第5話 魔法学校
西王暦634年
ミクミは10歳を向かえた。この頃には精霊魔法の初級~中級魔法を使いこなせるまで成長する。6歳の頃に悪魔魔法…召喚魔法で呼んだケルベロスの3体は、子犬から中型犬サイズまでゆっくりと成長し、今では毎朝散歩に出かけるようになっていた。
そして今日はウィクロード王国のキャルタ魔法学校の入学式がある日。
キャルタ魔法学校は城下町の中心地に位置する学校で、学費が高めでほとんどの生徒は貴族出身が大半を占めている。高い学費を掃うことが出来れば、平民でも入ることが可能である。
この学校は特待生制度があり、入学試験で上位3位以内に入ることが出来れば、学費免除を受けることが出来る。ミクミは入学試験で堂々の1位を取り、学費免除を受けることが出来た。小さい頃からコツコツと、勉強してきたのが功を奏した。
早朝にケルベロスの散歩をした後、朝食を食べて制服に着替え、家を出る。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい。」
「頑張ってくるんだぞ。」
「うん。」
フォルネルとアルヴィアに元気よく見送ってもらった。
「ミクミちゃん、おはよう。」
道端で声を掛けられる。振り向くと、フォルシー居酒屋の常連客の娘さんである、友達のアカネ・ラトナーであった。アカネもミクミに魔法を教わり、なんとか上位3位にギリギリ入ることが出来たので一緒に登校することになった。
「アカネちゃんおはよう。」
2人仲良く手をつないで学校に向かう。
学校に到着すると、昇降口前に新入生クラス分けの名簿が掲げられていた。2人は自分の名前を探すと同じクラスで1年3組だった。1年は1~3組しかなく、それだけ試験が難しく合格できたとしても学費が高いので断念する者も多いため、人数は少なくなるようだ。
キャルタ魔法学校は1~3年までで、1年では魔法基礎から体力づくりなどを行い、2年からは魔法の中級~上級魔法を通常魔法、精霊魔法、悪魔魔法ごとに使える者をクラス分けし、専門的に教わる。最後の3年で、大人としての勉強から冒険者として働く道、騎士として国に尽くすかという色んなことを専門に学んで、卒業する仕組み。
魔法学校の入学するには年齢制限があるが、最低で10歳~最高で成人する18歳までとなる。先ほどのクラス分けは
1組 18~16歳
2組 15~13歳
3組 12~10歳までとなる。
普通12歳以下の子供はそこまで学力がないので入学するのは稀であり、2~3年生は2組までしかない。今回の新入生3組はたったの5人しかいなかった。
最年少はミクミとアカネの2人だけだったが、最初から友達がいるので気が楽だった。
そのまま、校庭に向かい、学年ごと組ごとに並んで入学式が始まる。この学校の校長が挨拶している。校長はハーフエルフの男性で外見は20代後半、この学校は貴族が建てたものなのでハーフエルフがいるのが驚きだった。
「新入生の皆さんは、ハーフエルフである私がなぜ校長なのかと疑問にお持ちだと思いますが、2年生や3年生の方には既に話していますが、ここの創設者であるラントルーナ伯爵の魔法の家庭教師だったことがあります。教え方が上手だと褒められまして、この学校の校長を任されることになったのです。
これで入学式を終わります。2年3年生は今まで通り、教室に戻って授業を始めてください。新入生の方々はこれから、ここで今の実力テストを始めます。そして新入生の担任を私が務めさせていただきます。よろしくお願いしますね皆さん。」
そして校庭には校長と新入生25人が集まる。2年3年生も新入生と同じくらいの人数だったため学力と金銭的な物が絡むために、とても入りにくい学校だが、卒業生は全員優秀な大人になるので評判は良かった。
この学校は王都に近いところにあるが、他にも北方面に2校、東に3校、南に3校。
そして1組から順にテストを行っていく。20m離れた的に向かって、自分ができる魔法を放つという簡単な物。難関な学校に入った者でも、基本的に初級魔法である〈火球〉を撃っていた。最年長の人は数人ほどは中級魔法である、〈火渦嵐〉という渦を巻いた炎を両手を重ねたところから撃ちだすというのをやっていた。
最後に3組の番が回って、最初にアカネがテストをし、一番最後にミクミがテストを受けることになった。アカネは無理せず、初級魔法を放ち見事にど真ん中命中させる。魔法が上手く発動して、的に当てれたのでミクミとハイタッチする。
別に決まりもなかったが、皆火属性魔法を撃っていたので、最後のミクミも火属性を撃つことにしたが、普通だとつまらなそうと思ったのか火の精霊 ヒーくんにイメージを伝えて魔法を発動することにした。
「よ~く狙いをつけてっと。」
火を弓の形状にして火矢を引き絞ると、なぜかミクミは矢先を空に向けて放つ。
「行け、〈拡散誘導火矢〉!」
的よりも斜め上の空へと、火矢を勢い良く撃ちだした。
周りはどこに撃ってるのか、錯乱したのかと笑われるが、ミクミも友人のアカネも校長も空に向かっていった火矢の様子を見ていた。すると、空で突然爆発のような現象が起きて、何かが地上に落ちてきた。落ちてきたのは、複数の火矢で拡散して落ちてきたのを、ミクミは空に手を掲げ力を送ると、数十本にも拡散した火矢が1つの的に目掛けて誘導させ全て命中したのだった。
「よし、うまく行ったね。どうですか校長先生?」
「素晴らしいです。あれは精霊と協力して魔法を発動したのですね。私も初めて見ますが上級魔法ぐらいですかね。」
冷静に先ほどの魔法を分析するが、校長も初めて見る魔法だったようだ。
「こういうのがあったらいいなと思って、考えたオリジナルの魔法です。」
「凄いね、ミクミちゃん!」
ミクミとアカネは再びハイタッチをした。
今の結果は成績には響かないものの、実力は示せたために学校中に広まることとなった。
それから月日が経ったある日のこと。
いつものように学校へ行こうと自宅から向かうのだが、途中で合流するアカネと会えなかったのだった。最初は風邪を引いて休んだのかと思い、そのまま登校するが学校にも連絡は来ておらず無断欠席となっていたのだった。
不思議に思った、ミクミは途中で早退してアカネの自宅に向かった。
「あのミクミです。学校にもアカネちゃんがいないので心配で来てしまいました。」
すると扉が開き、常連客のアカネの父親が出てきたがとても悲しい顔をしていた。
「あ、ミクミちゃんか。娘のアカネが昨日から家に帰って来てないんだ。自警団の方に捜索願いを出そうと思ったんだが、まだ1日も経ってないから出せなくてな。」
「分かりました、自分が探してみます。アカネちゃんの匂いが付いた物とかありませんか? ペットに匂いを嗅がせれば、どこかにいることが分かるかもしれません。」
父親が物を取ってくる間に、ミクミは悪魔魔法でケルベ、ルベロ、ベロスを自分の近くに呼び出した。アカネの匂いが付いた毛布を嗅がせて、いざアカネ捜索に乗り出す。
昨日からいないと言うことなので、学校の校門で追跡してみることにした。すると、ルベロが反応して、匂いがあったらしく付いていくと家とは真逆方向である北の方向に向かっていた。結構歩いていくと川を渡る大きな橋が掛けられており、その橋の下に匂いが続いていたのか土手を下っていく。
すると草むらに何かを発見する。それはアカネの鞄があり、いろんな物がぶちまけられていたのだった。引きずった跡があり、それを辿ると横たわっているアカネを発見する。
いろんな魔法でダメージを負ったのか火傷や服も燃え、一部は下着が見えるほどに手足には殴打された跡が残っており、衰弱しきっていた。
「アカネちゃん、アカネちゃん、聞こえる? ミクミだよ。ヒーくん、焚火をお願い。」
「分かったよ。」
火の精霊と風の精霊と土の精霊が息を合わせて焚火を作る。
「…………ミ…クミ…ちゃ…ん。来て……くれるって……信じてた……よ。」
地面にそのまま置いては体温が奪われると思い、光の精霊に力を借りて、光の柔らかい板を作りその上に乗せる。火の精霊で体温を温めつつ、闇の精霊の力でふんわりと闇属性の粒子で包み込み、熱が逃げないようにする。水の精霊と光の精霊で力を合わせて、アカネの自然治癒力を高めて傷跡を修復していく。
いつの間にか辺りは夕暮れ時になっていた。その頃には衰弱しきっていたアカネはなんとか意識を取り戻し落ち着いていた。
ミクミは何があったのかを聞くと、いじめに遭っていたそうで純血を重んじる貴族達に、ミクミはデビルハーフエルフという混血でアカネは普通の人で、ミクミは強すぎるので友人であるアカネを河原に呼び出して、魔法や暴行でそのまま殺そうとしていたのだった。
「私のせいで迷惑かけちゃった、ごめんね。」
ミクミは泣きながら、謝る。
「ううん、ミクミちゃんは悪くないの。私を助けてくれてありがとう。」
自分が混血だったせいで迷惑を掛けたのに、それでもアカネはミクミを信じていた。
「ケルベ、ルベロ、ベロスはアカネちゃんを連れて家に送ってあげて。」
「お嬢はどうするんだ?」
ベロスが言う。
「そりゃ、私の大事な友達を殺そうとしたんだよ。ケジメつけとかないとね、貴族達に。」
ミクミの心に復讐の火が灯った。