白煙
足りない、足りない。
ガリガリと頭を掻くとクスクスと笑う声。
姪が俺の部屋に入って来ていて扉を背に立っていた。
そろそろ小学生になる年だというのに、激しくませていて驚かされる事が多い。
俺と深空の関係を知っていて、深空にも懐いているから何かと首を突っ込んでくる。
現在進行形で。
「深空がいないからって、みっともないよー」
全く持って小学生手前の子供の言葉じゃないだろう。
姉は一体どんな育て方をしたのか。
俺は溜息を吐きながら机の引き出しを開けた。
そこに入れられた白いハンカチ。
それは紛れもない俺の愛しい彼女のもので、取り出して中に包まれたものを指で摘む。
細身の煙草だ。
俺は子供の前だとか関係無しにそれに火をつけて咥える。
甘いバニラの香りが部屋に漂った。
「いい匂い」
ほわっと笑う姪が煙草を見つめた。
未成年は駄目だと言えば、成人しても駄目だと思う。みたいなことを言われる。
もう少し可愛い子供らしさがないものか。
それを吸っていると僅かにイライラが治まった気がした。
「でも、そんなタバコだったっけ?」
こてん、と首を傾げる姪を見て煙草を見つめる。
まぁ、俺の煙草じゃねぇしな。
こんな軽くて甘ったるい匂いのなんて、煙草だとは思えないし吸えたもんじゃない。
ふぅっと白煙を立ち上らせる。
「そんなに吸いたくないのに、なんで吸ってんの?」
机の上に灰皿とまとめて置いてある俺の煙草を指さす。
中身はまだ入っていて、それは今吸っているのとは違い重くて慣れてない奴なら噎せるくらいだ。
俺は姪の顔に煙草の煙を吹きかけた。
すると小さく噎せて俺を睨む。
可愛い抵抗だ。
最後までその煙草を吸いきると、俺は笑いながら姪の質問に答えてやった。
「足りないからだよ」
アイツが。
お前も大好きな俺の愛している深空がな。
互いの煙草を交換して、会えない時のエネルギー補給用にしてたがそれも切れた。
早く会いてぇな。
甘いバニラの香りが漂う部屋で俺はお前を思っている。