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ミッドナイト・キャナル  作者: 河野 る宇
◆第2章~怪盗
5/27

*疑惑

 駅に向かう道すがら、ニュースの内容を反芻はんすうする。

 昨日、盗まれた宝石は『アレキサンドライト』──光の種類によって色を変える宝石だ。この宝石も高いものなら半端なく高い品だが、やはりそれも展示されていたものである。

 店のセキュリティをショートさせ、ものの5分で立ち去っているとか……いつもながらの手際の良さに、警察関係者もぐうの音も出ないようだ。

 身長は170~180㎝と随分アバウト。10㎝も違えばかなり印象も変わるというのに。

「……」

 そこで健吾はピタリと足を止めた。

 もしかして男のふりして……いいや、そんなワケがあるものか! それに、なんで彼女を疑ってるんだよ僕は! 金髪女性も外国人窃盗犯も、ここじゃ珍しくないじゃないか。

 もしかしたら、日本人が外国人に見せかけるために金髪に染めてるのかもしれないし、カツラだっていう可能性もあるんだぞ。

 自分の考えを振り払うように頭を振って、到着した電車に滑り込んだ。


 とある都心の宝飾店の前──女性は、眼前に立つ青年にやや驚きを見せる。

「やっぱりそうなの?」

「なんの事だ」

 悲しげな目を向けて健吾が発すると『エメラルドの君』は眉をひそめて睨みを利かせる。その瞳の色は、やはりブルー。

「こっち」

 ここでは目立って話し合い処じゃない、健吾は彼女を別の場所に促した。女性は仕方なく小さく溜息を吐き出し後を追う。


 移動した場所──互いに顔を見合わせる。

「何故ここなのだ」

「思いつくのがここしかなくて……」

 カフェだと周りの人に聞かれるのが嫌だし、外だとナンパが来そうで僕がヤキモチ──いやいやそうじゃなくて、話を中断されるの嫌だし。

 ということで、ここは漫画喫茶である。個室になっていて、ゆっくりした話が出来ると思った……のだが甘かった。

 部屋は大きい方じゃない、彼女との距離が近くて心臓が早鐘の如くドクドクと静まらなくて汗が噴き出しそうだ。

 ついつい、香りを嗅いでしまう。

「名前聞いてなかったね」

 彼女はますます顔をしかめた。

「あ、僕は渡瀬わたらせ 健吾けんご、24歳です」

 名乗ってはみたが相手に名乗る気はなさそうで、とてつもなく嫌な顔をしている。

 なんだか凹むなぁ……と思いつつ、ここでめげたら終わりなのだと言い聞かせ再び口をいた。

「名前教えてほしいな」

「話す事はない」

 いきなりの拒否に、無言で半笑いのまま固まった。

 やばい泣きそう……健吾は声が詰まって次の言葉が出ない。それを見て、さすがに悪いと思ったのか、彼女が小さく溜息を吐いて視線を合わせた。

「イエナ」

「い、いい名前だね」

 彼女の歩み寄りで、多少落ち着いたのか、詰まらせていた喉から声を絞り出す。

「率直に訊くけど、君が怪盗? ニュースでやってる」

「疑っているのか」

 中性的な声からつむがれた言葉に、少しドキリとした。

「解らない……です。だから、確かめたくてっ」

 真剣な面持ちの健吾に、彼女は合わせていた視線を外して再度、溜息を漏らしたあと、青年へと戻した瞳と共に口を開いた。

「お前は答えが欲しいのではない。己が安心する言葉が欲しいだけだ」

「!?」

 返された言葉に、頭を殴られたような衝撃を受ける。

 そうかもしれない──そこに真実は必要ない。ただ僕自身が、安心したい言葉を待っているんだ。

 固まった健吾を見つめ、イエナは静かに立ち上がり伝票を手にしてレジに向かった。

「……」

 自分で気づかなかった心を見透かされ、彼女を止める事も出来ずにその後ろ姿を消えるまで見つめているしかなかった。

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