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冒険者になる少年  作者: 月見幻
4/14

現実

2018年5月5日:大幅改変

 森に入ったのは初めてだが、思った以上に広く似たような景色が続いているため、もしここから一人で帰れと言われても帰れそうにない。

 ザルバの報告があってから時折前を見てみるが、まだゴブリンの姿を俺は確認できていなかった。


「そう言えば父さん。森に入る前にゴブリンが弱いとは思わないようにって母さんが言ってたけど、あれは何だったの?」


 ゴブリンが弱いとは思っていない。むしろレベル1の俺では呆気なく倒されるだろう。

 だからこそこうして護衛までつけてもらい、たった一体のゴブリンを倒しに行っているのだから。


「そんな事も言っていたな。エリスは実際の魔物を見たことはないだろうが、ゴブリンが魔物の中でも弱い部類なのを知っているか?」

「それくらいなら知ってるよ」


 この世界には多種多様な魔物が存在する。

 当然強いやつから弱いやつ、中には伝説とされる魔物なんかもいたりする。その魔物の中でも最も弱いと位置付けられているのがスライムやゴブリンだ。

 正確にはスライムやゴブリンにも環境や特性によって若干強さや呼び名が変わってくるため、通常種ノーマルが弱いというべきか。


「じゃあ冒険者の中で、最も死亡率が高いのがゴブリンだと知っているか?」

「え? ゴブリンなの?」


 ゴブリンは冒険者になりたての初心者が相手にする魔物だ。それに俺みたいにレベルを上げる時に倒される魔物であるため、それほどまでやられるとは思えない。


「ゴブリンは繁殖力が高いし巣も度々見つかる。だから冒険者ギルドでも依頼がよく出て、たかがゴブリンと特に初心者にありがちな油断したやつが死んでいくのさ。レベル上げの頃にお世話になるやつも多いしな」

「冒険者になりたての頃は皆張り切りますもんねー」


 クリフトも会話に参加してきたが、ザルバは索敵をしていて集中しているのもあってか、変わらず先頭を歩いている。


「実は魔物はまったく同じやつでも三種類に分けられるんだ。一つは今向かっている湧いたばかりのやつ。一つは湧いてからある程度時間が経っているやつ。一つは繁殖によって生まれたやつ」

「そしてゴブリンは繁殖力が高く巣を作る。巣を作っているという事は?」

「湧いてから時間が経っているやつ?」


 その通りと、クリフトはやや大げさに拍手をして褒めてくれる。


「ゴブリンや他の魔物にもステータスがあると言われている。詳しくは知らんが、時間が経てば魔物もどこかでレベルを上げているのかもな。そして巣を作るならそこに複数いて、かつ子供を守ったりと気性が荒くなるんだ」


 なるほど。つまり俺がこれから倒しに行くのは湧いたばかりでありそこまで強くない。それに父さん達が護衛してくれることもあって、俺でも倒せる弱い魔物と判断してしまうのだろう。

 そこで冒険者になって意気揚々とゴブリン討伐をしようとすれば、逆に返り討ちにされてしまうと。


「それに巣に限らなくても、冒険者は人があまり入らない場所で魔物を倒すんだよね。例えばこの森なら私たちが住んでいるヘイリ村が近くにあり、ゴブリンが村に来ないように倒しているから冒険者にとってはなかなかゴブリンに遭遇できず旨味が少ない。拠点からの距離的な問題もあるかもしれないけどね。そこで旨味のある人があまり踏み入らない場所に行けば、当然湧いたやつより前からいるやつの方が多いのさ」

「ああ。だから初心者ほどゴブリンに殺される」

「なるほど」


 クリフトも昔は冒険者だったのだろうか。自身も経験していたかのように話すし、父さんとも付き合いがあったのかもしれないな。

 そして今回の話は実際に冒険者だったからこそ分かる視点であり、俺も知らずに冒険者になっていれば油断しただろう。だからこそ母さんは忠告してくれたのだ。


「会話してるとこ悪いけど、もうすぐゴブリンが見えると思うから静かにねー」


 どうやら目的のゴブリンが近いらしい。ザルバの注意に従い、暫く黙って進むと遂に俺でもゴブリンを目視することができた。

 身長は六十センチほどだろうか。緑色をした体にボロボロの腰巻きをし、手にはそこら辺に落ちていそうな頑丈そうな太めの木の枝を持っている。

 まだこちらに気付いていないようで、背を向けて歩くゴブリン。

 俺はポーチから剣を取り出し、いつでも抜けるように準備をする。


「よし。それじゃあ行ってくるわ。エリスは俺が呼んだらすぐに来てゴブリンの首に剣を刺せ。距離を少しあけてついてくるようにな」

「分かった」


 予め父さんがゴブリンを相手にすると決まっていたらしい。

 少し早歩きになった父さんと距離をあけ、俺も後ろからクリフトとザルバと共についていく。

 それにしても、てっきり慎重に近づくと思ったらどうやら違うらしい。わざと地面に落ちている枝を踏み進み、音を出しているようだ。

 さすがのゴブリンも気付いたらしくこちらを向くが、一番近い父さんを狙っているようだ。


「思いっきり気付かれてるけど、大丈夫なの?」

「心配しなくても大丈夫さ。レオンのあれは、慢心でも油断でもなく余裕だから」

「だね。向こうから襲ってくれた方が対処もしやすいし、仮にあの枝を首に喰らったとしても、重傷にはならないと思うよー」


 やはりそれだけステータスの差が大きいのだろう。二人とも全く心配していない様子だ。

 それより問題なのは俺だ。ゴブリンが弱ったところに駆けつけ、この剣で止めを刺さなければならないのだから。

 そして戦闘をこの目で見るのは初めてだ。もしかしたら今後役立つかもしれないし、しっかりと見学させてもらおう。


「ほらほら。こちらですよゴブリンさん」

『グギャ!』


 別に父さんの挑発に乗った訳ではないだろうが、ゴブリンは一声あげてから走る。

 だが父さんはまだ剣を抜かない。

 そしていよいよ接触するかと思ったその時、ゴブリンが突如として跳躍した。

 高さはゴブリン自身の倍近くある。その小柄な体と細い脚のどこにそれほどの力があるのか。

 二本の牙が剥き出した口元がニヤリと歪んだように見えたのも束の間。


「よっと」


 全く緊張感のない声と共に、父さんの剣が振られていた。そう振られていたのだ。


『キギギャ!?』


 気付けばゴブリンの唯一の武器であった枝を握りしめていた右腕が宙を舞う。

 クリフトとザルバの様子をチラリと確認するが、驚いた様子はない。ステータスが上がれば見えるようになるのだろうか。


「まだいけそうだな?」


 バランスを崩し倒れるゴブリンを、一歩ずれて避ける父さん。そして今度は左膝を斬り飛ばした。

 ゴブリンは為す術なくうつ伏せに倒れ、すかさず残った左手首と右足首を踏んで固定する。


「エリス!」

「はい!」


 あまりの強さに呆然としそうになったが、父さんの掛け声に意識が引き戻される。

 そして鞘を投げ捨てながら直ぐ様駆けつけ、まだ僅かに唸り声を上げるゴブリンの首へと剣を思い切り振り下ろす。

 一瞬の硬い感触。そして柔らかい様なグニャリとした感触。

 そして息絶えた。

 俺の剣は確実にゴブリンの命を奪った。


「無事倒せたな」

「おめでとう」

「エリス君、おめでとう」


 お祝いされた。当然のことだ、今回の目的であるゴブリンを倒すことが出来たのだから。

 だが俺にはその言葉がまるで入ってこない。


「どうしたエリス? やっぱり魔物を倒すのはまだ早かったか?」


 父さんの茶化す声すら聞こえない。

 今回の目的はゴブリンを倒すこと。確かにそうだ。だが、それは俺の目的ではない。

 俺の目的はレベルを上げること。

 前日の夜、妹のレイと共に呼んだ本に書かれていたことが頭を巡る。


 初めて魔物を倒すと例外なくレベルが上がり、慣れるまで体から力が湧き出る感じを直に体感する。


「おい、大丈夫か?」


 俺はこの手で初めてゴブリンを倒した。当然レベルも上がる。

 なのになぜだろうか。全く何も感じない。


「……大丈夫だよ、父さん」

「そ、そうか。ちゃんと生きてる間にエリスが倒したと思うが、念のためレベルが上がっているか確認してくれないか?」


 本に書いてあることは確かとは限らない。

 人によっては何も感じないのかもしれない。

 だが一つ確かなことがある。例外なくレベルが上がること。


「ステータス」


 そんな事があるはずはない。誰しもレベルは必ず上がる。父さんと母さんも言っていた。

 冒険者は副業感覚でやる人もいる。それが出来るのは、全て人がレベルを上げられるから。

 ゆっくりと目を開け、目の前に表示されたステータスを見ようじゃないか。




ψ__________

名前:エリス(男) 種族:人族


レベル:1       年齢:6

体力 :12/12   攻撃:3

魔力 :8/8     防御:3

            魔法:3

            敏捷:3


スキル

なし


パッシブスキル

なし


称号

なし

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ψ




 きっと俺の、思い違いだから――。


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