表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミッドナイト・キャナル  作者: 河野 る宇
◆第4章~妖艶の獣
10/27

*なんてこったい

 あんな約束したはいいけど……本当に守ってくれるんだろうか。

 健吾は不安になりながらも、アパートに送られてそのまま眠りに就いた。

「お前の勘の鋭さに諦めた」と泉という人は言っていたけど……考えれば、テレビで系列店とは言ってはいたが次に狙われる店は誰1人として知らない訳である。

 その中で直感を頼りに2度も探し当てたのだから、彼らだって諦める他はなかったのだろう。

 そう思うと「実は僕って凄い?」なんて鼻を鳴らしてしまう。


 寝覚めは複雑だった──

「なんかサイアク」

 なんで僕がベリルさんに愛の告白してるんだよ。思い返しただけで鳥肌が……鳥肌、立たないな。

 なんだろうか、あれだけ綺麗だともう性別なんかどうでもいい気がしてくる。

「や、もちろん僕は願い下げだけどね」

 つぶやきつつ洗面台に向かった。

 さすがにホモになる気は無い。いくら綺麗でも男は男、欲情なんかこれっぽっちもしない。

「……イエナさんに会えるかな」

 実はそんなよこしまな考えもあって断固、引き下がらなかったのだ。

「!」

 アパートの入り口に自転車が止められていて、健吾は目を丸くする。向こうに置いてきてしまった自転車だ。

 わざわざ取りに行ってくれたのか、親切な泥棒だなぁ。これからはもう都心まで自転車を走らせなくていいと思うと、少しホッとした。

 真夏に自転車で1時間以上もかけて都心まで走るのは、正直こりごりしている。


 そうしてバイトを終え、近くのファストフード店で待ち合わせる。

 バイト先の店なら店員割引で商品を安くしてくれるけど、顔が知れてると色々と面倒そうなので別の店を指定した。

 ある意味、ここってライバル店なんだけど……それを禁止する規約は無いし「たまに行くくらいは構わない」と言われている。

 この店は2階にも客席があり、椅子のない立ちテーブル席で2人を待っていた。

「よう」

「!」

 現れた泉の手にはアイスコーヒーが握られている。

「あの……ベリルさんは」

「あー、あいつは……っていうか“さん付け”は必要ねぇよ、俺にもあいつにも」

 苦笑いを浮かべてブラックコーヒーを傾けた。

「お。ここだ」

 泉が軽く手を挙げて誰かを呼んだ方向に顔を向けると、視界に入ってきた人物に胸がドキンと高鳴る。

 無言で健吾と泉の間に立ち、持っているポリエチレンのカップをテーブルに乗せた。色からしてアイスティだと思われる。

「イ、イエナさん……」

 青い瞳が健吾を一瞥した。

「次はどこだ?」

「新宿のアウロラという店だ」

 泉の問いかけにイエナは無表情に応える。

「だから名前の付け方に問題はないのかその会社……」

「そろそろ単独では目に付くかもしれん」

 彼女の言葉に泉が、

「! ああ……」と健吾に目を向けた。

「え?」

 意味の解らない青年は2人を交互に見つめる。

「恋人として潜入協力してくれねぇか」

「!? 僕に泥棒の片棒を担げって!?」

 泉の要請に青年は顔をしかめる。

 しかし──

「! 恋人……?」

 はたと気づいてイエナに目を移した。彼女は無言でカップを傾けているが、その仕草がむしろ彼を混乱させる。

 どこか浮世離れしたその美しさは色香を漂わせ、めまいを覚えるほどに健吾の全てを刺激した。

「完璧だねぇ」

 青年の呆然とした表情に泉は彼女を見やり、薄笑いで目を据わらせる。それにイエナは肩をすくめた。

「ウィッグの色も変えたらどうだ」

「面倒だ」

「じゃあカツラにすればいいのに」

「それも考えたがね」

「?」

 2人の会話がいまいち解らなくて首を小さくかしげる。それを見た彼女は、眉間にしわを寄せた。

「何故そこまで気がつかん」

「仕方ないんじゃないの。どうしてかちょっとした化粧だけで女以外には見えなくなるんだから」

「……女以外?」

「よく見ろよ。ブラ付けてねぇだろ」

 泉がイエナの胸を差した。

「……」

 そう言われれば、女性には必ずある胸のふくらみが無いような……

「不思議だよねぇ。じっくり見ても胸が無いことに気がつかないんだぜ。むしろ形の良い胸があるように見えるってのがこれまた謎なんだよな」

「え?」

 だって前にじっくり見た時には形の良い胸が……って失礼な話だけど。

 やや上から注がれる視線に戸惑いながらも、胸に目をやる。確かに胸が無い、それってどういうこと? 頭が目の前の映像に追いつかない。

 無言で健吾を見つめる2人の顔は、ただ呆れているようだ。

「声だってそのまんまだっていうのに、解らないのはもう芸術的としか言えん」

「悪かったな」

 片肘を突いてアイスティを傾ける。

「!? あーっ!」

「声がでけぇよ」

 叫んだ青年に泉が睨みを利かせた。

「ウソだ……」

「ベリルだぞ」

 目を丸くしている青年に、しれっとイエナを示す。

「再確認させないでよ……」

 がっくりと肩を落としテーブルにつっぷした。

「誰かウソだと言って」

「残念だったな」

 しばらく立ち直れそうもない健吾に、泉はニヤリと口角を吊り上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ