兄と家族
「ただいま~」
俺は身体的にも精神的にも疲れきって帰宅した。瀕死の状態だ。キッチンの方からは母さんの おかえり~ と言うのん気な声が聞こえる。とりあえず何か飲もうとキッチンへ向かうと、ダイニングに雅がいて食後のデザートのつもりか幸せそうにプリンを食べている。お前いつの間にプリン買ったよ…。一気に脱力感におそわれる。何だろうこれ。俺は今までいわばこいつのとばっちりで修羅場っていたのに、何でこんなに平和なの?ホントにもう俺疲れたよ…。
「お兄、おかえり~。今日のご飯はエビフライだったよ。」
肩を落としてへこんでいる俺に雅はのんびりとそんな声をかけてくる。お前は平和でいいよな。そんなことを思いつつ俺は適当に受け答えしてそのままキッチンへ。冷蔵庫を開くと麦茶を取り出した。グラスを出すのが面倒で、注ぎ口に口を付けて飲もうとすると後ろから頭をはたかれる。痛ってぇな。頭をさすりながら後ろを振り向くとそこには母さんが右手にスリッパ、左手にグラスを持ち仁王立ちしていた。ちょっそれこの前ゴキ潰してなかった?
「総司。ちゃんとコップ使いな。何回言わせれば気が済むの。」
そう言いながらグラスを手渡してくる。しぶしぶグラスを受け取り大人しくグラスを使う。結局この人には勝てないのだから大人しく従うに限る。
なんせこの人は我が家最強だ。ゴキが出た時も俺と親父がオロオロしてるうちに母さんがスリッパでさっさと叩き潰していた。雅と似たり寄ったりの小さな体のどこからこんな力が出てくるのか。この男前なところが雅は母さんによく似ている。さすが親子というべきか。因みに親父は図体のでかいおっとりとしたおっちょこちょいだ。俺はよく親父に似ていると言われるが、絶対似てねえ。そりゃ確かに多少ドジなところはあるけど、俺は親父程じゃねえ。俺は何もないところで転んだりしない。
「飲んだらサッサと着替えて来て。ご飯出来てるからね。」
「へ~い」
グラスを母さんに渡し荷物を持って二階の自室へ戻る。荷物を適当に放ると、だらっとした部屋着に着替えダイニングに向かった。やっぱりこの格好が一番楽だ。俺が多少リラックスした気分でダイニングに戻ると、母さんがビール片手に晩酌していた。手酌でグイグイ呑んでは
っか~。うまい!!
なんて言っている。あんたはどこぞの中年オヤジか!と突っ込みたいところだが触らぬ神に祟りなし。家の女性陣に関してはもう諦めている。これがデフォルトなのだ。何か言ったら最後集中砲火が待っている。ただでさえ反論できるかわからないのに、瀕死の状態の今では確実にトドメをさされて終わりだ。
俺は諦念の表情で食卓につき夕飯を食べ始める。雅はリビングでお笑い番組を見ながら女とは思えない大声で笑っている。お前それヤバいだろ!百年の恋もさめる勢いだ。いっそこの姿をヤツらに見せてやれば、俺はいろいろなしがらみから解放されるんじゃないだろうか…と真剣に考えてみる。…いや、ダメだ。ヤツらはどんな雅でも嫌いになることは無さそうだ。リビングから聞こえる雅の声は何の悩みもなさそうなのん気な声でいい加減うんざりしてくる。お前誰のおかげで平穏でいられると思ってんだ。
「お兄~。さっきお兄の分もプリン買ってきたんだ。冷蔵庫のプリン食べていいよ。」
あ~もうっ俺は怒ってたんだぞ!こういうことをされるとやっぱり憎めない。可愛い妹だ。結局俺は雅とその周りの野郎どもに振り回されるしか無いんだろう。
仕方ないから嫁に行くまで付き合ってやるよ!ただし頼むから変態の義弟だけは連れてきてくれるなよ。
「お兄~。朝だよ~!早く起きて~!」
朝。今日も雅の声で目を覚ます。昨日よりは早い時間で余裕を持って準備をする。何やかんや言っても朝は雅の声じゃないとすっきりしない。母さんは朝早くから仕事に行くからもういない。親父はまだ寝てるだろう。
ダイニングにおりて、雅の作った朝食を食い家を出る。時間を見ると結構ギリギリだ。やっべえちょっとのんびりしすぎた。俺は少し慌てて校門をくぐり部室に飛び込んだ。何とか間に合い朝練に参加する。何時もの風景だ。しかし部活が終わったとき俺は青ざめることになる。
…携帯が…ない…。
やべえどこに落としたかわかんねぇ。
これがきっかけでまた雅に変態がまとわりつくようになるのだが、それはまた別の話。
これにて兄のお話は終了です。
もしかしたらまた思いついたら書くかもしれません。
その時はまたドジっこヒロインな兄と変態ホイホイな妹をよろしくお願いしますね(*´▽`*)