第六幕 第一試練終了
更新ペース落とします。
婚約者決定大会の開会式から一週間がたった今日、闘技場では武道大会が行われている⋯はずである。
なぜ断定形ではないのかというとリディアナは今、闘技場ではなく、近郊の森にいるからだ。報告書によると冬眠から覚めてお腹を空かせた熊が食料品を扱うキャラバンを襲ったようだ。
森はそんな物騒なことが起こったことを思わせないほど静寂で、ただただ新緑で華やかに彩られている。
だがそこに空気を読めない、いや、読まない男の声がギャンギャン響き渡る。
「あー僕も物騒見たかったー!強い奴とか凄い技が見れたかもしれないのにー!ねぇ、今からでも見に行ったダメかな?」
「駄目に決まっているでしょう。馬鹿なの?」
リディアナはやれやれと首を振った。
デュオ・ブラッドウッドというのがこの問題児の名前だ。ブラッドウッドはあのザルツ王国の貴族の名前にある。本人曰くデュオはそのブラッドウッド家の三男だということだが、ハーフェン王国の街で騎士団にスカウトしたリディアナからしてみれば本当か甚だ怪しいところだ。
俊敏で短剣などの武器を得意とするため主に潜入、偵察を任せることが多い。自称元暗殺で、自分より強そうな人がいると闘いたくなるそうだ。⋯ただし、不意打ちで。
「というか、僕が奴隷密売業者に潜入してる間になに面白そうなことになってんのさ。ずるいなあ。僕も立候補すればよかったかな。でも、だんちょーの夫とか無理かも。」
普段は団のムードメーカー、悪く言えば騒音の元である。
リディアナは一人で騒ぐデュオの頭に拳骨を落とした。
「そんなのこちらから願い下げよ。くだらないことを言っていないでしっかりしなさい。副団長がいない代わりなんだから。」
そう、あれからエドは一ヶ月休みを取っているため今はいない。とても心配だが、リディアナも自分のことが色々あって何も出来ない。
取り敢えずは今やれることを片付けなければ。
リディアナは頬を軽く両手で叩いて「よし!」と自分にも喝を入れた。
「さあ、手早く仕事を終わらせましょう。」
「「「はい!」」」「おっけー、がんばろー!」
一人を除いて息ぴったりで返事をした団員達をそこからは少数の隊に分けて森の奥まで探索することにした。
団員達の頑張りで、熊はまる一日はかからずに半日と少し程度で討伐することが出来た。
街に戻って来た頃には既に武道大会は終わっており、第一試練をクリアした上位50名が決定していた。聞くところによると、大きな怪我も事故も起きなかったらしい。賄賂で勝ち上がろうとした不届き者はいたようだが、もれなく兄が指揮する王立第一騎士団に締め上げられて失格になったとのことだった。
仕事を終えたリディアナは自室に戻ってきていた。もう外は暗闇に包まれている。
そこに兄の訪問が知らされた。兄と会う約束した覚えはない。けれど、断ると後が面倒になるので侍女にラフな格好でもよければ入って構いませんと伝えてもらった。
「恰好が何であれ変わらんだろう。さっさと通せ。」
分厚い扉の内側にいるリディアナのところまで届く声がした後、兄が部屋に入ってきた。
「こんな夜遅くに何のご用意でしょうか。」
「用がなく会いに来てはいけないのか。」
「⋯ご用件は?」
「全く可愛げのない妹だ。」
兄はため息をついた。
可愛げがなくて結構なので早く用件を言って出て行って欲しいとリディアナは思った。
なかなか本題に入らない兄に早くしろと目線でも訴えるとやっと話し始めた。
「用件というほどではないが、明後日に第一試練の合格者を宮殿に呼んだはいいものの、お前がどんな試練を出すのか気になったんだ。」
「私からはまず、面接形式で質問に答えていただくということをします。その質問には決まった答えがあるので質問というよりクイズに近いかもしれません。」
「ほう。お前がどんなクイズを出すのか楽しみにしているぞ。」
心の底から楽しそうに兄は悪魔という言葉がぴったりな笑みを浮かべる。
それを見たリディアナは少し鳥肌が立った。
「期待に応えられるかは分かりませんが他人ごとではありませんので真剣にやらせていただきます。」
「ふ、じゃあな。おやすみ。」というと兄は嵐のように去って行った。
今日第一試練をクリアした上位50名の顔も名前もわからないので、リディアナは顔を合わせて話せる明後日が楽しみでしょうがない。
今のうちに彼のことで思い出せるだけ出して、候補者達の情報と照らし合わせられるようにしておこうと思った。
しかし、討伐の仕事と兄のせいで疲れていたのかベッドに入るとすぐに寝てしまった。