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二年間  作者: 聖魔光闇
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裏切り

背景描写を省くことで、心理描写に集中でき、感情移入しやすいのではと考えました。


でもそれは、読者様が感じるところ。上手く表現できているでしょうか?








 和君と交際をはじめてもう一年が経とうとしていた。和君の就職先も決まって、卒業まであと僅かな時の事だった。月経は一定の周期を保って続いている。


「なあ美鈴。お前、俺に何か隠し事をしてないか!?」


 放課後の帰り道、和君から突然、言葉に重みのある声で問われたのだ。その言葉の指す意味は直ぐにわかった。でも……、それを和君に打ち明けられなかった。俯いて黙り込むしか出来なかった。その途端、和君は私の手を振りほどくと、「少し距離をあけよう」と言って足早に一人で帰って行ってしまった。私はただ、今まで感じていた手の温もりが消えていくのが悔しくてたまらなかった。


 和君は気付いていたのだった。あの日、バイトの帰り道、バイト仲間である一人の男子から告白され、少し戸惑ったが、今まで和君以外に告白なんてされた事の無かった私は有頂天になり、その男子とあろうことか和君と行っている同じ行為、そう万が一の危険性を秘めた何も装着せず、最後まで私が受け入れるという愚かな行為を、これまた愚かにもバイト先から家までの間にある公園のトイレの中で行ってしまったのだ。その男子こそ、れるなら誰でも良かったのだろう。それ以来、一度も声を掛けて来ない。しかしあの時は、私も告白という衝撃的な出来事に戸惑いつつも、結局、男子の放つ全てを受け取ってしまった。いや、バイト仲間が拒絶するのを無理矢理受け入れてしまったのだった。


 何故その事を和君が知ってしまったのかはわからない。でも行った行為の事実は、塗り替えようが無かった。


 その日を境に和君は、私に話し掛けなくなった。登下校は勿論の事、学校ですれ違っても、顔色ひとつ変えずに挨拶もしなくなってしまった。


 私は悔やんだ。どうしてあの時、あのような愚行に出てしまったのかと。しかし、今のままではいけないと決意して、私は放課後、和君を無理矢理引き留めると、和君の意思など関係無しに和君の唇を奪った。それこそ、下校中の生徒や一般市民の目前で。他人の目もはばからず。


「やめてくれ美鈴……」


 そう言って私の唇を引き離した和君は、涙を流していた。


「ごめんなさい和君。本当にごめんなさい」


 そう言ったつもりだった。でも、和君の口から出た言葉で私は、私を本当に許せなくなった。私が和君を裏切った筈だった。それなのに……。


「美鈴……、ごめんな。俺がお前の事、ちゃんと見ててやれなくて……」


(違う! 悪いのは私! 和君が悪いんじゃない……)


 言葉にしたかったけど、声にならずにパクパクと口が開くだけで喉から息が漏れるだけだった。


「俺が……、俺がキチンと……」


 そう言った途端、和君は私に背を向け、和君の背後にあったコンクリートの壁を殴り、頭を打ち付け、拳から、額から血を流しながら声を殺して泣いていた。


「……!」

(やめて!! やめて! 和君は何も悪くない!!)


 そう叫びたかった。でも声が出ない。どうして良いかわからなくなってしまった私は、結局、和君の腕を強く握り締めて、和君に思い切り抱き付くしか出来なかった。そんな私の腕の中で、和君は「ごめんな。ごめんな美鈴……」と声を殺して、流れる涙を止める事も出来ずに身を震えさせながら泣き続けていた。


(どうして? どうして和君が謝るの? 悪いのは私。和君じゃない。謝らないといけないのは私の方なのに……)


 泣き続ける和君を抱き締めながら、私は困惑した。そして、和君が泣き止み、私の目を見るまで私は和君を抱き締め続けた。


 和君は私の愚行を責めていた訳ではなかった。私を見守れずに、私を愚行に及ばせてしまった自分自身を責め続けていたのだ。


「美鈴……。辛かったろぅ? ごめんな。お前が悪い訳じゃないのに。俺さ、お前の気持ち、考えてやれなかった。美鈴のとった行動を俺はさ、責められないんだ。俺はさ、お前のその時の気持ちわからないでもないんだ。俺もさ、この学校に来るまではモテない奴でさ、たぶん美鈴と同じ立場だったら、たぶん同じ過ちをしていたんだと思うんだ。だからさ、美鈴を責める訳にはいかないんだ。それなのに俺は……、俺は……。美鈴の気持ちを察しもせずに……」


 その後は言葉にならなかったようで、口を閉ざしてしまった。でも私は、そんな和君の言葉に甘える事が出来なかった。けど、上手く謝る事も出来ずに、ただ和君を抱き締め、和君のその涙で濡れた唇に唇を合わせ、和君の舌に私の舌を絡み付かせるしか出来なかった。


(ごめんね。和君、本当にごめんなさい。そして、ありがとう。こんな私をまだ好きでいてくれて。和君、大好きだよ)


 声には出来なかったけど、心の奥底からそう思いながら、私は和君の唇を離す事が出来なかった。気が付けば、私は自分でもわからないうちに涙を流していた。涙は止めどなく溢れ、私自身、どうすれば良いかわからなかった。





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