魔力
お久しぶりです。
意識があると気付いたとき、決まってまず感じるのは背中から伝わるゴツゴツした岩の感触。所々露出した肌から感じるヒンヤリとした冷たさだ。
そしていつもの気配を察知すると、数秒もしない内にあの少年が現れる。
「師匠。今日もよろしくお願いします」
そう笑顔で、腰に差した剣を迷うことなく抜くまでがここ暫くの挨拶だ。
それに答えるようにもたれ掛かった岩から上体を起こし、足元のソレを踏まないように近づくも、少年は少しも逃げるそぶりを見せることはない。
寧ろこの時を待っていたと言わんばかりに、ワクワクとした笑顔でこちらを見つめてくる。
成長したものだ。あの日……恐怖で泣きながら、ただ剣を持って走ってきた少年と同じようには見えない。
剣を抜く動作も、剣を交えたときもそうだ。確実に動きが洗礼され、成長している。
だが、それでも、我を倒すのには到底足りない。この身にその剣が届く事は、果たしてあり得るのだろうか。
『――――』
…………。この少年が望むなら、諦めぬのなら、その時までは相手をしよう。
我は少年の意思によって生まれ、少年の望みを叶えるために生まれたのだから。
「今のエリスでも出来る実戦用のスキル?」
よく朝。母さんとレイが杖選びのために家を出た後、父さんにスキルについて聞いてみることにした。
「うん。レイと話して、魔力も使えないかと思ったんだけど」
「うーむ……」
やはり難しいのだろうか。
今の俺はレベル1で、スキルを上手く扱うための魔法やそもそもの魔力もない。
特に昨日レイが言っていたように、魔力がなくなって魔力切れで気絶してしまうのが一番厄介だ。
だからこそ今まで魔力に関することは放置してきたが、だがもうそれ以外に俺が強くなる道はないだろう。
半ば諦めながら父さんの返事を待っていると。
「まぁ……なくはない」
「本当に!?」
「ああ。だがスキルがないうえに、レベル1だから魔法や魔力も初期値だ。まず間違いなく無理だろうと言っておく」
「……それでも、可能性が少しでもあるならやるよ」
父さんは暫く俺の顔を見て沈黙した後、ゆっくりと説明を始めた。
「エリスがどの程度知っているか分からんが、スキルはそもそも覚えていなくとも使えるんだ」
「うん。それは知ってるよ」
スキルは覚えていなくても使える。
これは簡単に言えば、スキルを覚えている状態で詠唱したら絶対に成功する、ということだ。
つまりスキルは補助的なものであり、例え覚えていないスキルに関しても形だけなら個人の能力で再現できる。
この再現の是非や上達具合、スキルの複雑さや腕前などで、スキルを覚えられるかどうかが決まるらしい。
「なら話は早い。だから今のエリスでも不完全なスキルは実質的に使えるが、条件がつく」
「条件?」
「魔力を放つスキルや、発動に多くの魔力を使うスキルだ。ほとんどの魔法スキルがそれに該当するな」
どういうことかと聞くと、まず魔法スキルの多くは体内にある魔力を外部に集めることによって発動する。つまり、それなりの威力を出すには見合った魔力を消費する必要があり、魔法の数値も高くない俺では魔力が到底足りない。
そして威力に関係なく、発動に多くの魔力を消費する場合も、当然魔力が足りずに終わってしまう。
「なら俺はどんなスキルが使えるの?」
だとすれば、俺はほとんどのスキルが使えないだろう。だからこそまず間違いなく無理だと前置きされたのだろうが。
「言葉だけなら簡単に説明できる。魔力を逃がさずにスキルを永遠と使えばいい」
「……?」
魔力を逃がさないなら、外部に放出する魔法スキルは確実に無理だ。
なら体の内部で魔力を使い、今の俺でも強くなれる可能性を秘めたスキルは。
「……体術系のスキル?」
「お、正解だ。具体的なスキル名は身体強化だな」
身体強化は有名なスキルの一つで、冒険者になるなら誰しもが覚えておきたいスキルだ。
魔力を使うことで自身の身体能力を増強させ、普段は出せない力や速さを発揮させるための基本スキル。
「確かにそれなら魔力を逃がさずに使えそうだけど……」
「だがそんな事を出来るのは、それなりの才能と経験を積んだやつだけだ。今のエリスじゃ魔力漏れだけで底を突いて、間違いなく気絶するな」
「ですよね~」
正に言葉だけなら簡単に説明できる。
魔力を逃がさずに循環させればいい。そうすれば永遠と身体強化ができるぞ、そういう話だ。
だがそれは今の俺ではまずできない。
その原因が魔法を完璧に制御できていないときに起こる魔力漏れだ。
この魔力漏れは微々たるもので、本来使用者のレベルが上がっていればあまり気になるものではない。
けれど俺の場合、その微々たる量ですら大きいし。何よりそれはある程度制御出来たときの話。それに至るまでがどうなるかは想像もしたくない。
もし仮に、俺にとてつもない才能があったとしても……それ以前に、ステータスが足りないのは明白なわけで……。
「魔力に関して他の方法は恐らくない。お勧めはしないが、もしやるなら寝る前とかにしとけよ。昼間からやって気絶でもしたら、アメリアやレイに心配かけるからな。体に負担もあるだろうし、無理だと思えばすぐにやめろ」
「……うん。素振りでもしながら考えておくよ」
取り敢えず、魔力に関しては後回しにしよう。
やるとしても父さんの言うとおり夜だろうし、寝る前に考えればいいさ。
▼ △ ▼ △ ▼
もう一日が終わるのか。
気付けばもうベッドの上で、寝て起きれば明日が来る。
六歳の誕生日もついこの間のように感じるし、この調子だと数年なんてあっという間だ。
「……やるか」
時間もないし、今を変えるにはやるしかない。
幸い、師匠に毎月気絶させられて恐怖心がないのは救いだ。
魔力の減りかたを少しでも見られないかと、ステータスを開いて寝る体制に入る。
身体強化のスキルを覚えていないので、自分でイメージして魔力を使うしかない。
体内にある魔力の感覚に意識を集中させ、それを体全体に循環させるようなイメージで……。
「身体強化」
そして人生初ともいえる、魔力を使って僅か二秒もしないうちに意識が薄れ。
ステータスの魔力を確認する余裕もなく、次に目を覚ました時にはニコニコした妹の笑顔と共に朝を迎えていた。
失踪してから1年と2ヶ月。またここに帰ってきました。
ブックマークをしてくれている4人の方は果たして覚えているのでしょうか……。
さて、もしこの後書きを見てくれている人がいれば、おそらくこの『冒険者になる少年』を読むのは初めてでしょう。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
1話~13話の前書き通り、全話において復帰時に大幅改変をいたしました。
大体のストーリーは同じですが、一番大きな変化は妹であるレイの追加ですね。
失踪した理由としては、自分の描写力のなさを実感したからです。初見さんには関係ない話ですが、1年と2ヶ月を経て大分ましな描写になったと思います。(それでも下手だしキャラがぶれたりして……)
単純な情景描写ができていないのもそうですが、子どもが成長したことによって微妙に変化していく過程を表すのも難しい……。
そんなこんなで帰ってきましたが、実はリアルが忙しい時期で――来年の冬ごろまでは忙しいかもしれません。
そういう理由もあって投稿ペースは早くないです。もしかしたら、また一年後に突然投稿とか……かもしれませんね。
感想やブックマーク、ご指摘などあると作者は単純なので喜びます。モチベーション、大事。
もしこの作品を偶然見つけてくれ、面白いと感じてくれる人が一人でもいれば幸いです。
ではまた、次回でお会いしましょう。