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二年間  作者: 聖魔光闇
5/9

新学期

たった四話で一年が過ぎてしまいました。


全九話なので、妥当な話数なのかもしれませんが、あまりにも急展開すぎますよねぇ……。








 桜舞う四月、私はクラスメイトが騒ぐ教室の窓際の席に座ったまま静かに空を見上げていた。去年と同じ学校、去年と同じクラスメイト、でも、もうこの学校に和君はいない。楽しくて幸せだった通学もまた、億劫なものへと戻りつつあった。和君のいない学校、それが、こんなにもつまらないものだとは思わなかったからだ。空を流れる雲を見つめながら、和君は今頃どうしているんだろう? と考えていた時だった。


「お早う美鈴」


 何だか新学期早々、元気のない聡子に声を掛けられた。


「うん。お早う」


 元気が無いのは、私も同じだったが、普段は元気な聡子が少し暗い表情をしているのが気になった。


「どうかしたの?」


 少し心配になって尋ねると、思いもよらない答えが返ってきた。


「美鈴……、私ね、学校やめる」


「え?」


「今すぐって訳じゃないけど、中退するから」


「何言ってんの? 聡子……。何かあったの?」


 聡子は少し間を置いてから、「来ないの」と呟いた。


 その言葉の意味を私は直ぐに理解した。いや、理解してしまった。


隅野すみの君は知ってるの?」


 私の問いに、聡子は何も言わずに頷いた。今年の二月頃から聡子は、クラスメイトの隅野君と交際をはじめていた。「先輩は手が早すぎるよ」なんて言ってた聡子だったが、交際をはじめて一ヶ月も経たないうちに、隅野君と関係をもったのだった。しかも、私と和君があんな事をしていたせいだろうか、隅野君と聡子も、全く避妊をしていなかった。


「いつから?」


「先月末……」


「遅れてるだけじゃないの?」


 でもその問いには、首を横に振り「検査キット使ったから確実」とだけ言った。


 聡子が妊娠……。あまりにも現実的でない告白に、私は言葉を失ってしまった。でも親友の聡子からの告白だったのだ、心配するなという方が無理な話だ。


「お父さんやお母さんは?」


「まだ言ってない」


「隅野君はどうするの? どうしろって言ってるの?」


健児けんじは認知するって。で、健児も学校、やめて働くって」


「でも、私達未成年だよ! 親の承諾無しに結婚出来ないんだよ!」


「知ってるよそんな事! じゃあ、美鈴はどうしろって言うの? まさか中絶しろなんて言わないよね!?」


「……」


「美鈴がもし、先輩の子を妊娠したらどうしてた? 美鈴……、私ね、親に反対されてでも産みたいの。健児が認知するって言ってくれてるから、産みたいの……。違う。健児がもし反対したとしても、健児の子を産みたいの……」


「……」


「健児はもうすぐやめるよ学校。もう仕事探し始めてるし、面接だって何ヵ所か行ってるし」


 聡子の真剣な眼差しを、話を聞いてるうちに、私は、自分の事が情けなくなった。聡子はたぶん、祝福して欲しかったんだと思う。でも、衝撃的な事実でありながら、和君のいないつまらない学校が嫌に成りつつあった私には、祝福してあげられる余裕がなかったんだ。でも、聡子の一言でハッとなった。そうなのだ、この非現実的な現実は、和君が卒業するまでの間ならば、自分自身に降り注いでいたかもしれない現実だったのだ。ただ単に、私は一度も生理が遅れる事も無ければ、来ないと心配する事がなかっただけなのであった。確かに体温を測る習慣はついてしまっていたんだけど。


「おめでとう。って言いたいとこだけど、大変だよ。和君は、私との約束の中で、もしそんな事になったら、お互いの親に頭を下げて欲しいって、一緒に頭を下げて欲しいって言ってたけど、たぶんそんな簡単な事じゃないと思うんだ。和君は既に私の親には、頭を下げていたよ。妊娠云々じゃなくて、付き合いはじめて暫くしてから。私の家に遊びに来て、先ず真っ先にしたのがその行動。でも、私とは清い交際をするなんて嘘ついてたけどね」


「やっぱり美鈴も同じだよね。私の味方にはなれないよね」


「うううん。違うの、ちゃんと祝福してあげたいよ。でも、ただ産みたい、育てたいだけじゃ駄目なような気がするの。ただそれが何なのかは、私にもわからない。でも、キチンとお父さんやお母さんにも、認知してもらった方が良いと思うんだ」


「それはわかってるつもり。でも、私の親は、健児と付き合う事すら反対したんだよ。それが、その結果が、こんな形で認めてもらえるなんて思えないよ。きっと、中絶しろって言われるんだ。わかってる。絶対、そうに決まってる」


「でも、お腹が膨らんできたらバレちゃうんじゃないの?」


「その心配はないの。私、家には帰って無いから……。今は、健児が一人暮らしだから、居候させてもらってるの」


 そんな事実は知らなかった。当たり前だ。今の今まで、そんな事を話した覚えがないのだから。親友なんて言ってるけど、あの和君の告白の時から仲良くしているだけで、クラスの中で一番仲良しだっただけで、私の一年生の時の記憶は、殆ど全て和君で埋め尽くされていたのだから。


「あのね聡子、私からのお願いがあるんだけど」


「何? 中絶なら……」


「違う! 違うったら。あのね、この事、和君に相談しても良いかな?」


「先輩に?」


「うん。和君に」


「それで何かが変わるの?」


「わからない。でも、何か上手くいく方法が見付かるかもしれない。二人で考えるより三人で。三人で考えるよりも四人で考えた方が、何か良い方法が見付かるかもしれないって思って……」


 私の言葉を黙って聞いていた聡子だったけど、そそくさに隅野君の所に行って何かを話している。たぶん、今の私の提案を相談に行ったんだろうけど。


 そして戻って来るなり、「じゃあ、先輩の力、借りても良いかな?」と言ってきた。案の定だったけど、和君、何か良い策持ってるかな? 私は提案した手前、引き下がれなかったけど、また、和君に迷惑な問題を持ち掛けてしまったんじゃないかと、少し不安になってしまった。


(和君、ごめんね。面倒事に巻き込んじゃって……)





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