*2つの光
彼女と別れて部屋に戻り、ごろりと寝ころんで天井を見つめる。
「……」
健吾はずっと考えていた。
彼女の答えがイエスでもノーでも、僕は納得したんだろうか? イエスと答えられたら自首を勧めてた? じゃあノーと答えたら安心してたのか? イエスと答えるまで納得してなかったんじゃないだろうか。
「これじゃ拷問と同じだ」
相手の是非は関係ない、求める結果さえ引き出せればそれで構わないんだ。
「僕はなんてバカなんだ」
仰向けで頭の後ろに組んでいた腕を縮こまらせ、横向きになり丸まる。そのまましばらくじっとしていたが、突然ガバッと上半身を起こした。
「でも……このままじゃ納得出来ない」
言ってすぐ、押し入れから布団を引き出し手早く歯を磨くと、そのままの服装で電気を消して潜り込んだ。
深夜2時──自転車を押している人影が、都心のとある街角で何かを探すようにキョロキョロと頭を動かしていた。
健吾は自転車で都心まで走ってきたのだ。
あることを確かめるために──
「!」
暗い一角に目が留まる。
路地裏に目をやるがそれらしい気配は無く、あちこちを見回した。
「!?」
瞬間、今までにない視線を感じて振り返り見上げる。
「──っ」
3階建てのビルの屋上に黒い人影が薄ぼんやりと見えて、その暗闇の中で2つの輝きが静かにこちらを見つめていた。
健吾は金縛りにでも遭ったかのように動けず、そのエメラルドの双眸は、ただ無表情にこちらを見下ろしていた。
「……っ怪盗」
遠目でほとんど確認出来ないが、男だという事だけはハッキリと解った。
じっと見ていると、黒い影はおもむろにフッと消え辺りを見回すも何の気配も感じられず、ゾクリとするほど冷たかった瞳は彼の心に深く焼き付けられた。
それから、どう走ってきたのかは解らなかったが、アパートに戻って布団の上で立ちつくす。
「……」
何か、とても精神的に疲れた感覚に陥り、健吾は崩れ落ちるように眠りに就いた。
数時間後に目を覚まし、ガックリとうなだれる。
「凄く寝覚めの悪い夢見た」
緑の目をした金色の豹に追いかけられる夢なんて、まったく冗談じゃないぞ……重い腰を上げて洗面所に向かう。
鏡を見つめながら、深夜の出来事を思い浮かべた。
あれは確かに男だった、同じ緑の瞳でもイエナさんとは違う。あんな冷たい目はしてない。そもそも性別が違うじゃないか、何を疑ってたんだ僕は!
「謝りたいなぁ」
しかし、こうは考えられないだろうか──イエナさんは仲間で、店内の偵察をしていたんじゃないだろうか? と……
「……」
解らなくなった。何が真実で何が嘘なんだろう。