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天使たちの鎮魂歌  作者: ちゅう吉
道化師
5/8

act5:思惑

この話を書き始めたのが、中学生のころ。

でも、未だに文才は変わらず、厨二満載の内容が思いつくとか。


……悲しくなる。

 城を後にしたジークは、その足でギルドへとまっすぐに向かった。内心の不機嫌を隠しつつにこやかにギルドの受付を通り抜け、すぐにギルドマスターの執務室へと到着した。


「ったく、面倒なことになったぜ、じいさ―――」


「にーさまっ!」


 いつもとは違い少々乱暴に扉を開けて(周囲に人がいないのは確認済み)中に入ったジークは、突然何かが飛び付いて来た為、言葉を中断した。怒鳴りつけてやろうと思い、正面から首に腕を絡ませぶら下がっている物体に目をやる。


 嬉しそうに目を細めてジークの胸に頬擦りしているのは、小柄な少女だ。さらさらとした銀髪のショートヘアー。透き通るような白い肌、パッチリとした大きな目の色は青。まだ幼いが間違なく美少女だ。


 見た瞬間にそれが誰か気付いたジークは、たちまちその表情が明るくなった。


「フィーじゃねぇか! こんなとこにいるたぁ、今日は仕事か?」


「うん。今日はほーこく。あとじーじの顔を見に」


 嬉しそうに言いながらも、ジークの首にぶら下がり続けている少女。名をフィオーネ・ウィン。ジークの家に住んでいる小さな居候である。


だが、ただの少女ではない。


「【風守】、報告はまだ済んではおらぬと思うが?」


 微笑ましい光景に口元に笑みを浮かばせつつ、目を細めてフィオーネを見やるラグー。


 【風守】。それが、目の前の少女の異名である。彼女はジークと同じ、『朧月』に所属する凄腕の魔術師だ。……仕草や言動が幼すぎて、とてもそうは見えないが。


 兄とのスキンシップに満足したらしいフィオーネは、笑顔のままジークから手を離し、ぴょんッとジークの前に降り立つと、不意に後ろに体を倒してきた。ジークは苦笑しつつ、倒れてきたその体を受け止める。今の彼女は、ジークによりかかり体重を預けている格好だ。フィオーネの身長が140cmほどと小柄なため、彼女の頭はジークの胸元に納まっている。


 フィオーネはその体勢のまま、ラグーに視線を移した。


「ほーこくならした。『動く気配なし。ただ不思議な影あり。ちゅーいされたし』なのだ。」


 少女は腕を組み、誇らしげにそう言う。彼女をよく知るジークには、その言葉と態度から「褒めて」という無言のオーラが見えた。だが、その報告内容では曖昧すぎる。


 再度苦笑しながら、真下の彼女に話しかけた。


「フィー、それじゃわかりにくいぜ? せめて『不思議な影』とやらを具体的に言わにゃダメだろ」


「うむ、もう少し詳しく頼みたいところじゃな」


「ぬぅ……。」


 二人に褒めてもらえず、フィオーネは顔をしかめる。顔を見ずとも彼女が不機嫌になったのを察したジークは、困惑気味のラグーに助け船を出すことにした。


「ま、火急の件じゃねぇんだろ? 先に俺の話から片付けてもいいか?」


「……そうじゃな。【風守】のほうはまた後で詳しく話を聞こう」


 国王の依頼の件を思いだしたラグーは重々しく頷いた。ジークはフィオーネの体を離すと、ソファに腰を下ろす。その首に、フィオーネが当然のように後ろから抱き付いて来るが気にせずに、ジークは国王から受けた依頼について報告した。


☆☆☆☆☆


「ふむ……。姫殿下の護衛とな。これはまた予想外じゃ。」


 一言も口をはさむことなく報告を聞き終えたラグーは、やがて思案顔で呟いた。それにジークは真顔で頷く。


「俺もさ。だけどよ、学院に入って護衛なんて無茶な話だぜ? 下手すりゃ、卒業まで出てこれないなんてことにもなりかねない」


「確かにのぅ……」


「それにだ、今更何かを習うことなんてない。学院なんて大層なとこにも、できれば近づきたくはないんだが」


 そう言って肩をすくめるジークに、ラグーはもっともらしく頷く。


「お主にしてみればそうじゃろうな。学術探求(・・・・)の場に近づきたくはあるまい。しかし、ワシとしては嬉しい話でもあるのぅ」


「あん?」


 どういうことかと問い掛けると、ラグーは申し訳なさそうに彼を見た。


「今まで、おぬしに子供らしい生活をさせてやれんかったからのぅ。そう考えれば、これはこれでよい機会かもしれぬ」


 そうしみじみと呟くのを見て、ジークは一瞬驚いた後、何ともいえない表情をうかべてラグーから視線を外した。


「……『朧月』に空席ができるぜ?」


「構わぬよ。必要とあらば学院からおぬしを呼び出すまでじゃ。実は、アレスト高等魔術学院の長はワシじゃからな。なんとでもなる」


 楽しげに笑うラグーに、ジークは嫌そうな目を向け呟いた。


「……そいつは初耳だ」


「当然じゃ。言ったことがないからのぅ」


☆☆☆☆☆☆


これから始まる学院生活を考えて、嘆きたくなってきたジークだったが、ふと妙案を思い付いた。ラグーが学院長ならば―――


「でもよ、それなら逆に好都合だ。」


「何じゃ?」


「フィーも一緒に入学させてくれねぇか?」


「ぬ?」


 今までの間、ソファの後ろからジークの首に両手を絡めて抱きつき、その左肩にあごをのせていたフィオーネ。目を細めて幸せそうにしていた彼女は、突然名前を呼ばれてピクリと身動ぎした。


「何故じゃ? フィオーネまで連れて行くことはないじゃろう? お主だけで十分足りるであろうに」


「まぁ、な。依頼に関してだけ言えば、俺だけで足りるだろうぜ。フィーがいれば頼もしいが」


「ならば?」


「だが、こいつを一人にして、何日堪え切れると思う? 俺と離れたら、一日で不機嫌になるようなやつが」


「むぅ……」


「最悪、仕事すら放棄して学院に特攻をかける。冗談ぬきで」


 そう言ってフィオーネの髪をぐしゃぐしゃとかきまわす。


「ぬぅ~っ!?」


 頭を振って抵抗するも、フィオーネはジークから離れようとはしない。それを見て苦笑しつつ、ラグーは得心がいったという顔で頷いた。


「……確かにのぅ。能力的なモノだけ見れば、かなり優秀なんじゃが……」


「見ての通り、精神年齢が足りてねぇ」


 ラグーの言葉を引き継ぎ、ジークはわざとらしく肩をすくめる。

       

「ぬぅ。ふぃーは大人だよ。れでー(・・・)だよ。」


真横にあるジークの顔を横目で睨むフィオーネだったが、

 

レディー(・・・・)だ、アホたれ」


 抵抗むなしく、再度乱暴に髪をかきまわされた。


「ぬぅー」


 そんな兄妹の様子をじっと眺めていたラグーは、小さく「仕方あるまい」と呟くと二人に笑顔をむけた。


「わかった。入学書類を用意しておこう」


「サンキュ、じいさん」


「さんきゅ、じーじ」


 たちまち嬉しそうな御礼が二重で返ってきた。それだけでラグーは満足だった。


「なぁに、お易い御用じゃ。」


 ふぉっふぉっと笑っているラグーが、「さて今後は依頼の担当を組み替えねば」と内心ため息をついていたのには、誰も気付かなかった。


☆☆☆☆☆


 それからジークは、今後の依頼の処理についてラグーと話し合っていた。フィオーネはジークの膝枕でくつろいでいる。これから始まるであろう学院生活に話題が移った時、ジークはポツリと疑問をもらした。


「しかし、だ。何度考えても不自然なんだよなぁ……」


「何がじゃ?」


 首をかしげながら言うジークは、いつのまにか真顔になっていた。


「じいさん、よく考えてみ? 同じ年頃の護衛を探すったって、何でわざわざ俺なのかね?」


「それは説明をうけたんじゃろ?」


「そうだけどよ。改めて考えてみっと、やっぱり不自然だよなぁってな、思ったわけさ」


 そこで一呼吸いれる。膝上のフィオーネの髪を愛しげに撫でながら、ジークはラグーに疑問をぶつけてみた。


「騎士団に若いのがいないってわけでもないはずだ。たかが護衛に何故凄腕を、ってので都合がつかないなら、別に見習いでもいいだろうし。一人じゃ出歩けないほど危険、てわけでもないだろ?」


 そう問うジークに、ラグーは頷く。


「加えて、防御結界は王宮とおなじ王国トップクラスっつう話だ。なぁにをあんなに不安がってんのかねぇ?」


 最後の方は誰に言うでもなく、呟くように言った。だが近くにいる耳聡い少女は聞き逃さない。


「不安?」


「ん? あぁ、不安っつうか何つうか……。そんな気がしたんだ」


「ふむ……」


「うぬぅ……」


 フィオーネがのそのそと起き上がり、ラグーに顔をむけた。ラグーも、フィオーネを見ている。


「ひょっとしたら―――」


「じーじ、『あの話』?」


 この少女、ジークにはいつも「精神年齢が低い」と言われている。現にその行動は幼いものが目立つ。だが、一概に精神年齢が低いとはいえない。何故なら、頭の回転はかなり早いのだ。


「ん? 二人には心当たりがあんのか?」


 ジークは驚いて、二人の間で視線を行ったり来たりさせた。フィオーネは人差し指を唇にあてる可愛い仕草をみせた。


「にーさま、これは極秘じょーほー」


「ん?」


「おーきゅーの結界、こないだ破られたよ。被害はなかったみたいだけど。だからとっても焦っているんだよ」


「なっ!?」


 事も無げに言うフィオーネだったが、その内容はかなりヤバイものだ。ジークは驚愕して目を剥いた。一方、大好きな『にーさま』を驚かせて大満足のフィオーネはといえば、胸をはってかなり自慢げだ。


「エヘンッ」


「……どこのどいつだ?」


 慎重に聞くジークにフィオーネは首を横にふった。


「んー、ふぃーは知らないんだよ」


ジークはただ一人の『上司』に確認をとる。


「ジジイ――――」


「事実じゃ。ワシが【風守】に依頼し、得た情報。さらにそれを基にして、【火鳴】にも動いてもらって確かめたのじゃ。間違いはあるまい」


 【道化師】、ジーク・ルドナーが戦闘を得意とするように、【風守】、フィオーネ・ウィンにも得意分野がある。それは、『情報収集』及び『情報操作』。『情報』のエキスパート。それが【風守】たるフィオーネである。彼女がジークにもたらす情報なら、まず間違いはない。


 だが、それでも。


「簡単には信じられんな」


「事実は事実。今も月華(げっか)が動いておるのじゃ」


 そう言われて、ジークははっと辺りを見渡した。そういえば、ライヒの姿がない(・・・・・・・・)


「あいつまで動かすんか……マジなんだな」


「あやつ以上に『潜入』の依頼を上手にこなすものがおらぬのでな。今は報告待ちじゃ」


 ジークは額を押えて俯き、低く呻いた。


「やっぱりありえねぇ。王宮の結界てのは……」


「うん、おーこくで一番だよ」


 いつもの調子で頷いたフィオーネに、ジークは顔をあげる。


「だろ? それを破られるなんて―――」


「こないだね、ばーんってなって破られたの。『風』のせーれーが怯えてたよ」


「……」


 身振り手振りで『ばーん』を示しながらそう言うフィオーネに、ジークは押し黙った。フィオーネがここまで言っているのだ。その情報に間違いがあるはずがない。


「確か学院も同じ結界だよ。じーじも大変だねぇ」


 他人事のように呟いたフィオーネの頭を軽く撫で、ジークは考えてみる。

 王宮の防御結界を破るほどの力。これが必ず敵に回るというわけではないが。最悪の事態は常に考慮に入れておく必要がある。


「……冗談じゃねぇぞ。ありゃ、今の俺でも容易には破れねぇ代物だぜ?」


「ん~、ということは。にーさまさいきょー説はなかったということに」


 小首を傾げてジークを見る。とても愛らしい。だが、ジークにとってはそれは見慣れた仕草だ。問題は言われている内容。


「なっ!?」


 一瞬言葉に詰まる。そんなジークをいたずらっぽい瞳で見つつ、フィオーネは楽しげに続ける。


「いつも言ってる『俺様は世界さいきょー』という看板は取り下げないとだよ。『俺様は世界第二位以下』にへんこーしなきゃ―――」

「どの口がほざきやがるんだ、コラァ!!」


 ジークは手近にあったフィオーネの頭を両の拳でぐりぐりぐりぐり。


「ぬぅ~っ!?」

        

「今のっつったろ? 本気になればできるっつうの!」


 手を離して腕を組むジークに、フィオーネは頭を押さえて涙目になりながら睨む。


「プライドの高さなら多分世界さいきょーだと―――」


「まだ言うかっ」


「ぬぅ~っ!?」


 再び『ぐりぐり』をくらい、フィオーネは頭を押さえて床に蹲った。


「まぁ、いいさ。取り敢えずは気をつけようぜ。それがマジなら、かなり力のつえぇやつがいやがることになる」


「ぬぅ……いたい……」


 重々しく頷くジークの足元で、フィオーネはまだ蹲ったままである。


「いつまでも蹲るな、フィー。学院に行くからには、買い出しやら何やらで忙しくなるぜ?」


「あたまに……深刻なダメージだよ……」


 フィオーネが涙目でジークを見上げる。


「死にゃしねぇよ」


「にーさまならハゲてるぐらいのダメージだよ。……というかハゲちゃえ」


「……またやられたいみてぇだな?」


 拳を見せるジークに、フィオーネは床に『の』の字を書き始めた。


「……おーぼーだよ、独裁主義者め……ふぃーはいつか……虐げられている人民と共に……立ち上がるであろう……なのだよ……」


「訳わっかんねぇこと言ってんじゃねぇよ」


 呆れたジークは、フィオーネを抱き上げると床に立たせる。それだけでフィオーネの機嫌はなおったようだ。嬉しそうにジークのローブの裾を掴む。やれやれと肩をすくめたジークは、ラグーに視線を移した。


「……ったく、前途多難だ」


 疲れてため息をつくジークに、それまで微笑ましく眺めていたラグーが呑気そうに笑い声をあげた。


「ふぉっふぉっ、仕方あるまいよ。何か起きるまでは学院生活を楽しむとよい。入学は一ヵ月後じゃ。用意はしっかりするのじゃぞ。」


「あぁ、そうするぜ。フィー、帰るぞ。」


 フィオーネの頭をポンッと優しく叩き、ジークが身を翻す。


「あいあい、にーさま。」


 フィオーネもラグーに敬礼した後、その後ろ姿を追う。

 フィオーネに開けっ放しにされた執務室の扉が、風に押されてゆっくりと動き始める。それはゆっくりとゆっくりと動き、まるでジークの退路を断つかのように、音を立てて閉ざされた 

いつも読んでくださってありがとうございます。


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