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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

先輩と私

作者: 鳴泉

けぶるような金色の髪。


サファイヤの様な青い瞳。


病的なまでに白い肌。


華奢な肢体を包のは灰色のツナギ。






今夜も完璧に身支度を整えた私は、ガランとした部屋の隅に置かれた長櫃の蓋を開ける。


「先輩~。夜ですよ~、起きてくださ~い」


長櫃の中には黒髪の少女に見えるモノ…もとい先輩がヨダレを垂らしただらしない寝顔を晒している。


「う~、永久の眠りにつきたい」


「ハイハイ、でも死んでないから仕事に行きましょうね~」


いつものように襟首をつかんで長櫃から先輩を引っ張り出す。


どうせ先輩はツナギのまま眠りこけているので、そのまま担いで玄関を出る。






自他共に認める金髪のツナギ姿の美少女が、12~3の黒髪の少女の襟首を掴んで担いで歩く光景は異様なものだろうが、今は深夜の2時過ぎでは見とがめる人間も居ない。


小型の雑居ビルが多い通りの、1件のビルの裏口で警備の人間に要件を告げて中に入る。


ここの警備員は私が先輩を担ぐ姿を見慣れている為、問題はない。







「先輩~。仕事場ついたんで起きましょうね~」


給湯室の監視カメラの死角で先輩の頭を生ゴミの中にぶち込んで起こす。


「sdgほw93うrksdmv:9ぱう:gfjsvhlkvn!!!!!」


我ながら酷い起こし方だと思うが、最近はこうでもしなければ先輩は起きてくれない。


酷い臭い攻撃でようやく起きた先輩を連れてビル内の、主に機械の配線が集中した箇所を見回り、そこに仕掛けた罠を回収し新しいものと取り替えていく。


2~3件のビルでその作業を繰り返す。






「今日も~大量でしたね~♪先輩~」


アパートの部屋で罠にかかった獲物を確認。


空が白み始めているので、後の行動は急がなければいけない。


「しかし、獲物を勝手に処分して、営業許可とか公衆衛生なんとかとかは大丈夫なのかね~」


珍しく先輩が常識的な事を言った。


「この国は~、そのあたりの法律が~あまいから~、多分~大丈~夫です~」


そう答えて、本日の獲物・・・大量のネズミの1匹を掴む。


「前の国は厳しくて苦労しましたけど~、良かったじゃないですか~。それより日が昇る前に食事にしましょう」


「そだね~いただきます」


そう言って先輩がネズミにかぶりつく。


「いただきま~す」


私の犬歯の手前に不自然な乱杭の様な牙が伸びる。


その牙をつかんだネズミの胴体に突きたて、その温かな生き血を啜る。


血の流れ止まった筈の身体に僅かな力が行き渡るのを感じる。


血の詰まった肉塊でしか、ないような骸の体に微かに生を感じる数少ない瞬間。


先輩と私は所謂吸血鬼というやつだ。


自分の死体に魂を縛り付け、現世に留まるために生物の生き血を啜る浅ましい鬼である。







私達の仕事はビルのネズミなどの害獣駆除。


現金収入と食料が手に入り、一石二鳥で活動は深夜という、まさに吸血鬼向きの仕事だと思う。


ただし認可とか許可とかを役所にとっていない、非合法のである。


それでも料金が安いため、何軒かのお得意様がついた。


この国に住み始めて3ヶ月になるが、アパートを借りる際の身分証明といい、この国のルーズさは私達の様なモノには本当にアリガタイ。






映画や小説の吸血鬼はやたら金持ちだったり、強かったりするが実際の吸血鬼はそんなイイものではない。


死体なだけに触覚が無いから、力加減とか分からなくて不便だし。


味覚も無くなったので、食べる楽しみ皆無だし。


嗅覚と聴覚と視覚は出鱈目に鋭くなったが、慣れないうちは苦労した。


陽の光を浴びると灰にはならないものの、体が普通の死体の様に腐敗を始める。臭いとか蝿とか夏場は本当に辛い。


こんな感じだから、霧になったり蝙蝠に変身したりなんて出来るはずない。


超能力とか催眠術なんかも使えるはず無く、あるのはただ怪力のみ。


それも人間が普段セーブして使えない筋肉が、死体であるが故に100%使えると言うだけの話で、この力も慣れないうちは制御に苦しんだ。


大昔は怪力だけでも十分に人間達の驚異足り得ただろうが、銃火器が発達した昨今この力も意味がないものである。


そんな感じだから現代の吸血鬼はとても肩身狭く生きている。


その証拠に出会った時の先輩は、人目を避けるため長年下水道で生活しており酷い臭い、おまけに同胞も無く会話することが無かった為言葉を忘れていた。







朝日が登る頃、寝床の棺桶替わりの長櫃に入る。


「先輩も~朝更かししないで早く寝てくださいよ~」


「うん、(体が)腐る前には寝るから」


私の呼びかけに答えながら、パソコンを起動させる先輩。



 …怪しい。




この国に住み始めてから、身分証明のルーズさもあって私達は初めて自宅のパソコンでインターネットが出来るようになった。


それから先輩がネット中毒気味で困る。


先輩はネットの世界にあふれる物語の吸血鬼を羨み憧れているのだ。


「エターナ○・フォ○ス・ブリ●ード…」


画面に向かいながら先輩が漏らす、先輩の年齢を考えると凄まじく遅れてきた中二病的呟きを聴きながら私は眠りについた。






まあ、ワザと間延びした話し方して「後輩」キャラ作ってる私に言えたことじゃないけどね…。




なんか説明的になりすぎました。


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