*目のやりどころ
「素人が警察ごっこか? 怪我しないうちに引っ込みな」
「!」
運転席の男に言われてムッとする。
「奴の言葉は事実だ」
良く通る声で発せられ、健吾も引き下がってはいられなかった。
「あっ、あんたたちだって……イエナさんを巻き込むのは止めろよな!」
「! イエナ……?」
泉は、バックミラー越しに2人を一瞥する。
「彼女に偵察させてるんだろ!?」
「ああ……」
そんなことかと後部座席の仲間にミラーで目を合わせ、返答しない金髪の仲間に肩をすくめた。
「坊やには関係のないことだ」
「誰が……っ!」
身を乗り出した青年に金髪の男は溜息を吐き出し、着替えを始める。
「!?」
健吾は同性だというのに酷く動揺してしまった。
黒いベストを脱ぎ、下に着ていたボディスーツも脱ぎ捨ててシートの後ろにあったバッグから服を取り出した。
整った顔立ちと上品な素振りに心臓がバクバクしてしまったが、引き締まった筋肉がただ者ではない事を窺わせた。
いきなり着替えないでよ、びっくりしたじゃないか……と健吾は目を丸くしつつ見つめていた。
そして、その中には服だけではなく、思わず声をあげそうになったものまで入っているではないか──危うく叫びそうになったが、それを両手で必死に口を塞ぎ食い止めた健吾を尻目に、金髪の彼はそれを取り出して淡々と肩に装着する。
よくテレビで警察が付けているようなベルトを付け、海外ドラマなんかでやっている拳銃を手に取って確認してから仕舞ったのである。
そうしてその上から前開きの半袖シャツを合わせ、脱いだ服をバッグに詰め込んでいく。
「……」
こうも平然とやられると、どう返していいのか解らない。まあ、男だということはこれでハッキリした訳だけど。
「あんまり見てると殺されるぞ。全身凶器だからな」
「えっ!?」
「誤解を招く言い方はよせ」
しかめた顔に、あまり表情があるとも感じられなかったけれど、抗議していることは解った。
「さて、健吾」
「は、はい?」
どうして名前を知っているのか疑問に思ったが、彼女に名乗ったのだから彼らが知っていてもおかしくない。
「我々の事は伏せてくれないかね」
「え……?」
嫌味のない物言いと、落ち着いた雰囲気に少し戸惑う。見たところ、外見は自分とそう変わりないように思えた。
外国の人だからハッキリとは解らないけど。
「どうして泥棒なんか」
必死に声を絞り出し、問いかける。
「お前の知る処ではない」
「……」
随分と時代がかった言い方に眉をひそめた。どこかに違和感がある金髪の男……彼は一体、何者なんだろう。
「なんて呼べばいいの? 本名を言えなかったら……」
「泉」
「!」
言い終わらないうちに運転席の男が口を開いた。
「泉 恭一郎だ。そいつはベリル」
あっさりと応えたことに目を丸くする。
「調べたって何も出てこないぜ。俺たちはそういう立場の人間だ」
「ど、どういう……?」
相手の先制攻撃に、返す言葉が浮かばない。
「あんまり関わると殺されるってこと」
「!?」
「よせ」
ベリルと呼ばれた青年が男を制止する。抑揚のない声だが、ミラーに睨みを利かせていた。
「事実を言わないと諦めてくれないだろ」
「それを信じると思うのか」
ベリルの返しに、泉は肩をすくめる。
「こ、このまま知らんぷりなんて出来ないよ!」
必死に絞り出すと、2人はしばらく沈黙した。互いにミラー越しで会話をしているようにも思える。
そうして、泉が溜息を吐き出し、口を開いた。
「OK、解った。仕事は?」
「あ……バイト明日もある」
「バイトの時間と場所を教えろ。それ以外の時は付き合ってもらう」
「え……?」
いいのかな? なんかあっさり承諾されたようにも感じるけど……チラリとベリルに目を向けると、彼も小さく溜息を吐いていた。





