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第5話 Side カーミラ 森のうたげの討伐依頼

 食事を終えるとルミアが仕事の準備を始めてくれた。


「はい、お姉さま」

「ん」


 私が立ったまま両手を広げると革の胸当てと小手を取り付け、ブーツを履かせてくれる。

 ルミアは本当に頭が良い。私一人じゃこんなに難しい鎧なんて絶対に着られないだろう。そもそも私は普通の服すら自分で着替えることができない・・・。


「ありがとう、いつも思うけどこんなに難しいのにルミアは簡単に着せてくれるね」

「好きこそ物の上手なれっていう言葉があってね、好きなことはすぐに上手になれるんだって」


 難しい言葉もよく知っている。私と違って本を読むのが好きで、私が仕事でいない間によく読んでいるらしい。そして私にもよく面白い話を読んで聞かせてくれる。

 それにしても鎧を着せるのが上手いってことは鎧を着せるのが好きなんだろうか。


「ルミアは鎧を着せるのが好きなの?」

「んー、鎧を着せるのが好きなんじゃなくて、私はお姉さまのお世話が好きだから」


 ルミアは時々不思議なことを言う。こんなに手間のかかる大きな子供、しかも姉の世話が好きだなんて。


「そうなの?私の世話なんて手がかかるばっかりなのに」

「それがいいの。はい、できた」


 ルミアがポンっと叩くと着替えは終わっていた。相変わらず手際がいい。鎧やブーツは私の身体にしっかりと固定されているのに、結び目もきつくはなく、動かしても邪魔にはならない。


「腰の袋には回復薬と干し肉、それにお水が入っているから」


 私の仕事は昼までに帰ってこられないことが多い。だからルミアはいつもお昼ご飯を持たせてくれる。

 そして回復薬というのは傷を負ったときに使う飲み薬だ。不思議なことにこの薬を飲むと軽い傷が治っていく。


「ありがとう」


 手を伸ばして優しくルミアの頭を撫でるが、手の下から心配そうな顔を覗かしている。


「気を付けてね」


 私は週の半分くらい仕事に出ているっていうのに、いつまでたっても慣れてはくれない。

 でも逆の立場だったらきっと私も心配で堪らないだろう。


「ん、行ってきます」

「いってらっしゃい」


 そう言ってまたお互いの頬に唇を落とした。


 今日も、生きて帰ろう。


 家を出ると外の木箱にしまってあった剣を取り出し、背中に担ぐ。剣は私の身体より大きくて、かなり重たく、手にずっしりと重みが加わる。当然こんな大きな剣には鞘もないから町中で持ち歩くのはちょっと危ない。

 私はまず森のうたげ亭と呼ばれている町中にある酒場を目指した。私の仕事は酒場に集まってくるらしい。

 目的の場所は家からそれほど離れているわけではないので、程なくして見えてくる。そしてここに来るまで何人かの人とすれ違ったが、誰からも声を掛けられることはなかった。理由は分からないが、この仕事を始めてから私は町の人から避けられるようになったらしい。

 森のうたげ亭は宿もかねており、こうして見ると結構大きい。私は扉を開けて中に入っていった。


「ああ、カーミラかい。いらっしゃい」


 店の主人が笑顔で挨拶をくれる。主人は40歳前後の髭を生やしたおじさんで、私が初めてこの仕事をした時からずっとお世話になっている。家の外で私に笑顔を向けてくれる数少ない人だ。


「おはようございます」


 私も笑顔で挨拶を返す。


「仕事かい?」

「ん、何かある?」

「もちろん。一番いいのが残ってるよ」


 そう言って主人は一枚の貼り紙を取ってきてくれる。


「これだ」


 そう言って紙を見せてくれるが、あいにく私には文字が読めない。でも、いつものことだから内容は何となく分かっている。


「これは、何って書いてるの?」

「バジリスクの討伐さ。どうやら魔獣の森の入り口付近でバジリスクを見た者がいるらしい。その噂を聞き付けて奴の牙や皮の欲しい商人たちがこぞって賞金をかけた。報酬は1000ゴールドだ。どうだ、やるか?」


 バジリスク・・・確か前にも戦ったことがあったはずだ。倒すのに凄く苦労したのを何となく憶えている。

 でも前に1000ゴールドを持って帰ったとき、ルミアがすっごく驚いてたっけ。そのときのルミアの顔を思い出すとついつい頬が緩む。


「やる」


 私はひとつ返事で答えた。


「バジリスクは前にも狩ったことあったな。どんな奴か覚えてるか?」

「ん、確か緑色の硬くて大きなトカゲみたいやつ」


 確か皮膚が凄く硬かったはずだ。前はそれですごくてこずったけど、今度は最初から分かってるし大丈夫かな。


「その通りだ。いつもどおり倒した後にこれを使えば商隊が死体を回収する手筈になっている」


 そう言って主人が手のひらサイズの青い魔法石を渡してくる。どういう仕掛けか分からないけど、これを壊すと依頼人にその場所を知らせることができるらしい。


「分かった、森の入り口だね」


 私は魔法石を受け取り、腰袋へ入れ、きびすを返した。


「ああ、頑張ってな」

「ん、行ってくる」


 そのまま出口へ向かい扉を開けると、暖かな日差しが差し込んできた。


 あったかい。今日も絶好の仕事日よりだ。

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