act:6 入学前夜
申し訳ありません……ちょっと学校で色々ありまして、投稿が遅れてしまいました。
では、どうぞ。
首都『アクス』近郊のとある山中に、幾重にも張り巡らされた厳重な結界魔術と幻惑魔術に守られた一角がある。
そこに建っているのは一軒の家。山中には場違いな、白い屋根をした石造りの大きな一戸建て。
それがジークの家である。
入学を翌日にひかえた夜、ジークは家のリビングにあるソファーに座り、書類の束に目を通していた。自らが紙をめくる音と虫の声だけがするその広い部屋で、ジークはゆったりとくつろいでいる。開け放した窓から時折吹き込む涼しい風が、彼の黒髪を静かに揺らしていた。
「にーさま。明日の準備できたよ」
そんな静かな部屋に、明るい舌足らずな声が響く。
廊下へと続く扉を、開けっ放しにしたままやってきたのはフィオーネだ。廊下の先ではこれまた開け放されている扉。恐らく彼女はあの部屋から出て来たのだろう。あの一室は、ジークの部屋だ。彼がフィオーネに部屋を与えていない訳ではないのだが、この小さな居候は普段ジークの部屋を利用していた。
ちなみに彼女自身の部屋は物置扱いである。
書類から目を上げることなく、ジークは彼女に返事をした。
「フィー、ドアはきちんと閉めろ」
フィオーネは「わかったよ」と言いながら扉を閉め、トテトテとジークの側に寄ってきた。
「……何見てる?」
「ん~、報告書。例の姫様とやらの情報をな、頼んどいたんだわ、じいさんに」
「じーじ、元気だった?」
「知らん。これをライヒから預かっただけだかんな」
そう言ってパサパサと書類を振る。それを見たフィオーネは、ジークの腕を潜ると彼と書類との間、つまり膝の上に座った。
「ふむふむ」
「おい、フィー」
「減るモノじゃなし……」
言いながらも、視線は書類の上を動いている。
「……はぁ。しゃーねぇな。あんまり動くなよ」
諦めたジークは、小さくため息をつきながらそう言う。
「あいあいさー、だよ」
フィオーネはふざけた調子でそう言いながらも、書類から目を離さなかった。書類がお姫様の現在のプロフィールに至ったところで、ジークはポツリと呟いた。
「格闘術・魔術の実力は高い、ね」
ジークの呟きに、フィオーネが小首を傾げる。
「お世辞?」
それに対して、ジークは小さく笑みをこぼした。
「こんな書面でか? そりゃねぇよ。ほら、続き見てみ?」
ジークが指を差して示した部分を、フィオーネが音読する。
「『せんとーけーけんはないため、戦力としては期待できないと思われる』……だよ」
「ったりめぇだ。訓練と実戦は違う。まぁ、しばらく学院に通えば、使い物にはなるんじゃねぇか? っても、所詮は高貴なるご身分の方だ。あんまり期待はしない方がいいな」
そんな不敬なことを妹分と言い合いながら書類を全て読み終わったジークは、とあるページを開いてフィオーネに見せた。そこには、小さいながらも女性の顔写真が載っていた。
緩やかに波打つ金髪に、エメラルドグリーンの目。細くて筋の通った鼻梁、淡い紅色の唇。ジークと同じ年頃のこの美少女こそ、護衛対象である王女殿下である。
「顔、覚えとけよ。フィー」
「うん」
「入学時にコイツの付近にいる人間もよく見ておきな。それが国王のつけた『護衛の騎士』だ。間違って殺っちまいましたじゃ、シャレにならん」
「わかってるんだよ、にーさま」
その写真を眺める二人の顔は真剣だった。ジークが自らの役目を改めて脳裏に刻み付けていたその時、
「……あ」
フィオーネが小さく声をあげた。
「あん? 何かあったか?」
「ここ、だよ」
フィオーネの白くて細い指が示す先。そこにジークは視線を移し、声にだして読んでみる。
「……『王女殿下はジークと同じ、誇り高い方じゃ。最もお主は嫌われ者じゃが、殿下は皆に好かれとるようじゃのぅ。ププッ』……………………死にさらせっ、ジジイ!!!」
「燃やすの禁止だよ、にーさま。家まで燃えたら大変だよ。」
明日の入学を考えて、不安と緊張でいっぱいの夜は更けていく。
読んで下さっている方、ありがとうございます。
感想等、頂けたら幸いです。
アイディアだけならたくさん出るのに、文章にできなくてもどかしい今日この頃。