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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幸せな国

作者: 173

 或る時代に或る国が在りました。

 其の国は幸せでした。とても幸せでした。


 けれど、時々だけ幸せではありませんでした。

 其れは国民が暴動を起こした時でした。

 とても幸せな国の人々は不満を持っていました。

 とても幸せな国は幸せでは無い時がありました。

 そして誰も彼も、其の不満が何であるかを知りませんでした。



 或る時代の或る幸せな国に、或る芸術家が来ました。

 芸術家は驚きました。とても驚きました。


 其の国は時々だけ平和ではありませんでした。

 其れは国民が暴動を起こした時でした。

 とても幸せな国の人々は不満を持っていました。

 とても幸せな国は幸せでは無い時がありました。

 そして芸術家は、其の不満が何であるかを分かった気がしました。



 国民は貪欲でした。

 人間は貪欲でした。

 今に満足しませんでした。


 其処で芸術家は、一つの作品を作りました。

 其れは扉でした。


 国民には、受け入れられませんでした。

 国民の不満は、芸術家へと向きました。

 「誰々より幸せだ、なんて話は聞きたくない。そうだ、我々には我々の不満がある」

 其れは正論でした。


 芸術家は家を壊されました。殺されはしませんでした。国の外へ追放されました。

  「誰々より幸せだ、なんて話をしたくはない。しかし、君達には君達の幸せがある」

 其れも正論でした。


 扉は壊されませんでした。

 扉は地下室に作られていました。

 扉は見付かりませんでした。




 其れから、幾らかの時間が過ぎました。


 或る時代の或る幸せな国は、もう幸せではありませんでした。

 戦争でした。相手は隣の不幸せな国でした。

 其れは、戦争と言うより食事でした。

 食べ物は全て奪われました。

 家は全て乗っ取られました。

 男と言う男は犯されました。

 女と言う女は犯されました。

 人と言う人は殺されました。

 肉と言う肉を削がれ喰われました。

 骨と言う骨を砕かれ飲まれました。

 辛うじて何人かは逃げる事が出来ました。

 其の内の何人かは、あの芸術家の地下室に逃げ込みました。


 其処には扉が在りました。

 何の変哲も無い扉でした。

 扉には紙が貼ってありました。

 紙には何かが書いてありました。


   此の扉は貴方を幸せの地へと導く扉です。

   但し、此の扉で幸せの地へ行こうとする貴方は、或る方法に従わねばなりません。

   先ず、目を閉じて下さい。

   次に、不満を忘れて下さい。

   確かに貴方は不満を御持ちかも知れない。

   しかし此処では一切を忘れてみて下さい。

   そして、今の貴方が持っている幸せを思い浮かべて下さい。

   確かに貴方は幸せで無いかも知れない。

   しかし此処では何かを思い浮かべてみて下さい。

   閉じて、忘れて、思い浮かべたら、扉を開けて下さい。

   開けたら潜って下さい。

   貴方は幸せの地に居る筈です。


 沈黙が、支配しました。

 一人が扉の前に立ちました。

 目を閉じました。扉を開けました。

 扉を潜りました。他の人は見守りました。

 目を開きました。視線を落としました。

 足元を見詰めました。自分の両手を見下ろしました。

 扉を振り返りました。

 もう一度、自分の両手を見下ろしました。

 彼等は全員、扉を潜りました。


 やがて、不幸せな国の人々は引き上げて行きました。

 生き残った人々は扉を地上に運び出しました。

 国は酷い有様でした。

 何もかもが破壊されました。

 其処此処から煙が立ち昇っていました。

 煙は空を覆っていました。

 彼等は生きていました。

 彼等は扉を大事にしました。

 彼等は扉と共に国を再び作り上げました。



 或る時代に或る国が在りました。

 其の国は幸せでした。とても幸せでした。




 とてもとても幸せでした。




―了―

 御笑覧、有難う御座いました。

 いとま潰しの御手伝いになりましたら本稿も私も幸せです。


 どうぞ今後とも宜しく御願い申し上げます。

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