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前世の記憶があるだけです  作者: ぽろぽろ蜜柑
1/1

平和がいいです

町から離れた森の中で、私は自給自足の生活をしていた。

私を育ててくれていたおじいちゃんとおばあちゃんは去年、老衰のため失くなった。

両親はいない。私を生んだ母も産後数日で亡くなったらしい。


最初は一人になったことが寂しく、かなり落ち込んでいたけど周りの町の人たちの支えもあり早く立ち直る事ができたのがとても有難い。


それと早く立ち直れたのにはもうひとつ理由がある。

私には生まれる前の、つまり前世の記憶があった。


18歳の高校卒業式の時、運悪く交通事故にあった私はそのまま帰らぬ人となった。

その時の人生も両親はおらず施設にいたので、今回よりは大分ましだったのだ。



そんなある日、いつものように庭で農作業をしていた時だった。

私を監視するように見つめる視線に気がついたのは。

私は他の人よりも気配に敏感で、普通の人が気づかないようなことに気付くことがよくあった。


視線の相手はかなり慎重に見ているつもりらしくかなり気配が薄いのだけれど、私には分かった。

特に何かてを出してくるわけでもないので、私はいつも通り作業を続けた。


そして10分を過ぎたころ、その気配は無くなった。

何だったんだろうと思いながらも、その日1日は何事もなく過ぎ去った。



しかしその一週間後、また同じように私を影から見つめる視線に気がついた。

そしてまた同じく10分を過ぎたら気配がなくなる。

そんな事が等間隔で約1ヶ月過ぎた頃、私の家に来訪者が現れた。


昔のヨーロッパのような身なりの良い服を着た男性が数人だったので少し身構えた。

こんな片田舎に一体何の用なんだろうか?

道を尋ねて来たのかと思ったのだが予想は外れた。

なんと私に用があるようだ。

家の中に入ってもらい話を聞くと、私は貴族の子供で本当ならば貴族の屋敷で暮らさないといけないと言われた。

私の母は男爵家の娘で、元メイドで屋敷で働いていた頃に主人である父に手をつけられ私が出来たらしい。

たった一回のことだったらしいのだけどすごい命中率だと思う。


主人の妻と仲の良かった母は罪悪感からお腹が大きくなる前に置き手紙を置いて、実家にも戻らず誰も知っていることのない田舎へ逃げたのだった。


しかしなぜ母の居場所がわかったのか、なぜ私がその娘だとわかったのかと聞くと母が逃げた頃からとっくに分かっていたことだった。

逃げた後にすぐに捜索にかかり、あっという間に見つけたのだが、主人の妻である奥方にそっとしておくように頼まれたのだという。

あの娘の自由にさせてほしい、もし手助けしてと頼みに来たらすぐに助けてあげてほしいと。

妻大好きな手前、罪悪感から主人はそれを了承したのだった。


それから約16年の時が経ち、私を育てていた老人が亡くなったと聞いて落ち着いた頃に身寄りがなくては寂しいだろうと迎えに来たのだった。



しかし行くか行かないかは自分でも決めていいらしい。

一週間よく考えて答えを出すよう言われてその使者は帰っていった。

一週間待っている間は近くの村の旅館に滞在するらしく何か聞きたいことがあれば来るといいと言われた。


そしてあっという間に一週間後、その時がやって来た。

私の答えは決まっていた。

貴族の所へ行くことにしたのだ。

何も貴族のことを知らない私が貴族になるのはおかしいかもしれない。

だけど私を育ててくれていたおじいちゃんとおばあちゃんは日頃何事も挑戦だ、と言って私を育てていた。

無謀かもしれないけど、やってみたいことがあれば挑戦すること、やらない後悔はやる後悔よりもずっと強いんだと経験談だといって教えてくれた。


そこからは早かった、使者の一人がその事を報せるためにすぐに貴族の元へと走っていった。

私も早々に行くつもりで近所の皆に近々お別れをすることを伝えていたので、軽く挨拶を済ませ少しの着替えと母とおじいちゃんおばあちゃんの形見を持ち、この家をその日の内に出ていくことになった。

私が出ていった後のこの家は、近々結婚する友達に譲ることになっている。


思い出深い家をしっかり眼に焼き付け、私は旅った。






目的の場所までは馬車に使って移動し何回か宿泊を繰り返し約一週間後に貴族が、父が住んでいるという都に着いた。

田舎と違い街は賑やかだった。

馬車の通る両脇に見える店は色んな物が売っておりわくわくする。


そんな通りを過ぎしばらくすると、住宅街に入った。

まさにヨーロッパという感じの家が立建ち並んでいる。

そしてまたしばらくすると今度は豪華な、まるでお城の用な見た目の建物が建ち並ぶエリアに入った。

使者の話によるともう少しで着くらしい。




そしてある門の前で馬車が止まった。

馬車から降り、門の前へ行くと門番が扉を開いた。

門の向こうには見事な庭が広がっていてた。

その真ん中を馬車が通れる道があり、その向こうには立派な家があった。

馬車に乗ったまま中に入ることもできるらしいのだが、初めて来訪するのでまずは庭を眺めながら歩いてきてリラックスしてほしいという心遣いだった。

庭には色とりどりの花が咲き誇り、とても綺麗だった。


玄関までやってきて、私は扉の取っ手に手を掛けた。

まだ少し緊張しているのか扉を開けるのに少し時間を開けた。

そして落ち着いた頃、私は扉を開けた。

中には立派な貴族の服を着た男性と、優雅で派手すぎない、でも華やかなドレス着た女性がいた。

その傍らには私よりも年上に見える男の子とまだ歩いたばかりに見える男のがいた。

後ろには何人もの使用人やメイド達がいた。


みなそれぞれ嬉しそうな顔をして私を歓迎してくれた。

自己紹介を済ませ、これからお世話になりますと挨拶をするとそんな他人行儀でなくてもいい、少しずつでいいから甘えてほしいと父に言われた。

そしてその奥方である義母になる人にも、娘ができてとても嬉しい!と大変喜ばれた。

義兄や義弟も嬉しそうだった。

私はそれを見て、心からここに来て良かったと思うことができた。


もっと話をしていたいが長い馬車の移動で疲れているだろうと、私の新しく住む部屋へと義母が案内してくれた。

気軽にそして部屋を出るときに、気軽にお母さんと呼んでいいからね、悩みごとがあればいつでもいうのよと言ってくれた。

私は思いを込めてお礼を言った。



私にも専属のメイドつけてくれた。

元気ハツラツの笑顔が愛らしいメイドだった。

お風呂に入る時、一人がいいと言うとわかりましたと言って一人にしてくれた。

道具の使い方だけ教えてくれ、風呂場から出ていった。

部屋の備え付けの風呂場としてはかなり広く、落ち着いた色合いでかなり豪華だった。

浴槽には薔薇の花弁が浮かんでおり、とてもいい匂いがする。

髪と体を洗い風呂に浸かる。旅の疲れがほぐれていくのを感じた。

立派な馬車で移動したり、宿泊をしても疲れは溜まっていたようだ。


風呂から上がると専属メイドに丁寧に身支度をされた。

最近髪の毛をすぐ乾かすタオルなるものが流行っているらしく、嬉しそうに私の髪を拭いていた。

今までこんなものはなく、いつも髪を乾かすのが大変だったという。

都会ではこんなものが流行っていたのだ驚いた。


そして私専用にいつの間にか作らせたらしいドレスを身に付け、少し肌を整え晩餐を始めるために大広間へと移動することになった。


家族が揃った頃食事が始まった。

見たことのない、美味しそうな料理が目の前に運ばれてくる。

父と母からは作法はこれから覚えればいいから、今は見よう見まねで食べてごらんと言われた。


私は四苦八苦しながらもなんとか美味しく料理を食べることができた。


そしてデザートと紅茶が運び込まれた頃、これからの生活について説明された。

元庶民暮らしとはいえ、これからは貴族の一員として振る舞うこと、そのために明日から少しずつ貴族の事について勉強をするのだと言われた。


私は新しい家族の期待に応えるべく、力強く頑張りますと返事をした。

両親は嬉しそうに頷き、兄は頑張ってねと応援してくれた。


食事も終え自室に戻り、明日のために寝間着に着替えすぐにベッドへと入った。

睡魔はすぐにやってきてあっという間に眠ってしまった。

久しぶりに夢を見ずに深く眠った。




翌朝目覚めて、家族でご飯を食べた後に母と一緒にこれから勉強をする内容を聞いた。

貴族としての作法、食器の使い方やこの国の貴族の歴史、ダンスほ練習をするのだと言われた。


お茶会もあるけどまずは、身内だけで行うらしい。

まずはそれを目指して頑張ろうと思う。




それからまた半年経ち、色んなことを覚え慣れた頃に本当に身内だけの、家族だけのお茶会が開かれた。

上手くできるか不安だったけどそれは稀有に終わった。

家族だけだっため、楽しく固くならずに進むことができたのだ。

母からも次は私のお友だちを呼ぶわね!早く貴女を紹介したいのと嬉しそうに言われた。


ちなみに日頃の生活も上手くいっていて、兄弟関係もいい。

両親はいつも親切で、間違ったことも優しく諭し、危険なことには心底心配して注意してくれる。

兄も優しくて、いつも気にかけてくれる。

日中は貴族の学校に通っており、学校での出来事を面白おかしく話してくれた。

まだ小さい弟も私のこと慕ってくれている。

私を見つける度に、ねーちゃねーちゃと駆け寄ってくるのだ。

これがかわいくないはずがない。抱っこと手を伸ばしてくる体を持ち上げ、抱き上げる。

そうするととても嬉しそうに笑うのだ。

ある時はこれねーちゃにあげゆ!と言ってお花を持ってきてくれたときには泣きそうになった。実際に後で泣いたが。

そんな家族に囲まれ、私はこんなに幸せでいいのかと少し不安になった。



それから何度か母が開いたお茶会があり、年の近い子供達とも知り合いが増えた頃、両親に貴族の学校へ行ってみないかと聞かれた。

貴族の学校と言われてはいるものの、才能があれば庶民でも入れる学校で色んな人に出会えるチャンスだと教えてくれた。


私はそれに興味があり、すぐに行くと返事をした。

そして学校へ行く準備が終わった頃、私は学校閉鎖通い始めることになった。





学校の制服を着て校門の前に兄と一緒にいた立つ。

緊張して前に進めないると兄が安心するような笑みを浮かべて私の背中をそっと押した。

僕がいるから大丈夫だよと聞こえるようだった。

勇気を出して中に入り歩き始める。時々見知った顔を見かけ安心する。


兄に案内され教員室に入った。

担任だという先生に案内され教室へ向かう。

その途中で同じ教室には王族の皇子がおり、その婚約者もいるから気を付けてねと注意をされた。

生徒としては人柄はいいがちょっと癖がつよいと教えてくれた。




教室へつき、中にはいるとそこには男女入り交じった生徒達が座っていた。

そして転校生として今日から一緒に勉強すると紹介され、私はよろしくお願いしますと、軽く頭を下げた。

皆新しい仲間が増えたことに喜んでくれた。


貴族の学校はもっと少数制だと思っていたのだけれど、何年か前から体制が見直されたらしい。

身分に関係なく、男女区別ない教室になったのだという。


授業は歴史を学んだり、音楽をしたり、運動をしたりとまるで前世の学校と被ることが多かった。

なので比較的授業に慣れるのが早かった。

お昼には食堂へ皆行くらしく、私も誘ってくれた。

広く明るい食堂はたくさんの人で賑わっている。


お金は後で家で支払われるらしく、私は注文だけした。

日替わり定食というものがあり、その中で私はパスタセットを選んだ。

鮭と枝豆の入ったクリームパスタに、時間をかけて作ったような玉ねぎのスープ、新鮮な野菜にりんごと酢のドレッシングのかかったサラダ。飲み物には水にした。


どれも美味しかった。

食べている間に仲良くなった同級生の子が色んなことを教えてくれた。

この学校では暗黙のルールがあり、それを破ってはいけないのだと。

どういうことかというと、この学校に通う生徒は貴族の子供から庶民の子まで幅広い子供達がいること、無駄ないざこざが起こらないために一部上級貴族しか入ってはいけない部屋があることを説明してくれた。


そして食堂にもそういところがあると、中庭に近いところにあるテラスには行っては行けないと言われた。

そこは王族やその友人等しか入ってはいけないらしい。

ちらりとその場所を見ると何人か既に座っていた。

同じ教室の子が見える。

そういえば皇子とその婚約者が同じ教室だった。



面倒なことにならないようにと思い、私はあまり近寄らないようにしようと思った。






授業は前世の高校よりも早く15時頃には終わった。

兄が迎えに来て、自分はこれから少し学校で剣を習ってから家に帰るから先に帰るかと聞かれた。

私はもう少し勉強したいから図書館で待っていると兄に伝えた。

そして18時頃に待ち合わせ約束し、私は図書館へと向かった。

学校の図書館と言えどもさすが貴族の学校だった。

数えきれいほどの本が並び、まるで国営の図書館みたいだった。


私はその中でも比較的簡単そうな世界の歴史というタイトルの本を選び、庭の見える窓辺にあるソファに座った。


一時間程した頃、私は既視感を覚えた。

なにやら以前感じたことのある視線を感じたのだ。

しかしそれは一瞬でなくなり、私は気のせいだったのかと思うくらいだった。


その後は何事もなく過ごし、兄と家に帰りその日1日は終わった。



そして次の日も学校へ行き、授業を受けた後図書館へ向かっている最中だった。

ハンカチを落としましたよと、声をかけられた。

振り向くとそこには皇子が立っていた。

私は丁寧にお礼をし、そのハンカチを受けとるとできるだけ早くその場を退けた。

印象は悪くなかったはずた。

そう言い聞かせながら図書館へと向かっていった。



昨日の続きを読もうと同じ本を手に取った。

本を捲る音だけが辺りに響く。

この図書館には私の他にも生徒や教員がいるのだが、私が座っている席周辺には誰もいないのだった。

なので私はここに座り、一人静かに本を読むことができた。


そして今日仲良くなった友人に聞いた話によると、私が座るソファの反対側には上位貴族が放課後過ごす建物があるらしい。

だからと言って向こう側からしかよく見えないから、特に気にする必要もないと言われた。

でも知っていて損はないとも。



そんな会話をふと思いだし外を見た、確かに向かい側には他よりも立派な建物が見える。

すごいなーと思ってふと庭の方を見たら、皇子とその婚約者と数人のお昼を一緒にしている貴族達を見かけた。

皇子の方はなにやら落ち着きがなくそわそわしている。

そして私の見間違えか、普段おしとやかで静かな婚約者爆笑しながら皇子の背中を叩いていた。

そういうことに見慣れているのか周りの友人は呆れた顔だった。


それでいいのか皇子様よ、思いながらも私は本に視線を戻した。

視界の端で皇子が地面に手をつき、うなだれている姿が見えた。







そんな図書館で放課後を過ごす生活が何ヵ月か過ごした頃、学校でダンスパーティーが開かれるということで、男女混合で授業をする事になった。

貴族のためみなダンスは踊れるのだけど、まだ未成年のために公式なダンスパーティーに出たことがない子や、庶民の子もいたためにこの時間が作られたそうだ。


レッスンの間のパートナーは本番まで変わらないらしく、公平性を保つためにくじで組むことになった。

私が引いたくじには12番と書いてあった。

そしてパートナーとなる相手を探してみるとなんと相手は皇子だった……。

運命のいたずらとはまさにこの事か。

そう思ったがここ数ヵ月過ごして皇子は変な人ではないと知っていたので、私は別段気にしないでいた。

それよりも婚約者もの方は大丈夫なのかと横目で見てみたが特に気にしてはいないようで、くじでペアになった相手と楽しくお喋りをしていた。



練習中粗相がないように慎重に踊っていたため、皇子の様子を全く気にすることがなかった。

そして無事終わった後、丁寧にお礼をし私は側を離れた。


その後も授業で皇子とダンスを踊り、皇子と普通に喋れるようになり始めた。

皇子と言っても普通の男の子とあまり大差はなかった。

もちろん良い意味でだ。



本番前一週間になった頃、周りは本番のパーティーで踊るパートナーを申し込む姿が見られるようになった。

そのほとんどが相手の事が好きなんだろうと、伺え見えた。

私は青春だなぁと思いながらも、図書館へ向かい、いつものソファで本を読み始めた。

しかしダンスの疲れか瞼が重くなり、本を捲るスピードが遅くなってくる。


剣を習っていると言っていた兄も疲れていると言っていたのでしょうがない、と思っていると本格的に眠くなり始めた。

誰も来ないことをいいことに、私は栞を挟み本を閉じた。

そしてふかふかのソファにもたれ掛かった。

睡魔はあっという間に私を夢の世界へと連れていった。

どのくらい時間が経ったであろうか、何者かの気配が近づいて来るのがわかった。

しかし体を疲れていて起きる気にはなかった。

もし相手が先生でも起こられてもいいやと思うくらいに。



すると何やら頭を撫でられているような感覚になった。

んんん?なんだろうと目を少し開けてみた。

なんとそこには学校で変われているお猫様がいた。

みんなに可愛がれている猫で、例に漏れず私もお猫様のファンだった。

なんだお猫様だったのかー、と思い私は安心した。

猫は本当に可愛い、思わず破顔して猫の頭を撫でた。

んみゃあと猫は一鳴きして伸びをした。

それを見た私は再びくる睡魔に身を任せ眠りについた。

あと少し眠ったら起きよう。

学校のチャイムが聞こえる頃に、そう思い意識が閉じようとした時、額に少し湿った何がが触れるのに気付いた。

あぁお猫様ね、なんて思いながらも私は意識を手放した。




そして次の日、驚愕の出来事が起こった。

なんと皇子が私にダンスパーティーのパートナーになってくれるよう申し込んできたのだ。

ええ!?婚約者の子はどうするの!?と思いその子の方を見てみるも、その子は別段気にした様子もなく、逆に皇子を笑いながら応援していた。

皇子はせっかく一緒に練習をしたのだから、本番も一緒の方がいいと言っていた。その瞬間遠くからバキバキと何かが折れる音がした。

古くなった机が壊れたようだった。


私も踊りなれている皇子の方が良かったので、快く皇子の申し出を受け入れた。

パートナーに誘われる自信がなかったため、少なからず安堵した。



家に帰って晩御飯の時に、家族に練習相手だった皇子にダンスパーティーのパートナーに申し込まれたことを伝えた。

母はきゃー!素敵ね!!!なんて色めき立ったし、父は俺の娘が…なんて、素が出るほど落ち込んでいたし、兄も兄でふーん?あの皇子がね…とちょっと怖い笑顔で微笑んでいた。

癒しの末っ子はねーちゃきえーになるのー?なんて可愛いことを言ってくれた。

はぁ、愛おしい。


色んな反応をする家族に、もう!皇子は踊りやすいから申し込んだんだよ、というと母は目を真ん丸くし、父は喜び、兄は少し呆れていた。弟は相変わらず。







そしてダンスパーティーの本番の日、学校の授業はなく、夕方学校へ向かうことになっていた私は、ドレスを身に付けていた。

一部編み込まれ結い上げた髪に青い宝石の髪飾りをつけ、首には父がくれたダイヤのネックレスをつけ、母が選んだ空色の絹の生地でレースが控えめにあしらわれたドレスを着て、靴には紺色のヒールを履いた。

お化粧もいつもより念入りにされた気がする。


家族に見送られ、兄にエスコートされ馬車に乗り込んだ。

こんな夜遅くにあるのも、世間に出る前の練習という意味もあり、学校が休みの前日に合わせて開かれたのだった。




学校に着き、私は兄一緒にダンスパーティーの会場へ向かった。

この学校にはそれ専用のホールがあり、そこに入るのは今日が初めてだった。

途中で兄と別れ、私は皇子の元へ行くために待ち合わせの噴水広場まで歩いた。


そこには皇子といつものメンバーが既に待っており、みな楽しそうに会話をしていた。

そこに私が声をかけると、婚約者が先に振り向きこちらに気付くと驚いたのか小さくきゃっ!と言ってこちらを見た。

そして続くように周りのメンバーもこちらを振り向き、ひゅーと口笛を吹いたりした。

皇子も振り向きこちらを見た瞬間、ぴたりと動きが止まってしまった。

隣にいたは婚約者は全くそれに気付かず私の元へ駆け寄ってきた。

よくそんな高いヒールで走れるものだと感心する。

婚約者は私の両手を手に取り、とっても素敵よ!!!と心の底から誉めてくれた。

家族からは綺麗だと誉められても、家族贔屓にしか聞こえないため、客観的な意見を聞けて安心する。


後ろの方では友人達がいつまでぼーっとしてるんだよと皇子の肩を叩いていた。

はっとした皇子はこちらを見て歩み寄ってきた。

それに気付いた婚約者はそっと皇子に場所を空ける。

皇子は私の目の前にやって来たら、片膝をつけるような体勢になって真剣な眼差しで私を見つめ、改めて私と踊ってくれませんか?と聞いてきた。


どうして皇子が改めてこういうことを、しかも前よりも立派なやり方でするのがわからずにいたけど、皇子としてそういう行事的なものがあるんだと思いついた。

私は差し出された皇子の手を手に取り、喜んでと返事をした。


周りからはわっと拍手が巻き起こった。

いつの間にか大勢に囲まれていたようだ。





そしてパーティー本番が始まり、私は皇子と一緒に踊り始めた。何ヵ月も一緒に踊っているのでお互い慣れたものだった。

何曲か踊り終え、私達は飲み物や食べも物を食べるために端へ移動した。

ドレスに誤ってかかってもいいように、飲み物は水と白の葡萄ジュース等が置いてあった。

私は水を選び、それを飲んだ。

乾いた喉にそれは潤いをもたらした。


少し軽食を食べ談笑していた時、婚約者が皇子に踊りを申し込んでいた。

誘われてらよっぽどの事がない限り踊るのがこのパーティーの礼儀らしい。

皇子と婚約者は小さい頃からの付き合いの間柄らしく、楽しくお喋りをしながらおどっていた。

パートナーをとられた為か、少し寂しい。


そうして眺めていると、いつも皇子と一緒にいる友人が私に一緒に踊らないかと声をかけてきた。

私は了承し相手の手を取りダンスホールへと足を向けた。

皇子の友人はエスコートが上手で初めて踊ったとは思えないくらいだった。

そして2曲ほど踊り終えたあと、慣れない靴を履いてダンスを長い間踊ったりしたせいか、足首がいたくなりエントランスにある椅子に座った。

皇子の友人は他の女性徒と踊りに行くようだ。




休憩していると、飲み物を二人分持っている皇子が現れた。

色は薄いけど、味はしっかりとしていて美味しいと持ってきてくれたのだ。

お礼をいい飲んでみるとそれはライチだった。

ライチが好きだった私もとても嬉しかった。


皇子も隣に座ってきて、ライチのジュースを飲み始めた。

そして学校の話や家の話等、普段しない会話で盛り上がった。

皇子は体を動かす授業が好きらしい。

私は本を読むのが好きだというといつも図書館で読んでるな、と言われた。

毎日図書館に行くので有名らしい。

皇子は取りつくようにそんなことを言っていた。


ふと皇子がぽろりと好きな人いるのか?と聞いてきた。

私がいるよ、と答えると皇子は驚いたようにこちらを見た。

家にいる3歳になる弟でとっても可愛いのだと説明すると、そうか…とほっとした様子で溜め息をついていた。

そしてこちらを見たじっと見つめているかと思うと、ふいに片手を私の頬に手を掛け、真剣な眼差しでなにかを呟いた。


よく聞こえなかったのでえ?と聞き直そうと近づくと皇子も更に顔を近づけてきた。

その瞬間きゃっと声が聞こえ、そちらに顔を向けていさみると婚約者と友人達がこちらを見つめていた。





誤字脱字かあれば教えてくださると幸いです。

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