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第4話 Side カーミラ 最愛の妹

「・・・ま・・・・さま・・・・」


 暖かなまどろみが私を包み込む。


「・・・さま・・・えさま・・・」


 呼んでいる。最愛の・・・が。これはいつものこと。私はその呼び声をもっと聞きたくて意識を覚醒させていく。


「・・・えさま。朝よ。お姉さま」


 でもそんな柔らかな呼び声で優しく揺すられると気持ちよくて、再びまどろみが私を包み込んでくる。

 とはいえ、このままこの愛しい呼び声を無視するなんてできない。

 私は目を閉じたまま優しく揺するその柔らかな手をぎゅっと掴む。


「お姉さま?きゃっ」


 そしてその手を引いて体勢を崩し、倒れてきたところをそっと抱きとめる。


「んー」


 私は目を閉じたまま顔を突き出して催促する。


「もう、お姉さまったら。おはよう」


 そう、いつものこと。こうして妹のキスが降ってくるのは。


 ・・・頬に。


「ん」


 私も妹の頬にキスを返すと、湿った音が部屋に響く。

 挨拶のキスはお母さまが生きていた頃から続けている家族の習慣だった。


「うん、おはよう」


 意識がはっきりしてくると部屋の中をいい匂いが漂っていることに気付いた。


「いい匂い・・・・・・」

「もう朝ごはんできてるよ」


 そっか。いつもながら美味しそうな匂い・・・思わずお腹が鳴るのも仕方がない。


「朝ごはんなに?」


 妹に抱きつくように後ろから軽くしな垂れかかって大きく息を吸い込む。ご飯の匂いと妹の匂いが混ざり合って幸せ・・・・・・。


「パンとスープよ。具はじゃがいもとハム」

「ルミアのスープ、さっぱりしてて好き」


 朝ご飯は毎日妹のルミアが作ってくれることになっている。お昼ご飯も、夕ご飯も。


「でも先に髪梳かそう?」

「ん」


 私がルミアを離してベッドに座りなおすと、ルミアが櫛を持って私の髪をいていく。ルミアが櫛を通すたびに髪がさらさらと綺麗に整っていく。私の髪は白髪っぽく見えるが、ルミアとお揃いというだけで何だか嬉しかった。


「ごめんね、なんにもできない姉で」


 私は本当になんにもできない。あることを除いて。

 ルミアがいなかったら三日でミイラになる自身がある。


「んー、こうやって二人で生活出来るのはお姉さまのおかげだから。それに私、お料理するのもお姉さまの髪をかすのも好きだから気にしなくていいよ」


 ルミアは髪をかしながらそう言ってくれる。私の妹とは思えないくらい本当にいい子だ。


「んー!」


 その言葉があんまりにも嬉しくて思わず振り返ってルミアに抱きつくと、私の体重を支えきれず、案の定一緒になってベッドへと倒れこんだ。ちっちゃいから抱き心地も抜群だ。ふわふわ。でもルミアにちっちゃいっていうと拗ねるから絶対口に出すことはない。


「ちょ、お姉さま、胸、、くるし、息できない・・・」

「っごめん!」


 私はすぐにベッドから飛びのいた。どうやら胸でルミアの呼吸を止めてしまっていたらしい。


「もう、お姉さまったら。さ、朝ご飯食べよう?」


 ルミアは苦笑しながら私に手を差し伸べた。


「うん」


 ルミアの手を取ってベッドから起き上がった。

 私たちの住む家は部屋が一部屋しかなく、広いわけでもないのでベッドからテーブルまでがかなり近い。

 私はルミアにうながされるまま、椅子に座り食卓について手を合わせた。


「「いただきます」」


 私たちは声を揃えていただきますをして、朝食を取り始めた。


「お姉さま、今日はどうするの?」

「んー、今日はお仕事かな。ん、美味しい!」


 今日のご飯もやっぱり美味しい。ルミアは本当に料理の天才だと思う。

 そう思いながらルミアの方を見てみると少し沈んだような顔を見せていた。


「ほら、そんな顔しないで。大丈夫だから」


 きっと私のことを心配してくれているのだろう。私の仕事はいつも命がけだから。それでも私はこの仕事を辞めることができない。


「でも・・・」

「そろそろお薬の残りも少なくなってきたからお金をしっかり貯めないとね」


そう、私は生活費とルミアの薬代を稼ぐために今の仕事を辞めるわけにはいかない。他には何もできないのだから。


「・・・ごめんなさい」

「謝らないの。二人で生活していくためには必要なことなんだから。それに、頭の悪い私でもこうやって仕事ができることに感謝しないとね」


 そう言って笑い掛けるとルミアは涙をためて笑みを浮かべる。


「お姉さまは・・・頭悪くなんて、ないよ」

「ありがとう」


 ルミアの頭を撫でると、涙をぬぐってその可愛らしい笑顔だけを見せてくれる。



 私の名前はカーミラ。このリセの町で妹のルミアと二人のんびりとした毎日を送っている。

 私が物心ついた頃にはすでに父はおらず、お母さまも7年前に病気で亡くなっていた。

 そしてルミアがお母さまの後を追うように同じ病気にかかり、お医者様に見てもらうために私は町中を駆け回った。しかし、私がろくにお金を持っていないことが分かると、どのお医者様もルミアを診てはくれなかった。

 ご飯を食べるのにはお金が必要。病気を治すのにもお金が必要。家に住み続けるのにもお金が必要。お金がないと生きていけないということは私でも分かった。

 そして仕事を探して町中を駆け回ったが、幼い私を雇ってくれるところなどどこにもなかった。

 そんなとき聞こえた町の人たちの噂話。


 曰く「町の近くに魔物が出たらしい」


 曰く「魔物の討伐には報奨金が出る」


 曰く「魔物を倒せば、どんな奴でも金を貰うことができる」


 それが今の私の仕事へと繋がることとなった。

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