確認
次回で最終回となります。
これ、恋愛小説で分野であってますか?
卒業を間近に迎えたある日、私はどうしても確認しておきたい事があった。夏休みのあの恥ずかしいデートをしたあの日、和君から聞いたあの告白。お母さんに何度も確認しようと思った。でも、決心がつかなかった。でも、もうすぐ卒業式の日になってしまう。だから勇気を振り絞って、お母さんに確認する事にしたんだ。
「お母さん……。あのね、話があるの……。というか、聞きたい事があるの……」
この言葉だけで、お母さんは私が何を言いたいのか察したようだった。そしてリビングに落ち着いて座ると、私を向かい合わせに座らせた。
「美鈴、これから話す事はお父さんも知っている事だから、黙って聞きなさい」
そう言って、大きく息を吸って吐き出した。私は静かに頷くと、お母さんの目を見た。
「あれはそうね。夏の日の事だったかしら。美鈴がまだ学校に行ってる時間の事だった。和君がね、訪ねて来たのよ。ちょうどあの日は、お父さんも仕事が休みだったんだけど、私が「美鈴なら学校よ」って言ったら、「違うんです。今日はお母さんに用事があって来ました」って言われたのよ。取り敢えず、家に入ってもらって、お父さんがいることに少し驚いたようだったけど、でも、私達の前に正座で座って、「俺、秋から一人暮らしする事にしたんです」って言うの。何の話か私にはさっぱりだったわ。それでも話を続けたの。「美鈴、親友を失ったんです。親友の聡子ちゃんが妊娠して、学校をやめちゃったんです。このままじゃ、美鈴も学校をやめるなんて言い出しかねない。俺が卒業してから、学校がつまらないって何度ももらしていましたから。でも、学校は卒業させたいんです。でもこのままじゃ美鈴、確実に学校をやめるって言い出すと思うんです。だから、……、んと、だから、美鈴が学校をキチンと卒業するように条件を付けたいんです」って。「条件っ!?」ってお父さんが
、いきなり怒鳴ったけど、和君は怯まなかった。「美鈴を……、美鈴を、絶対卒業するように、美鈴が喜びそうな条件を付けたいんです」って。真剣な顔で、決して私やお父さんの目から目を離さないようにして。「具体的には!?」ってもうお父さんには、和君が何を言いたいのかわかっていたかのように怒鳴っていた。でもやっぱり、和君は話を続けた。「美鈴が……、美鈴が……、学校を卒業した時は、……俺と同棲させて下さい!」って。その途端、お父さんは和君の胸ぐらを掴むと、和君の顔を殴っていた。でも、鼻から血を出そうと、口から血を流そうと、和君は私達の目を正面から見ていた。私はどう答えたら良いのかわからなかった。たぶん、お父さんも同じ。だから、和君を殴るのを止めなかった。それでも和君は目を背けないの。私達をじっと見つめたまま、殴られ続けていた。そして、お父さんが負けたの。和君の眼差しに、お父さんが負けてしまったの。私も同じだった。あんなに殴られて殴られて、殴られて殴られて殴られて殴られて、それでも自分の要求を意思を諦めない
子、生まれてはじめて見たから。「勝手にしろ!!」ってお父さんが殴るのを止めた途端、和君どうしたと思う?」
私は、声が出なかった。私が思っていた事を、和君は感じ取っていて、それでそんな事をしていたなんて知らなかったから。それに、和君がどれだけ私の事を想っていてくれていたかを知らされたから。ただ、黙ってお母さんの次の言葉を待つしか出来なかった。
「何、泣いてるの?」
そう言われて、私は自分が涙を流している事に気付かされた。でも、涙を拭かずにお母さんの目を見た。
「やっぱり、美鈴も同じなのね……。和君と一緒。もしかしたら、和君と付き合ったから、そうなったのかもしれないわね」
そう言って、少し寂しそう溜め息をついた。
「和君はね。顔から流れる血を拭こうともせずに、「ありがとうございます!」って土下座したの。何度も、そう何度も、畳に頭を擦り付けて、何度も何度も、土下座を繰り返したの。「ありがとうございます」「ありがとうございます」って。これが私から美鈴に伝えられる真実。幸福者よ美鈴。あんなにあんたの事を考えてくれる男、たぶん探したっていないわよ。そりゃぁ、私だってお父さんだって寂しいのは一緒だけど、行ってらっしゃい。美鈴の好きな人の所に」
「じゃあ……、じゃあ……、お母さんが承諾済みってのは……」
私は涙が止まらなかった。いや違う。止められなかった。
「ほら、いつまで泣いてんの」
お母さんがハンカチを持ってきたと思うと、私の顔を拭いてくれていた。
「卒業式まで後少しだね。和君の行為を無駄にしたら、美鈴! 私があんたを許さないからね! キチンと就職先も決まったんだから。胸を張って、和君にお礼言うんだよ」
そう言って、微笑んでくれた。
(ありがとう。お父さん、お母さん、それに和君も。そして、ごめんなさい。これまで、勝手な娘でいて……)