新たな出発
最終回となりました。
宜しくお願い致します。
「お父さん、お母さん、行ってきます」
大きなリュックサックとボストンバックを持って両親に挨拶すると、「辛くなったら、いつでも帰って来ていいんだぞ」とお父さんが涙ぐんでいた。「もうお父さんたらぁ、美鈴がまるでお嫁に行くみたいじゃない」とお母さんが笑っている。そんなお父さんとお母さんにもう一度挨拶すると、私は玄関を開けた。陽射しが眩しい。今日から、和君の家で暮らすのだ。聡子は、元気な女の子を無事に出産したらしい。隅野君はというと、和君と同じで、聡子のお父さんにフルボッコに殴られ、自分のお父さんにも、これまたボコボコに殴られたらしいけど、結婚式もせずに入籍したらしい。結婚式はしなかったというよりも、金銭面で出来なかったというのが本当らしいけど。
「お邪魔します」
和君の家にそう言って入ると、「まるで他人の家に来たみたいだな」と和君が笑っている。「和君の家なんだから、他人の家で間違いないじゃない」と私がむくれると、「もう俺の家じゃなくなったんだよ」と言われた。「え?」と不思議に思って声を出すと、「今日から、俺と美鈴の家になったんだから」と笑顔で答えてくれる。(そっか……、そうだよね。今日からここは、私と和君の家なんだよね)と嬉しくなった。
ただ残念なのは、和君には和君の職場があり、私には私の職場があるという事。ずっと和君と一緒にいられるという訳ではないのだ。
そんな私の心情がわかったのか、「そんな顔すんな、可愛い顔が台無しだぞ。今日からは、美鈴が炊事当番な。頼むぞ。前みたいに美味しいご飯を作ってくれよな」と言われた。
途端に目の前がパァっと明るくなったような気がした。まだ結婚もしてないし、妊娠した訳でもない。でも今日からは毎日、和君が前みたいに「美味しいよ」と言って、私の作った料理を食べてくれるんだ。「うん。頑張るよ。和君、あんまり食べ過ぎて太っちゃ嫌だよ」って笑顔で答えていた。デブの私が言えた義理じゃないんだけど……。
「こら! 美鈴!」
と、いきなり怒鳴られたので、驚いて和君を見ると、「美鈴、お前、また自分の事をデブだのブスだのって思ったろ!?」と少しふて腐れている。
そうだった。これは禁句なんだった。考えてもいけない禁句。私がデブだとか、ブスだとか言うと、思うと、考えると、和君を侮辱した事になるんだった。
「ご、ごめんなさい」
「いいよ。美鈴は俺の可愛い美鈴なんだからさ。自信持ってくれよ」
「いや、流石に自分の事、可愛いなんて思えないよ」
「美鈴! 裸になれ!」
「え? ど、どうして?」
「良いから言う事を聞け!」
もう何が何だかわからないけど、おずおずと全裸になる。
「うん。やっぱり可愛い」
そう言って、和君が手招きしている。
(あ、あの〜。いきなり裸になれと言われて、裸になった途端、「可愛い」なんて言われて手招きされても困るんだけど……)
と、思いながらも、服を着ようとすると、「そのままこっちに来い!」と命令された。(は、恥ずかしい〜)と思いながらも命令に逆らえずに和君の所に近付くと、突然、手を引かれ唇を奪われた。そのまま、和君がのし掛かってくる。(か、和君?)なんて考えていると、「ほら、やっぱり美鈴は可愛い」と唇を離して言われた。恥ずかしかった。いくら家の中とはいえ、まだ、外は明るく家の中だって明るいんだから。
「美鈴?」
不意に話し掛けられ、ハッと和君を見る。するとまた、唇を奪われ舌まで奪われた。そのまま暫く、私を抱き締めていた和君だったが、「好きだよ。大好きだよ。だから、だからね。自分の事、わかってるね?」と言われて、黙って頷いた。
「よし! 服、着ていいぞ。その代わりわかってるよな?」
と普段とは違う恐い目で命令された。和君の言いたい事はわかっている。黙って頷くと、私は服を着用した下着は着けずに。
「流石、美鈴ちゃん」
「もう! 和君のスケベ、変態!」
「そんな事言って良いのかな?」
「だって……」
「じゃあ、このままこの辺の店に買い物に行こうか……」
そう言って、和君が腰を持ち上げた瞬間、「ごめんなさい。和君はスケベでも変態でもないから」と思わず叫んでいた。
「ごめんごめん。別に脅していた訳じゃなくてさ。美鈴があまりに可愛いから、ちょっと苛めてみたくなっちゃってさ」
和君は笑ってそう言うと、私に下着を着けてくれた。
「じゃあ本当に買い物に行こうか」
そう言って私の手を引っ張ると、耳元で「じゃないとさ、冷蔵庫の中、空っぽなんだよ」と囁いた。
「うん。じゃあ、私の創作料理を作る為に、和君に食べてもらう為に、買い物に行こう!」
玄関を開けると、やっぱり外は眩しかった。でも、その眩しさは和君と一緒だったから、余計に眩しかったのかもしれない。
(和君、これから、宜しくお願いします)
なんて考えながら和君の腕に抱き着いて歩き出した途端、「でも、以前の約束は忘れるなよ。毎日体温を測る事とかさ」と言われて、顔が真っ赤になってしまった。そうだった。これからの生活では一層、危険度が増すんだった。うんうんと頷いて、もう一度和君の腕にしがみつく。
(和君! 私の事、本っっっ当〜に、幸せにしてよね!)
完
これまで、お付き合いいただきましてありがとうございます。
私は恋愛小説を苦手分野としておりますので、この作品が果たして恋愛小説として機能しているのかわかりません。
もし、御指摘などありましたら、言って頂けると大変助かります。