デート
あと僅かとなりました。
急展開ばかりですみません。
夏休みのある晩、和君からメールが届いた。
『なぁ、明日水族館に行かないか?』
私がデートの誘いを断る筈がないのを知ってるくせに。でも、その次のメールに戸惑ってしまった。
『今晩、美鈴ん家に泊まりに行っても良いかな?』
私は直ぐにお母さんに相談しに行った。反対されるに決まってる。って思いながら。でも、お母さんは「良いんじゃない、別に。それに明日デートなんでしょ? じゃあ、待ち合わせとかしなくていいじゃない」と、私の戸惑いなんて吹き飛ばしてしまった。
それから一時間後、夜の八時過ぎにチャイムが鳴った。
「お邪魔します。あ! お父さん、お母さん今晩は。今晩はお世話になります」
和君は私の両親を自分の両親であるかのように呼ぶ。キチンと挨拶はするんだけど、お父さんやお母さんがどんな風に感じているのか気になって仕方ない。しかも寝る部屋は私と一緒の部屋。もう! お父さんもお母さんも、何考えてるのよ! とは思うものの、家に来客専用の部屋なんてないし、どうしようもない事だっていうのはわかるんだけど……。
(どうして和君の腕枕で、一緒の布団で寝るのよ!? 清い交際の話は何処へ行ってしまったの!?)
昨夜はドキドキが止まらなくて、なかなか寝付けなかった。そのせいで、少し寝不足気味だ。それに付け加え、思考回路が上手く働かない私の意思も考えずに、「美鈴の今日の服装、俺がコーディネートしても良いかな?」なんて言うから、思わず頷いてしまったけど……。
(ねぇ和君? この服装は、この格好は、……どういう事なの?)
昔の私が着ていた少し今では小さくなってしまったTシャツに、デニムのスカート、丈の長さは膝が見える程度、それは良いんだけど……。
(ねぇ和君? 社会人になってから変態になってしまったの? それとも、元々こういう趣味の持ち主だったの?)
顔を真っ赤にして和君を見ると、「美鈴、可愛いよ」と言われてしまい、ますます顔が赤くなり、何だか熱っぽい感じになっていく。和君の服装のコーディネート、それは、下着を着けないって事だった。家を出る前から、恥ずかしくてたまらない。そんな私の意思など関係無しに、「じゃあ、行ってきます」と言って、私を家の外に引きずり出した。
いつものデートならば、和君の車で行くのに、何故か今日に限っては電車で行くと言われた。こんなに恥ずかしい格好をしてるのに、どうして電車なのか尋ねたかったけど、既にその意味を理解してしまっていた私は、質問する事も出来なかった。
(ねぇ和君。恥ずかしいよぉ。恥ずかしがっている私を見て、楽しんでいるのはわかるけど、これじゃあ私……、変態だよぉ! ただの露出狂だよぉ!! しかも電車がもし、満員電車だったらどうするの? 痴漢がいたりしたらどうするの?)
なんて考えていたけど、口には出せなかった。しかも、本当に電車は満員電車だった。ただ私の予想に反していたのは、痴漢がいたらではなく、既にいたんだ。和君っていう痴漢が。朝からデートに出発したのも、この満員状態を見越しての行動だった事に気が付いた時には既に遅かった。
(ダメ、和君。見られたらどうするの? ダメだって! 嫌! スカートの中に手を入れたら! ダメ! そんな所、触ったら!!)
私は平然とした顔をしながら外を眺めている和君を強く抱き締めながら、満員状態が解消されるまで、ずっとそうしていた。
水族館に着いた時には、初夏で暑いのは暑いんだけど、それ以上に私は汗だくになっていた。そんな私に和君は、「可愛いよ美鈴」と耳元で囁くのだ。
(もう! 私は顔から火が出る程恥ずかしいのにぃ……)
入館チケットを和君が二人分購入し、入館ゲートをくぐると、和君の手が私の腰に回り込んだ。私は思わず、「ヒッ!」と声を挙げてしまったが、和君は何も気にしてないように、私の腰を抱いたまま水族館デートを開始した。
水族館の中は、水槽をライトアップして廊下は薄暗くなっている。和君は、水槽の中を見ながら「ほら、イルカだよ」とか「うわ! ジンベイザメ、やっぱり大きなぁ」なんて私に話し掛けてくるんだけど、私はゆっくり魚観賞をしている余裕など全くなかった。和君の手が、腰から脇へ、脇から背中へ、背中からお尻へと時々、いろんな場所へと手を移動させるから、そっちの方が気になって、気になって……。
結局、折角水族館に来たのに、水槽の中を見てる余裕もないまま出口に着いてしまった。帰り道、和君が「あれに乗ろうか」って言うと、少し遠くに見える観覧車に向かって歩き出した。
観覧車に乗ると、和君はボ〜と外を眺めていたんだけど、突然、私の左胸に耳を当てて「ドキドキしてるね」って言ってきた。(当たり前だよ! こんな格好をしているんだから!)って言いたかったけど、その次の瞬間、和君は私の脚の上に頭を乗せて「俺、来月から一人暮らしする事にしたから」って、狭い座席の上で、私の膝枕の上でそう呟いた。
「なぁ美鈴? 学校は卒業しろ。必ずだ。けど、学校を卒業したら一緒に住まないか?」
また突然、和君がとんでもない事を言い出す。でも、私は嬉しかった。和君が言うには、お母さんにはもう話をつけているとの事だった。お母さんも、承諾済みって事だった。私に選択肢なんて無かったんだ。まあ、拒否するつもりなんて微塵もなかったけど。
それよりも気になった事は、観覧車の中で和君が何もしてこなかった事。何だかとても焦れったかった。折角、二人きりになれた時間だったのに。
そして夕食は、デザート中心のレストランで済ませて家に帰った。私は「ただいま」って言ってから、急いでお母さんにバレないうちに下着を身に付けた。
(もう! 和君! こんなデートは、二度としないからね!! 本っっっっ当〜〜に恥ずかしかったんだからね!!)