幽霊の知り合いが沢山出来た俺の話。
今となっては俺は幽霊の知り合いが沢山いる。
何故そうなったのか過程を話そうと思う。
俺は当時貧学生だった。
個人的には華やかな大学生活を夢を見て、親に1人暮らしを申し出てみたのだが。
残念ながら実家はあまり裕福ではなく、
学費は出すが家賃諸々の費用は全額自分で稼げと言い渡されたのだった。
こうして俺の華やかとは程遠いキャンパス生活は始まったのだった。
まず、想定外なことにレポート等の課題が多かった事が挙げられるだろう。
次に家賃の高さである。
初めは都心の部屋を借りようかと思ったものの余りの高さに驚き、
学校からはやや離れたボロアパートに場所に住むことになった。
それでもバイト三昧になりながら、どうにか生活をこなしていったのだが事件が起きたのだ。
俺の住むアパートが火事で全焼したのである。
幸い、セキュリティという概念のない所だったから預金通帳や印鑑等は持ち歩いていたものの…。
取り敢えず、暫くは同じく1人暮らしをしている友人の所に転がり込み当座を凌ぐこととなった。
それでも大至急で部屋を探さなくてはいけないのに変わりはない。
そこで不動産に相談に行ったものの、中々条件に合う物件が見つからない。
そこでふと目に留まったのが、その部屋だった。
何と、都心に程近いアパートで月2万円。
破格の安さである。
俺は貸し渋る不動産の親父をしり目に、この物件に住むと即決した。
駅から徒歩10分の、日当たりの良い1LDKでこの価格と言うのは滅多にあるものではあるまい。
俺は自分の運の良さに心から感謝をした。これがすべての始まりだったのである。
こうして俺は、その部屋に引っ越したのであるがどうにも奇妙な点があった。
まず、日当たりの良い癖して妙にじっと湿った空気で雰囲気も暗い。
次に妙だと思ったのは、飲み物や食べ物が減ることである。
これは俺の勘違いではなく、前回はスポーツドリンクが空になっていたし、
今回はプリンが消えていた。
更に、夜になると人が這いまわるような物音がするのである。
これは睡眠妨害をするレベルではないからいいとしても、許せないのがこれである。
この青年は…。
ああ、どれぐらい…。
隣町の田中さんがとうとう…。
やっぱり調子を崩していたから…。
この間の交通事故に遭った人もここに…。
「黙 れ て め え ら。 こ っ ち は お か げ で 寝 不 足 な ん だ よ。」
俺のストレスメーターは振り切れ、気が付いたら叫んでいた。
その時、見て見ぬふりをしていた部屋の連中が一斉に俺を振り向いた。
老婆、幼女、学生、サラリーマン、OL等の数えきれないぐらいの半透明の人々がそこにはいた。
一瞬部屋が静まり返ると、連中は一斉に俺に押し掛けてきた。
「貴方、見えるみたいね。丁度良かった。私達の話を聞いてくれない?」
そう有無を言わせぬ笑顔でにっこり笑いかけてきたのは主婦らしき女だった。
「それでね、三丁目の山本さんたら酷いのよ。私がいくら言ってもごみの分別を守ってくれなくって。
私が注意すると嫌な顔をするの。最近の人って本当にダメよね。ああ、ごめんなさい。
貴方も若い人だったわね。そう言えば、うちの息子ったら反抗期で碌に口もきいてくれないの。
あんなんじゃ、将来どうなるか心配だわ………。」
こんな話が長々と続くのである。
言っておくが彼女でこれで10人目である。
どうやら、この部屋は成仏できない幽霊のねぐらになっているらしい。
過去の部屋の住民たちも酷い奴は恐慌状態になったり、体調を崩したりで退去したのだと言う。
不幸中の幸いで、生きている人間に彼等の生前の出来事をある程度語ることで成仏するのだが…。
ちなみに、生きている人間に語ると言うのが大事らしい。
幽霊らしいよくわからない思考だ。
それはともかく、正直なところ、眠い。
彼から出現するのは大体深夜過ぎである、それから込み入った話を聞かされるので堪ったものじゃない。
しかし、彼等はこの機会を逃すと次はないと言った鬼気迫る様子で俺の元にやってくる。
仕方がないので、深夜の聞き役を無料でこなしているのが現状だ。
この時俺はバイトで忙しく、上記に挙げたように碌に寝ていなかったのでふらふらしていた。
なので、信号無視をしたトラックに気が付かなかったのである。
ドンと言う派手な音がして、あっという間に視界は暗転した。
「あそこの部屋、また死人が出たんですって。」
「いやだ、怖い。引っ越そうかしら。」
「呪われた部屋なのよ、きっと。」
「取り殺されたのよ。」
主婦の皆さん、ごめんなさい。
本人が聞いています。
時期外れの怪談を増やしちゃってごめんなさい。
え、俺は死んだんじゃないのかって?
そう、確かに死んだ。スゲー金の掛った葬式まで挙げられ、何だかぽかんとしてしまった。
どうやら俺の実家は金はきちんとあったようである。
話を戻そう。
俺は幽霊になったのだ。
成仏しようと寺にも行ったが、住職に霊感がなかったらしく俺が見えなかった。
次の人生があったら、お祓いで高い金を出すのは止めることにした。
ちなみに俺が死んだ事を知った、部屋の連中の反応はこれである。
「退屈で刺激のない、面白さの欠片もない幽霊生活にようこそ!」
せめて、お悔やみの言葉ぐらい言え手前ら。
こうして、今となっては唯一の娯楽である、
おしゃべりの相手となれる幽霊の知り合いが増殖していくのであった。