8話 山での生活
俺達は崖の上から平原を見つめ、先に集落をあるのを見つけた。1日もあれば、辿り着ける距離だろう。
「どうするバケログテ。あそこへ向うか?」
「いや、分からん、本当にわかんねぇな……」
バケログテさんとミダリさんは、先に見える集落を、寝そべりながら眺めて話し合う。近くに行ってみないと、集落の大きさも分からないし、平原であれば、近くに行けば俺達が見つかる可能性が高い。もし戦うことになれば、逃げる事も考えないとまずいだろうと、彼らの議論は答えがでないまま、平原を眺めて続く。
俺はその後ろで、ネチョネチョした革靴を脱ぎ、日に当てて乾かしている。気持ち悪いったらない。
「バデール、お前はどう思う?」
急に話を振られても困るが、俺は答える。
「ここで数日、様子を見ませんか?」
幸い、すぐ後ろの渓谷なら、こちらの焚き火も見えないだろうし、何かあっても逃げられそうな気がするから、と俺は答える。その意見が採用されて、バケログテさんとミダリさんが交代で高い崖の上で見張りを行い、俺は少し降りた渓谷で川魚や山菜を取ったり、時々見かける獣に魔法を練習がてら、ぶっ放す事になった。
結界から出て魔法の鍛錬を怠ったが、結界の中よりも何か効果と効率がいいように思える。以前は火魔法も火炎放射器のような放出しかできなかったが、今は野球ボール程度の炎の玉を出せるし、風魔法も川石を巻き上げて、投げるように打ち出す事もできる。
ベデンさんが以前に言った“結界の中では魔素に限りがあり……”というのは本当だったのだろうか。その事をバケログテさんとミダリさんに話すと、おお、本当だ!と彼らも面白がって魔法を試している。もっとも俺より下手だが。
それにしても、この山間で生活して暫く経つが、稀にバイオレンスな獣が出てくる。最初は猪ぐらいしか見かけなかったが、森熊よりも一回り大きい熊、鰐に似たような俺よりも大きい蜥蜴、それにギャギャいう俺達のような手足がある緑の肌を持つ小人。
だが……どの獣も異常に弱い。
頭に石を落としたり、強めのインフロントキックをぶち込んで、よろめいたところに、ヤクザキックをお見舞いしてやると、直ぐに動かなくなる。あまり強く蹴ると血肉が飛び散るので、初手は軽めに攻めるのがコツだと最近は覚えてきた。
ただギャギャと鳴く緑の小人は、知能があるのか削った枝で刺してこようとするので、見かけたら全力で石で頭を潰すのがポイントだ。最初は何かの種族の子供かと思って近づいたら、ザックリ刺されたので、もう恨みをあって見かけたら即退治することにしている。
因みに肉は生臭い上に、筋が多すぎて食用には向かない。だがバラして置いておくと、翌日ぐらいには他の獣も来るし、川に撒けば大きなトカゲも来るので餌として重宝している。
それと……獣を捌くの完全に慣れたが、内臓から出る黒い血の臭いは未だに好きになれない。焼くと美味しいが。
そんな見張りをしてもらっている日々が10日程過ぎたある日の午後、俺はボサボサに伸びた髪をどうにか刈れないかと、小刀で切り始め、バケログテさんが“俺が切ってやるよ”と会話していた最中、ミダリさんが慌てるように、崖から降りてきて俺達に言う。
____お!おい!近くに奴らが来た! と。