。
昼になって、エルリットイム樹国唯一の魔法学校である、リスティ魔法学校にミクミは見学しに行くことになった。メルラーニャ女王の付き添いで世界樹に隣接している学校に向かい、校内散策や授業見学などをしていった。
最後に校庭で実技授業をしているクラスを見学していると、ミクミはふと見覚えのある顔が見えたが、授業中であるので話しかけずに黙っていた。
授業が終わると、生徒が女王がいることに気づいて、クラス全員で近寄ってきた。担任の先生も生徒もひざまずき、頭を下げた。
「アカネさんはいらっしゃいますか?」
突如として名前を上げられた当の本人は立って、近づくと
「あの……」
「あなたの友人があちらで待ってますよ。」
メルラーニャ女王が指さす先にはミクミがいた。それに気づいたアカネは急いで向かった。
「ミクミちゃん!」
「アカネちゃん!」
二人はそのまま抱き合う。
「ミクミちゃん、なんか姿変わったね。ごめんね私のせいで、生死さまよったって聞いたけど。」
「アカネちゃんは悪くないよ。私が怒って禁忌の技をやってしまって、髪や目の色が変わったのは後遺症だけど気に入ってるんだよ。」
「アカネちゃん、明後日から私もこの学校で勉強するよ。」
「また一緒にミクミちゃんと勉強できるんだね。」
それからミクミとアカネは卒業するまでずっとくっ付いていったのだった。