第一幕 今のリディアナ
もう読んでくださっている方がいて驚きです。初めての作品で拙い文章ですが、読んでよかったと思ってもらえるような話に出来るように頑張ります。よろしくお願いします。
ハーフェン王国の姫で王立第三騎士団の団長。それが今のリディアナの肩書だ。貴族の間ではリディアナの容姿と素行から『悪魔の姫君』や『人を人とも思わない冷血漢』と呼ばれている。漆黒の長い髪に夜を思わせる瞳は確かに悪魔のようだし、年頃のご令嬢のような愛嬌もないが人を人とも思わないとはどういうことなのかと思う。けれど反論するだけ無駄だ。何せ剣の腕は並の兵士よりたつのでリディアナに負けた者は両手で数え切れない。人を殺したことはさすがにないけれど悪人をボコボコにしたり街の悪ガキを懲らしめたりしたことは仕事上あるので多分そういうところから話に尾びれがついてそう呼ばれるに至ったのだろう。女のくせに団長なんてという輩がいないだけましだが、絶対にリディアナが王族で姫であることは忘れられている自信がある。
そもそもなぜ姫であるリディアナが騎士団の団長をしているのかというと、それはこのハーフェン王国の地形にある。海に面しており、鉱物資源が採掘出来る山脈もあるので様々な国と交流があり豊かな国なのだ。そのため貴族、王族はいるけれどその地位が決して強いわけではなく、落ちぶれて平民同然の生活を送る者もいれば事業に成功して新しく地位を得て新興貴族となった者もいる。昔はそれほど貿易が盛んではなかったために階級がしっかりと別れてたらしいのだが、今は階級などはあまり気にされずにどちらかと言えばどれくらいお金を持っているかが重要となっている。
だからリディアナも姫であることに胡坐をかいていてはいけないと思ったのだ。自分の身は自分で守らなければならないと幼いながらに悟った時から努力してきた。そして二年前、遂に自分を守る目的で作られた王立第三騎士団の団長の座についた。護衛対象が団長という訳が分からないことになり、さらに上司が自分より若い女性となって、プライドの高い貴族は辞めていったけれどリディアナが優秀だと思った人物を街からホイホイ連れて来たので腕は立つけれど変人ばかりが集まった騎士団が出来た。
今現在、王立第三騎士団はこれを知ったリディアナの兄でハーフェン王国の王太子であるレオンの命令で城下の治安維持や近郊の警備をしている。姫を護衛するという仕事はリディアナが団長になりほぼないに等しいということでそのような仕事が与えられたのだが、リディアナには兄にいいように使われている気がしてならない。
兄との仲は悪くもなく良くもないといったところだ。王太子として仕事をする姿はかっこいいと思うし、尊敬に値する人だと思う。ただ、外面はよく他人には柔和な態度をとるくせに昔から身内には厳しい態度をとるのでリディアナは兄が少し苦手だ。
リディアナが初めて社交界に出た時も人脈を作ろうと愛想笑いを振りまいていたところに兄がやってきて耳元で囁いた。
「その気持ち悪い半笑い、どうにかしたらどうだ。邪魔にしかなってないぞ。」
これには陰口などに慣れていたリディアナもショックを受けた。知り合いを多く作っておけば情報網が広くなり、将来官吏となって兄の助けになれるかもしれないと思っていた自分は甘かった。兄は冗談を言ったりからかってきたりはするが、人が傷つくような嘘は滅多に言わない。気持悪い、邪魔だというのは本当のことなのだろう。そんなにはっきり言う必要はないじゃないかと憤りつつも悲しいがな官吏になるのは無理そうだと悟った。
リディアナが剣の腕を磨いて団長になったのはこれがきっかけでもある。